『スーパーバッド/童貞ウォーズ』が8/17で10周年!だったので、久しぶりに見返しました。ジャド・アパトー製作の元、セス・ローゲンとエヴァン・ゴールドバーグが脚本・製作総指揮、監督は後に『アドベンチャーランドへようこそ』『宇宙人ポール』『Mr. & Mrs. スパイ』を撮るグレッグ・モットーラ。ジョナ・ヒル、マイケル・セラ、セシ・ローゲン、ビル・ヘイダー、クリストファー・ミンツ=プラッセ、エマ・ストーンら。
※本記事は完全にネタバレしています。
お前は感情で動いている
そしてもちろんお前はどうやって動いていいか知っているだろう
俺はお前の愛を手に入れに出て来たのさ
そして俺はセクシーすぎて止まらないぜ。
ロトスコープアニメーションで作られた、いかにもセックスマシーンな歌詞のバーケイズ『Too Hot to Stop』が流れるファンキーなオープニングとは裏腹に、セス(ジョナ・ヒル)とエヴァン(マイケル・セラ)が「今度登録するならどのエロサイトがいいか?」という朝っぱらから童貞臭い猥談をしている。ただ、彼らはそんなくだらない会話をセスがエヴァンを車で迎えにいく直前まで電話越しで話している。まるで一瞬でも早く会うのが待ちきれない、恋人のように。
『スーパーバッド/童貞ウォーズ』は、このように開幕早々テーマを堂々と明示して始まる。本作は僕をブロマンスというジャンルにどっぷり浸からせる契機となった罪深き作品で、当ブログの名前とバナーを見ればいかに『スーパーバッド』が僕に影響を与えた映画かが分かるだろう。
『スーパーバッド』はセス・ローゲンとエヴァン・ゴールドヴァーグが通ったポイント・グレイ高校時代の思い出を元とした映画だ。主人公二人の名前もまさにセスとエヴァンだし、今やカルチャーアイコンとなったフォーゲル/マクラヴィン(クリストファー・ミンツ=プラッセ)を始めとして脇役や台詞にしか登場しない人物名に至るまで、全ての登場人物が彼らの同級生から名前を取られている。
驚くべきことに、セスとエヴァンは12歳の頃から本作の脚本を執筆してきたという。中学生らしいノリの下品なギャグがまるで照れ隠しのように機能していて気付きにくいが、長いこと温めて来た企画だけに思春期らしい大人になることへの恐怖が本作には生々しく密閉されており、その恐怖が巧みに脚本の中に配置されている。
例えば、セスがティラミスを作る家庭科実習で、いつも実習のパートナーが来ないことを先生に愚痴る。ただ、その時セスは呆れる先生の向こう側に仲良さそうにじゃれあうエヴァンとミロキ*1を嫉妬の眼差しで見る。また、授業で先に席を外すエヴァンに対してセスは一人で昼食を食べたくないとダダをこねる。同性間の心地良い連帯=ブロマンスに浸っていたいのは思春期の特徴だ。
更に、意気揚々と「酒の勢いで童貞を捨てるんだ!」とがっつく割りに、しっかりと避妊具を持ってくるエヴァンを見て何も持っていないセスは狼狽える。一方のエヴァンもせっかく好きだったベッカ(マーサ・マックサイアック)とセックスできそうになる直前で困惑してやめてしまう。ただ単に避妊具を忘れてしまったり、ベッカがベロベロに酔っ払っていたからではない。二人とも童貞を失うことで、何かが大きく変わってしまうことに恐れを抱いているからだ。
男同士でバカ騒ぎをいつまでもしていたい。そっちの方が楽しいし気持ちがいい。ただ、いつかはそんな関係もやめて責任のある大人にならないといけいない。本作の設定時期が進路が決まった高校卒業直前なのも二人の関係がいつまでも続かないことを暗示している。
葛藤する少年たちを導いてくれるのがセス・ローゲンとビル・ヘイダーが演じるボンクラ警察官コンビだ。二人はまともに調書は取れないし、赤信号を突っ走る為だけにサイレンを鳴らすし、飲酒運転は平気でするし、職権乱用するし、とてもまともな警官とは思えない。
しかし二人が未成年と知りながらもマクラヴィンを連れ回したのは、大人になったって楽しめるんだ、大人にになるのも悪くないぜ、と伝えたかったからだ。セス・ローゲンが自分の分身をジョナ・ヒルに託し、代わりに警察官を演じたのは単に歳を取りすぎたからだけではなく、大人になったセスから子供だったセスへのメッセージを伝えたかったからだろう。
だからヴァン・ヘイレンの『Panama』をバックにクライマックスで初めて銃をぶっ放して喜ぶマクラヴィンには童貞喪失のようなカタルシスを感じるし、大人になる覚悟をようやく引き入れたセスとエヴァンが親友よりも女の子を選び、しかし文字通り後ろ髪を引かれる思いでセスが振り返るエンディングは映画史に残ると言っていいほど美しい幕引きなのだ。いつも一緒だった彼らの青春が終わろうとしているのだから。
多分僕たち同じ風に感じているよね
愛って変だよね(追伸 愛してるぜベイビー)
日夜が続く限り
君と君のクレイジーな方法以外
他の生き方は僕にはなかったよ
僕が思い出せる限り君を愛しているよ
君の愛おしい愛の残り火を
二人でどうやって消せるんだって言うんだい、ベイビー
僕にとっては長い長い冬だったけどね、
長年の友人であったベイビー
もう一度愛しあえてよかったよ
そんな大人になることを描いた大傑作『スーパーバッド』から売れっ子となったセス・ローゲンとエヴァン・ゴールドヴァーグだが、彼らが発表する作品はいつも野郎同士でつるむ気持ち良さを主題にしている。『スーパーバッド』のセスとエヴァンと違い、彼らが大人になるのはもう少し先のようだ。*2