米朝首脳会談の記念に、2014年にアメリカ公開されたものの、ハッキング問題で世界中を騒然とさせた映画『The Interview』をレビューしようかな。監督・原案・製作は『ディス・イズ・ジ・エンド』*1のセス・ローゲン&エヴァン・ゴールドヴァーグコンビ。脚本は初期の『サウス・パーク』や『ジ・オフィス』、『ザ・デイリー・ショー』を手がけてきたダン・スターリングで、本作は彼の劇場用長編脚本デビュー作でもある。主演はいつものセス・ローゲンとジェームズ・フランコが務め、金正恩をランドール・パークが演じ、リジー・キャプランが脇を添える。
※日本では鑑賞が見込めない映画なので、ネタバレ全開で書きます。
冒頭にも述べたが、去る6月12日シンガポールで米朝首脳会談が行われた。世界のリーダーと世界有数の独裁者の会合に世界中が固唾をのんで見守った。しかしよく思い返して欲しい。トランプ大統領と金正恩総書記はつい半年前まで「ロケットマン」「老いぼれの狂人」と貧相な語彙力で互いを罵っていたのだ。
こんな子供じみた馬鹿二人のケンカに翻弄される世界、という構造もバカバカしくて笑えるが、そんな状況を見ていると北の独裁者を精神年齢が子供のまま大人になってしまったボンクラとして描いた映画『The Interview』を思い出した。結局日本では公開されずに時が経ち、結局どういう映画か具体的には知らない日本の映画ファンも多いと思うのでこれを機に紹介したい。
史上最悪の馬鹿二人、北へ行く
- 時は2014年、北朝鮮の核ミサイル問題に揺れる国家情勢。「我らが指導者は賢く、優しく寛大で偉大なり。偉大なる将軍様を満足させるため、傲慢で太った馬鹿で悪のアメリカよ死んでくれ!」という国威発揚ソングを少女が歌うオープニング幕を開ける。
- 一方でアメリカ。「スカイラーク・トゥナイト」というゴシップ・レイトショーの司会を務めるデイヴ・スカイラーク(ジェームズ・フランコ)と番組プロデューサーのアーロン・ラパポート(セス・ローゲン)は番組の1000回放送記念を祝してパーティをあげていた。しかし、アーロンは同僚の報道番組のプロデューサーには「下品なゴシップ番組」だと馬鹿にされ、落ち込んでいた。
- なんとか打開策を見つけようと次回のゲスト選びを行なっていたアーロンであったが、デイヴがなんと北の独裁者金正恩がこの番組の大ファンであることを聞きつける。半信半疑でアーロンは出演オファーを行なったところなんと北朝鮮側が「こちらが用意したインタビューの質問にのみ答える」と快諾。ただのゴシップ番組が世界中から注目を浴びることになったが、アーロンとデイヴに近く組織がいた。CIAである。
- CIAのエージェント・ルーシー(リジー・キャプラン)は米国人史上最も金正恩に近づくチャンスを与えられた二人に金正恩暗殺を持ちかける。当然困惑するアーロンをよそに、ルーシーの単純すぎる色仕掛けに翻弄されたデイヴは快く引き受けてしまう。こうしてCIAからの手ほどきを受けた二人は、暗殺用の毒を盛った経皮吸収パッチと共に北に向かうのであった。
- 既にお気づきの方も多いかもしれないが、ここまではいつものセス・ローゲンとジェームズ・フランコがイチャイチャするブロマンスで、基本的な役割も『スモーキング・ハイ』と同じである。
将軍とマブダチ
- 北京経由で平壌に到着したデイヴとアーロンは北朝鮮のプロパガンダ戦略チーフのスーク・イン・パク(ダイアナ・バン)に案内される。ふとリムジンの窓から顔をやると「北朝鮮の人々は飢えている」という報道とは裏腹に、平壌の街には新鮮な食べ物が並んだスーパーマーケットや太った子供までいる。
- 金正恩の豪邸にたどり着いたデイヴとアーロンであったが、デイヴのヘマでいきなり毒入りパッチをボディガードの一人に食べられてしまう。毒が回るのは24時間後ではあるものの、いきなり罪もない人を殺すことになり困惑する二人。
- 宿泊する部屋に盗聴器がかないことを確認した二人はルーシーに連絡すると、ルーシーはドローンで毒入りパッチを積んだコンテナを金正恩邸敷地に落とす。アーロンはそれを拾いに行くが、前から北朝鮮の兵士が!隠し場所に困ったアーロンは、とっさにコンテナをアナルに収納する!絶叫するアーロンに「先っぽが一番痛いのよ…」と妙に経験ありそうな調子で指示を出すルーシー。
- 四苦八苦してなんとか毒を手に入れたアーロン。そんな折にいよいよ金正恩(ランダール・パーク)が二人の部屋に訪れる。憧れのデイヴを前に興奮する将軍様はデイヴに自慢のスーパーカーコレクションや祖父がスターリンから譲り受けたという戦車を披露する。しかし、こうしたコレクションに紛れて実は金正恩総書記はケイティ・ペリーの大ファンであったことが発覚する。「あの…ケイティ・ペリーが好きならゲイって本当かな…?」と恥ずかしそうに聞く金正恩にデイヴは「何言ってるんだ、親父にそんなことを言われたのか?もしケイティ・ペリー好きがゲイだったら、俺はストレートになんかなりたくないね!」と励ます。「Firework」を合掌する金正恩とデイヴはすぐに意気投合し、一晩で二人は大親友になる。
- このように、第二部では今度は金正恩とジェームズ・フランコのブロマンスが展開されるが、ここで明らかにされるのはアメリカ文化への密かな憧憬を持つ孤独な独裁者、という金正恩のキャラ設定である。前このブログにも書いたことがあるが、実際金正恩の父・金正日はハリウッド映画が大好きで映画評論本を出版したこともある。更にヒトラーもディズニーアニメや『キングコング』のファンであったことも知られているが、独裁者が海外のポップカルチャーに夢中であるのに、自国民には触れさせないように禁じるのは独裁国家あるあるなのかもしれない。
偽物の国
- デイヴと金正恩が急接近すると同時に、デイヴとアーロンの関係は急速に冷え込んでいく。新しい友達ができると昔からの親友が離れて行く、というのはブロマンス映画によくある文法だ。しかしアーロンはスークと番組構成を練って行く中で恋仲に発展して行く。
- アーロンへの恋慕の情が募ると共に、スークの中で罪悪感が芽生えて行く。「私はあなたに与えた情報を誇張して書いていました…。ジャガイモの生産量もそんなに多くありませんし、我が国民の多くは飢えに苦しんでいます。我々は貧しい民を騙してきていたのです!」とベッドイン直前に泣き出すスークにアーロン「かわいそうだと思うけど…今思い出さなくてもよくない!?」
- デイヴが免れた晩餐会で、毒を食べてしまったボディガードがゲボトゲリを撒き散らして死んでしまう。その通夜で悲しみにくれる金正恩は怒りながら誓う。「このような事態になったのも、俺を見下す連中がいるからだ。韓国の資本主義者ども、世界にも、そしてこの部屋にも俺が親父に見合ったリーダーになれないと思う連中がいる。もし世界中の連中や我が国民が俺を馬鹿にするのであれば、敵を全て燃やし尽くして俺の力を思い知らせてやる!」なお、全編通して父・正日の威厳に苦しむ息子・正恩という悲哀が感じられる。
- 激昂した金正恩を初めて見てドン引きしたデイヴは、空気を吸いに外に出る。そしてデイヴは平壌の街中であったスーパーマーケットはハリボテで、並んでいた食べ物が木や石膏でできた偽物だったことに気づく。「よくも俺を騙しやがったな!」とデイヴは堂々と照らされている金正恩総書記の看板に向かって叫ぶ。
- 実際の金正恩は徹底したメディア・情報統制により自国民を騙しているが、ここで面白いのは映画内でもデイヴやアーロン=メディアが金正恩に騙されていることだ。目を覚ましたデイヴはアーロンと寝返ったスークと共に、国民の洗脳を解くためのインタビューを決行する。メディアの反逆だ!
ジ・インタビュー
- 「暗殺よりも効果的なのは、将軍が神様ではなくただの人間であることを国民に分からせること」との助言を受けたデイヴは、持ち前のゴシップ番組司会者の腕を通して金正恩を公衆の面前で泣かせることを誓う。一方でアーロンとスークは裏方として番組中継をサポートする。
-
最初は台本通り北朝鮮が用意したインタビューを質問するデイヴ。 しかし途中で舵を切る。「あなたの国の国民は飢えてますね?核ミサイルに8億ドルも費やして、なぜそのお金を食べ物に回さないのですか?」動揺する金正恩に更に畳み掛けるデイヴ。「父親がマルガリータを飲むことやケイティ・ペリーを聞くことがゲイだって言われたって、自分らしく生きればいいんだ」金正恩の目に涙がたまる。「やめろ、親父の話をするんじゃない!」トドメとしてデイヴはケイティ・ペリーの「Firework」を歌い、金正恩は号泣する!「あんたのスーパーマーケットは偽物の食べ物だけだった!あんたの国は偽物だ!そしてあんたとの友情も偽物だったんだ!」と気がつけばジェームズ・フランコの目にも涙が溜まっていた。こういうブロマンス描写演出には相変わらず力が入るセス・ローゲン&エヴァン・ゴールドヴァーグ。
- 将軍の涙(とついでにうんこを漏らした姿)を見た北朝鮮民は動揺する。朝鮮人民軍が放送を止めようと放送室に入るも、アーロンとスークは必死に抵抗する。さらに目を覚ました兵士の手助けもあってデイヴとアーロン、スークはスターリンの戦車を使って脱出する。全世界に間抜けな姿を見られた将軍様は、ヤケになった核ミサイル発射の準備をする!
- そして将軍様自らヘリに乗ってデイヴたちが操縦する戦車を追い詰める。後方からも追っ手がきており、核ミサイルも発車間近で絶体絶命。デイヴは自分が乗っている車が戦車であることを思い出し、将軍様にミサイルという名の花火(Firework)を撃ち込み、ケイティ・ペリーの曲が流れる中将軍様が爆発する!*2
なお、この音楽を使ったクライマックス演出はセスとエヴァンの前作『ディス・イズ・ジ・エンド』と全く同じものだが、将軍の顔が爆発する直前にCGの炎が覆いかぶさっており、あからさまに大人の事情に配慮した編集がなされており、せっかくのギャグを殺してしまっているのは残念だった。 - なにはともあれ、映画としては無事アーロンとデイヴは北朝鮮から脱出し、デイヴはその後この体験談を本にして売り出しベストセラーとなり、スークは北朝鮮の民主化に成功し、アーロンとの恋をようやく使えるようになったSkypeで楽しむのであった。めでたしめでたし。
このレビューを書くために久々に『The Interview』を見返したが、記憶よりもずっとバカな映画で、風刺の要素はあるもののあまりポリティカルな要素は感じさせない内容だった。北朝鮮も当時あんなに騒がなかった方が威厳が保てたんじゃないの、とも思ったが、まあトップが平気で他国の悪口を低レベルで言う国だからなぁ。って、アメリカもか。民主主義国家も独裁国家も馬鹿さ加減は変わんねーな!