許されざる者/『聲の形』★★☆

 年末年始の旅行中に滞在したホテルがDVDレンタルサービスなんて面白いものをやっていたので、2016年に『君の名は。』『この世界の片隅に』と並んで話題となったアニメ『聲の形』を鑑賞、更に直後原作全7巻を読破。 大今良時の同名漫画を原作に『けいおん!』『たまこラブストーリー』の山田尚子が監督、脚本は吉田玲子が担当。主題歌は aikoの「恋をしたのは」、声の出演は入野自由早見沙織、松岡美優、悠木碧小野賢章ら。

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 本作における障がい者の描写については公開当時町山智浩氏とアニメファンの間で大論争が起きたので、ここでは敢えて指摘しない。気になる方は以下を参照されたし。

 

 僕が『聲の形』を面白く観たのは、「一度でも罪を犯した人間は許されざるべきなのか」といった如何にもSNS時代らしい問題を描いているからだ。

 

 例えば、バカな中学生や高校生が若さゆえにコンビニの冷蔵庫に入った写真を自慢げにネットにあげると、一斉にネットリンチが始まり学校まで特定され、下手をすれば親の職場まで電話をかけるやつまでいる。わざわざ電話までかけるそのエネルギーには呆れる他ないが、今の日本社会では一度「悪いやつ」というレッテルが貼られると、その後に続く長い人生を歩むには困難なように思える。

 
 いや、これは日本の問題だけではなく、例えばジェームズ・ガンが昨年『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の第三作目から解雇されてしまったが、その原因は彼が10年ほど前にツイートした悪趣味な上段によるものだった。迂闊な発言や行動がネットに記録として残ってしまうSNS時代、一度でも過ちを犯した者が永遠に石を投げ続けられる状況は世界中で見られる傾向だ。

 

 『聲の形』の主人公石田将也は、小学生時代に聴覚障害を持つ西宮硝子をイジメた過去を持つ。イジメを契機に硝子は転学するが、「西宮さんをイジメた悪いやつ」として今度は将也がいじめの対象となってしまう。虐めは中学まで続き、すっかり人とコミュニケーションをとることが苦手となってしまった将也は、高校でもすっかり空気となってしまい自殺を企てる。自殺前の儀式としてかつて酷い行いをした硝子に謝りに行く、というのが物語の始まりだ。

 

 硝子との再会が将也の自殺を思いとどまらせ、また人として将也が成長するきっかけにもなるが、本作は将也の贖罪の物語である。子供ならではの無邪気さが手伝ってか、小学生時代に将也が硝子に施すイジメはそんな無邪気と言う言葉では済ませられない凄惨なもので、5年経った今でも身体に残るケガも負わせている。今では大きな後悔と罪の意識を背負っている将也は硝子や彼女の周りにいる人たちと会うことで、以前より大分人生が楽しくなっていることに気が付くが、果たして自分が本当に楽しく生きることに値する人間なのか、将也は戸惑い葛藤する。

 

 もちろん、イジメや事件の加害者になることはとても褒められたことではない。しかし、人間は過ちを犯しながら成長する生き物で、どんな罪を負った人間でも更生する機会は与えられてしかるべきだし、それが基本的人権というものだ。本作に対する批判の中には「イジメの加害者と被害者の恋愛映画なんて都合が良すぎる」という意見も散見されるが、まさにそうした批判はSNS時代の時代精神を表象しており、『聲の形』という物語が今作られた理由もそこにある。