バイラル映像帝国

 この夏日本に帰ったとき、朝や昼は特にやることもなく暇なのでワイドショーばかり見ていた。すると世界で話題になったYouTube動画のコーナーが必ず流れる。かわいい猫ちゃんの動画だったり、衝撃の事故映像だったり。「こんなネットに落ちてる動画を流すだけで仕事してるなんて、安い商売だな」と最初は呆れていた。しかし、実はその背景にはバイラル動画で巨額の富を儲けている連中がいることを知って驚いた。

 

 今日、ネットにある複数の動画をとあるメディア媒体に流す許可を得る仕事をした。各動画はネットでバイラルに広がったもので、一般の素人が投稿したものだったため簡単に許諾が下りるものだと思っていた。しかし、それぞれの動画の作者は別人であるにもかかわらず、口を揃えて同じことを言った。「別に僕自身は構わないけど、ジューキン・メディア(Jukin Media)が権利を保有しているから彼らに問い合わせてくれ」

 

 ジューキン・メディアを調べて見ると、2009年に設立されたベンチャー会社だった。LAの小さいアパートで始まったが、現在は3カ国4箇所に支部を置くほどの急成長を遂げている。ではジューキン・メディアは何をする会社なのかというと、バイラル動画の権利を管理する会社なのだ。

 

 つまり、素人がSNSに投稿したとある動画が大きな話題になったり、拡散されかけているとする。するとジューキン・メディアは投稿者に連絡を取り、ライセンシング契約を持ちかける。契約が交わされると例えばTV番組やネット記事がバイラル動画を取り上げたい場合、使用料がジューキン・メディアを通して投稿者に支払われる。ジューキン・メディアは世界中から買い取ったバイラル動画使用権のマージンで儲けて一大帝国を築き上げたのだ

 

 確かに、思わぬ動画が拡散されてしまった投稿主にとってはお金になるし、勝手に広められるよりは著作権元もハッキリするし嬉しい話だろう。しかし、元々タダ同然で作られた動画から莫大な利益を得ているジューキン・メディアには少し嫌悪感を感じる。この嫌らしさの正体はなんだろうと考えてみると、JASRACのやり口に似ていることに気がついた。他人が担いだ神輿に乗ってるだけなのに、零細事業者まで取り立てて大儲けする卑怯さがムカつくのだ。実際、ジューキン・メディアが得た利益のどれだけが元々の投稿者に還元されているか、怪しいもんだ。

 

 でも考えて見ると、例えばポケモンやディズニー、マーベル、スター・ウォーズといったキャラクタービジネスが世界的に強いのは、著作権で儲けているからだ。かつてないほどネットや動画文化が根付いた時代に著作権に目をつけて儲けているジューキン・メディアは、悔しいが賢い。本当は僕も批判ばかりしてないで、そういった金持ち側に回りたいよ、トホホ……。

デジタル時代の著作権 (ちくま新書)

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参考文献