トム・クルーズも青ざめる!/『Free Solo』★★☆

 ヨセミテ公園エル・キャピタンのフリー・ソロ・クライミングに挑戦したアレックス・オノルドを追い、昨日の第91回アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を獲得した『Free Solo』を鑑賞。監督はエリザベス・チャイ・バサヒリィとジミー・チン、音楽はマルコ・ベルトラミナショナル・ジオグラフィック製作。

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 『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』はトム・クルーズが自ら命知らずなスタントに挑み、やたらと高いところから飛び降りるシーン満載で観客の肝を冷やしたクレイジーな映画だった。しかし、世の中にはトム以上にクレイジーな人間たちが存在した!ロープなどの安全装置を一切なしで、僅か数ミリの窪みを頼りの世界中の崖を上っていく「フリー・ソロ」の競技者たちである。僅かな判断ミスが即死に繋がるエクストリームなロッククライミングだ。これには流石のトム・クルーズも青ざめる!

 

 そんなフリー・ソロイストの中でも更にストイックなのが本作の主役となるアレックス・オノルド。19歳で大学を中退し、家を飛び出して以来ずっとバンで暮らしながら全米や世界中の崖と言う崖を登っている。生活のすべてをフリー・ソロに捧げており、判断力が鈍るからカフェインも酒も摂取せず、ベジタリアンである(もちろん、飯はフライパンからヘラで直で食う)。一度彼女とロッククライミングした際、彼女のミスで落下してケガした時には「やっぱ恋人はフリー・ソロには邪魔だな」と別れようとしたし、骨折して医者から絶対安静を命じられた2週間後にはもうロッククライミングをしている。筋金入りのロッククライミングバカである。

 

 数々の記録を残してきたアレックスが次に挑むのはヨセミテ国立公園のエル・キャピタン。およそ3200フィート(約975m)の一枚岩で、断崖絶壁という言葉がこれほど似合う地形はない。この映画に出演するロッククライマー トミー・コールドウェルは次のように語る。「この壁を登るためには、オリンピックいうならば金メダル級のパフォーマンスを見せなければならない。そして金メダルでなければ死あるのみ。

 

 そんな前代未聞の挑戦を前にして、本作はドキュメンタリーとしてあるまじき壁にぶつかる。全神経でエル・キャピタンのフリー・ソロに集中したいアレックスにとって、撮影チームがシンプルに邪魔だということだ。視界の先にカメラがあるだけで集中力が削がれるし、撮影隊が万が一小石でも落としたら命の危険に繋がりかねない。これはアレックスのフリー・ソロの物語であるだけでなく、どうやって彼の挑戦を映像に収めるか製作陣が苦悩する記録でもある。監督の一人ジミー・チンが撮影を続けるべきかどうか葛藤するのが面白い。

 

 さて、しかしそこは世界のナショナル・ジオグラフィックである。細心の注意を払いつつ一流の撮影スタッフが自らロッククライミングしながらアレックスを撮った映像はどんな3Dやアクション映画よりも迫力満点だ。鑑賞中は鳥肌が立ちっぱなしで、高所恐怖症の人は鑑賞し通すのも難しいだろう。あまりにも恐ろしい挑戦は、地上から望遠でアレックスを撮っていたカメラマンさえ目を覆っていたほどである。

 

 という訳で、近年アカデミー受けが良さそうな社会性は本作にはないが、ある種の衝撃映像としては圧倒的に面白く、見世物映画として楽しめる。ソロはソロでも『ハン・ソロ*1なんか観てる暇があったら『Free Solo』を観ていただきたい。そして、正直この一文が言いたかっただけなのをここで告白する。

 

Free Solo (Original Motion Picture Soundtrack)

Free Solo (Original Motion Picture Soundtrack)

 

 

*1: