ハリウッドモノポリー

 現在は交渉が中断しているものの、本日ディズニーが21世紀フォックスのエンタメ部門買収を検討・話し合いをしていたことがわかり、映画ファンに衝撃を与えた。

 

 これでX-MENやFFのキャラクターがMCUに!と呑気に喜ぶファンも多いが、『X-MEN』シリーズなんかはグダグダな本編に対してR指定も厭わない自由奔放なスピンオフシリーズが面白いのであって、品行方正でPCな『デッドプール』や『ローガン』なんて一体誰が観たいんだろうか。

 

 そうでなくても、ピクサー、マーベル、ルーカスフィルムと金の卵を産むガチョウを次々と手に入れて巨大帝国を築き上げたディズニーの傲慢さには最近目に余るものがある。

f:id:HKtaiyaki:20171107130338p:plain

 

 まずディズニーはLAタイムス誌をブラックリストに指名して、今後同社作品の試写会にはLAタイムスからの記者を一切招待しないことにした。LAタイムスはアナハイム市とディズニーランドの癒着を指摘したばかりで、その報復だ。批判する人間や組織は徹底的に排除するなんて、そんな独裁者みたいなことが許されていいのか。

 

 さらにディズニーは映画史に残る記録的大ヒットを約束されている『最後のジェダイ』を公開する劇場に対し、チケットの売り上げ65%の取り分と、最低でも4週間スクリーンにかけることを要求している。この要求を守れなかった劇場にはペナルティとして取り分をさらに5%上乗せする。ちなみに通常の作品の場合、スタジオが受け取る金額はチケットの売り上げの55%~60%ほどで、公開期間の制約は最低2週間ほどなので、ディズニーの強気な姿勢が見て取れる。

 

 『フォースの覚醒』が歴代1位の売り上げを出したので、いくらディズニーが『最後のジェダイ』の取り分を釣り上げようと劇場も甘い思いができるかのように見えるかもしれない。しかし実際には「最低4週間」という縛りが小さな劇場を苦しめている。

 

 例えば、アイオワ州の田舎町にある、とある独立系単館劇場の興行主は『最後のジェダイ』の公開をしないことに決めたという。なぜなら彼が住んでいるような小さな町の住民は、大抵が最初の1〜2週間で話題のブロックバスター大作を見てしまうため、4週間もスクリーンを『最後のジェダイ』に占拠されてしまうと商売あがったりなのだ。

 

 この劇場だけでなく、今回の暴挙を受けて『最後のジェダイ』の上映取りやめを検討している劇場は複数あるという。僕もアーカンソーという田舎で留学していたからわかるが、アメリカの映画館にはシネコンが一つあればいい方で、映画館や観たい作品が近くにない場合、劇場のある街まで30分から1時間ほどドライブをしないといけないのだ。

 

 そうすると、結局『最後のジェダイ』が公開できなくて困るのは、楽しみに待っていたのは田舎のファンである。しかし、誰が劇場を責められようか。劇場で働く人や経営者にだって家族や生活があるのだ。大企業が利益を優先しすぎると格差が広がっていくように、ディズニーの傲慢な戦略は都市部で田舎の映画ファンの間にまで格差を作ってしまうのだ。

 

 さらに極論を言えば、今はNetflixAmazonビデオなどネット配信が充実しており、映画館で見れなければ観客はストリーミング開始されるまで待つだけだ。最悪な場合、ネットで違法に視聴する選択を選ぶ人も出てくるだろう。ディズニーは目先の利益を追求するあまり、将来的な業界の利益基盤をも破壊してしまっているのだ。

 

 誤解しないでほしいが、僕はディズニーは大好きである。作品にしろテーマパークにしろ上質なコンテンツを長い年月量産し続けているのは並大抵のことではないし、事実いつもディズニー作品位は楽しませてもらっている。だからといって映画界全ての作品がディズニー化されたら映画というメディアに多様性がなくなってしまうし、札束ばら撒いて好き勝手されてしまうとこの田舎の劇場の例のように、小さなところからジワジワと映画業界を絞め殺していくだけだ。

 

 誰かが止めないといけない。僕らの大好きな夢と魔法のディズニーが、ディストピアSFに出てくような、世界を牛耳る悪徳企業になる前に、誰かが。

 

暗黒ディズニー入門 (コア新書)