『名探偵ピカチュウ』のデザインに感動した

 昨日は『トイ・ストーリー4』のティーザーが公開されたり、スタン・リーが逝去されたり、映画ファン的に感情が大錯綜していたのですが、その原因のもう一つは実写版『名探偵ピカチュウ』の予告編が公開されたことにありました。


 一部のポケモンファンからは批判もあるようですが、ポケモンも映画も両方大好きな僕はこの予告編で期待値が一気にぶち上りました。なんと言ってもピカチュウを始めとしたポケモン達のデザインに感嘆しました。

 

 『ポケットモンスター』シリーズのゲーム開発を行っているのは株式会社ゲームクリーチャーズですが、ポケモンというキャラクター権利を管理しているのは株式会社ポケモンです。ポケモンが予想に反してあまりにも大きな世界的ブームになったため、そのブランドイメージを保持するために作らざるを得なかった会社です。その管理は徹底していて、『カンブリア宮殿』で株式会社ポケモンが登場した回を見ると、例えばイラストレーターが描いた公式イラストのピカチュウの鼻が逆三角形になっているかとか、各ポケモンの指の数があっているかなど、公式設定から逸脱していないか事細かくチェックしていることが分かります。丁度ディズニーのイメージ戦略と似ています。

参考:ポケノート過去ログ06

 

 また、『ポケモン』がアメリカに進出する直前の感触について、現株式会社ポケモンの代表である石原恒和さんは次のように語っていました。

キャラクターの問題はどうですか? 可愛いキャラクターはアメリカでは受けないという通説がゲーム業界にはありますが。

石原>> やっぱりね、ポケモンを最初に向こうで見せたときには「Too Cute(可愛らしすぎる)」って言われたんですよ。そのときにアメリカ側のスタッフが出してきたキャラクター案というのがあって、それはもう生涯誰にも見せるわけにはいかないイラストなんだけど、劇団四季の「キャッツ」のような感じの、たとえばピカチュウだったらトラ猫のような形で、胸が大きいキャラクターに変わってるわけよ。「えっ? これのどこがピカチュウなの!?」って言うと「いや、この尻尾があがってるところが��」みたいなね。

参考:スペシャル対談 田尻智さん(ゲームフリーク)VS石原恒和さん(クリーチャーズ)対談(https://www.nintendo.co.jp/nom/0007/taidan1/page03.html

 畠山けんじによる『ポケモン・ストーリー』という本にもニンテンドー・オブ・アメリカがスケッチしたリザードンの絵が載っていますが、本当にこの路線でアメリカに浸透しなくてよかったと思います。

 

 当然、『ポケットモンスター』シリーズ初の実写化である『名探偵ピカチュウ』で株式会社ポケモンのチェックが入っていない訳がなく、事実予告編で見ても分かる通り株式会社ポケモンは製作会社として名を連ねています。そこでレジェンダリー側としてはどれだけ原作のデザインを踏襲しつつ、現実世界でも違和感が無いデザインにするか、という大きな苦悩がプリプロ段階にあったことは想像に難くありません。『ロジャー・ラビット』や『スペース・ジャム』のようなアニメキャラと現実の人間が共存する世界観でない限り、日本の「Too Cute」なデザインのポケモン達を俳優たちと違和感なく共演させるのは大きな課題だったでしょう。


 すでに製作裏話として、ネットでリアル版ポケモンのファンアートを投稿していたイラストレータのRJパーマーがコンセプトデザイナーとして起用されていたことが明らかにされています。『名探偵ピカチュウ』のプロダクションデザイナー*1がネットで「リアル版 ポケモン」と検索したところ、RJパーマーの名前が出てきたという逸話からも、レジェンダリーはやはりあくまで「リアルなポケモン」にこだわっていたことが伺えます。


 
  ただ、個人的な趣向をいうと、僕はネットでよく見るこうした「リアル路線な〇〇(マリオでもドラえもんでもなんでもいいです)」といったファンアートの類の面白さがあまりよく分かりません。現実の動物や生き物をモチーフにデフォルメしたキャラクターをリアルに還元することにあまり意味を感じないし、元のデザイナーや作り手がキャラクターに吹き込んだアニマを台無しにしている気がするからです。僕が近年のディズニーアニメの実写化作品でもあまりノリきれないのはそういった点で、この間公開された『プーと大人になった僕』で描かれていたプーさんも年季が入っているため薄汚れていて、蜂蜜を素手で食べるもぬいぐるみの毛はベタついてるし、「ぬいぐるみ」なので常に無表情で、リアルさを追い求めるが故に元々のプーさんの愛嬌を殺してしまっていると思いました。

 

 とはいえ、先に書いたようにアニメや漫画を実写化する上での苦悩もわかっているつもりではいます。(アニメや漫画を実写化するな!などという無粋なことを言うつもりは毛頭ありません)あまり原作に忠実にしようとすると邦画の漫画原作映画のようにコスプレ映画になってしまうし、かといってリアルに寄せると二次元のものを実写化すること自体に意味がない。そうした問題を解決するために、おそらくレジェンダリーはデザインするたびに株式会社ポケモンにチェックしてもらう、という作業を死ぬほど繰り返し、弁証法的にこの予告編に見られるようなポケモンデザインが完成していったのではないかと予想します。原作から大きくデザインは逸脱していないけど、しかし実写で動く違和感もほとんどない*2、奇跡のデザインだと思います。ピカチュウなんて瞳の色使いや体型まで原作通りで驚嘆します。

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 実写で生き生きとしたポケモンを描く、というまずは難しい第一関門は突破したと思うので、あとは映画全体の出来がどうなのか楽しみに来年を待ちたいと思います。

 

 

*1:映画全体の雰囲気やルックを美術・小道具面から決める美術監督。『名探偵ピカチュウ』はナイジェル・フェルプスが担当

*2:とはいえ、やはりバリヤードはなんとかならなかったのか、という気もします。元が人間をモチーフにしたポケモンなので相当難易度が高かったのも分かりますが…。