年末ベストテンを選ぶ時期ということもあって駆け込みで映画を色々観ていますが、配信サービスや出張で乗る飛行機内上映のお陰で邦画を観る機会が多いです。最近はNetflixで日本以外で配信されている実写版『BLEACH』を観たっす。
感想は…うーん、やはり漫画の実写化は邦画だとまだまだ厳しいな、と思いました。といっても、ビジュアル面は素晴らしかったです。福士蒼汰演じる黒崎一護はオレンジ色の髪をコスプレ感なく再現していたのは実に見事でしたし*1、邦画界の一流スタッフが集まって撮ったアクションシーンやVFXもゼロ年代の邦画がどうしようもなかった時代と比べたら格段とレベルが上がっており、迫力も十二分にありました。特に巨額の製作費を投じて作った駅前ロータリーセットでの大破壊バトルにはカタルシスすら覚えました*2。
よく漫画の実写化が発表されるとビジュアル面ばかりが叩かれがちですが、このように近年はCGやメイクなどの技術が日々進歩しているので、問題は見てくれではないと思います。ハリウッドは現在マーベル一強ですが、マーベルだってアメコミ=漫画が原作な訳で、世界的にも今漫画映画が流行ってるので乱暴に「漫画の実写化はするな!」言ってしまうのは良くないです。でも僕が『BLEACH』、並びに近年観たつまらない邦画でいつも引っかかるのは会話シーンでの演出です。
例えば、スクリーンショットですが『BLEACH』の会話シーンを見てみましょう。
どいつもこいつも棒立ちで突っ立ってある程度の距離を保って話し込んでいてとても退屈です。酷い時は直前まで手に汗握るバトルをしていたのに、それを中止してわざわざ棒立ちで会話を始めるのです。2015年にアメリカでも公開された『進撃の巨人 エンド・オブ・ザ・ワールド』では敵勢力と味方勢力が一発触発状態で対面する中、ひたすらシキシマとエレンが殴り合うのを周りの兵士がただ突っ立て見ている、という酷い演出もありました。
▲この時点で銃をぶっ放してればシキシマは革命を成功できていたに違いない!
映画はアクションで展開するメディアなので、動きが止まってしまうと退屈に見えてしまいます。とはいえ、もちろん物語には設定やドラマもありますので、会話シーンは必須なのですが、それも観客が退屈しないようにアクションしながら見せていくのが演出であり監督の腕の見せ所です。アクションと言っても何も爆発やカーチェイスや殴り合いが全てではなく、コーヒーを飲みながらしゃべったり、落ち着きなくウロチョロ歩きながら喋ったりするだけでアクションは生まれます。マーベルの会話シーンを取り出せば、そういった基本演出をハリウッドの作り手達が精通していることがよく分かります。
上記は『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』でトニー・スタークがスティーブ・ロジャーズにソコヴィア協定に署名するように説得するシーンです。字面だけで見ると何ともつまらなさそうなシーンですが、このシーン内でトニーとスティーブは歩き回り、小道具を活用し、座ったり立ち上がったり、ジャケットを着たり、首を動かしたり手を動かしたりして、常にアクションが生じていることが分かるかと思います。これはマーベル映画だけでなく、SFでもラブコメでもホラーでもアニメでも駄作でも、どのハリウッド映画を観ても会話シーンに着目すればこの法則が守られていることが分かるかと思います。特に会話シーンが肝のタランティーノ映画なんかは、会話シーンにどういう演出を施しているかを見るだけでワクワクしてきます。
▲デビュー作から会話シーンにこだわりを見せているタランティーノ演出。
▲様々な言語を巧みに操ることで会話を面白く見せるのもタランティーノ演出の特徴の一つ。
でも邦画だって、例えばこの間観た『万引き家族』や『カメラを止めるな!』には退屈するような会話シーンは一切ありませんでしたし、むしろ会話シーンでの演出こそ際立っていたりしました。まあ、これらの映画は両方とも国内外の評価が高い作品ので、そういう基本的な部分で粗がないのは当たり前かもしれませんが、しかしこれが漫画原作の実写になると途端に間抜けな棒立ち演出が目立つわけです。原因を推測すると、悪い意味で原作漫画に忠実すぎるんじゃないかな、と思います。
こちら原作『BLEACH』の1シーンですが、バトル中に会話をしているのが分かります。『BLEACH』は「ターン制バトル」と揶揄されるほど、一話で敵が攻撃して能力を説明する→次話で味方が反撃してまた能力を説明する、といった展開が目立っていました。それは原作だと久保帯人先生の独特なオサレ演出でカバーされていました*3が、これをそのまま実写にしてしまうと真剣勝負中に呑気に会話している間抜けな人たちにしか見えないのです。『BLEACH』に限らず、漫画には登場人物たちがじっくり会話しているシーンは多いですが、それは漫画という静止画のメディアだからこそ確立できる表現手法なので合って、これをそのまま1秒24コマの映画に適用してしまうと違和感が強くなってしまうのです。
でも、漫画実写映画だけでなく、今年観たリメイク版『50回目のファーストキス』も棒たち会話演出が多くて酷かった。邦画でもインディーズ映画や低予算映画にはこうした問題は観られないので、ひょっとしたらメジャー邦画を演出する監督や役者の基本的な技量の問題なのかもしれません。あ、でも大作『シン・ゴジラ』も会話シーンが最高な映画だったなぁ。