いい加減映画ファンは福田雄一に声をあげろ!

 よく洋画ファンの間で炎上するのは芸人・タレント起用の吹き替えだ。配給会社や広告代理店が話題を呼ぶために旬な芸能人を吹き替えに起用して、作品の質を下げかねない棒読み演技で怒りを買いSNSで大炎上する様は我々映画ファンは何度となく見てきた光景だろう。もちろん、中にはケンドーコバヤシ宮迫博之などの吹き替えがうまい芸人もいるし、ハリウッド製アニメが大抵声優ではなく役者やコメディアンが起用されていることを考えると、タレント起用の吹き替えも一概に悪いとは言えない。

 

 しかし、ほとんどの場合は配給会社・代理店はファン心理など考えずテレビのワイドショーで取り上げられることに最大の関心を寄せているだけなので、タレントの声優としての実力は度外視される。起用されるタレント側も多くの場合作品に対する愛、というよりは数あるうちの仕事の一つとしてこなしているだけ*1なので、三度の飯よりも映画を愛し吹き替えタレントよか映画愛や知識を持つ映画ファンの自尊心を傷つけている。こうした炎上騒ぎが繰り返されるが、背後に大手企業の利益追従の思惑がある限りこの問題は消えないだろう。

 

 僕も大学生のころは芸能人吹き替え問題に関してTwitterで散々文句を言っていたが、とはいえよくよく考えたら僕はまず字幕派で選択肢が無いなどの場合を除いて吹き替え版はほとんど観ないし、アメリカに渡った今となってはいよいよ対岸の火事のような気がして、誠に申し訳ないけどそういった芸能人吹き替え問題にあまり関心を寄せることが無くなってしまった。何か新作映画のマーケティングで炎上するたびに「大変だなー、でも会社やタレント側も色々あるんだろうなー」ともう仏の境地である。

 

 が、そんな仏の僕でも螺髪が逆立ってしまうくらい、これだけは容認出来ない。

 

 今度公開されるDC映画『シャザム!』の吹き替え監修・演出にあの福田雄一が起用されるというのだ。福田雄一と言えば今や業界きっての売れっ子のコメディ演出家だが、僕は現在の日本のエンターテイメント業界において、福田雄一がこれほど重宝される理由が全く分からない。

 

 福田雄一作品は「くだらない」ことを盾にして面白だが何の意味もないギャグを撮ることに特化している。例として、毎度佐藤二朗が登場してブツクサブツクサ変なことを言うやりとりが登場するが、何がしたいのか一切分からない。だが福田雄一にとってはそれでいいのである。いつも同じメンツが登場して、くだらない内輪ギャグを言うのが福田監督作品である、ということが分かる人に伝わればそれでいいのである。

 

 福田雄一監督作品を一度も観たことが無いという人は、わざわざ100円払ってまでDVDを借りる必要はないので、福田雄一が監督した以下の訳の分からない広告動画を観てもらえれば僕の言わんとしていることは分かると思う。もちろん、僅か14分でも苦痛なのでフォートナイトのながら見でも構わない。

 

 不思議なことに、この「分かる人」というのが日本には一定数以上いるらしく、証拠として上記の意味不明な動画には1万ものいいね!を受けているし、興行成績も決して悪くはない。映画は個人の趣向の問題なのであまり指摘したくはないが、僕がツイッターでフォローしている方にも福田作品を褒める人はいる。

 

 何を間違ったか福田雄一は日本でも有数の人気監督として認知され、次から次に仕事が舞い降りてくる。その極みが昨年公開された大傑作『50回目のファースト・キス』のリメイク『50回目のファーストキス*2』であるが、出来上がった作品は原作と比べるのも烏滸がましいほどの駄作と化し、昨年の映画秘宝ベスト&トホホでもワースト9位にランクインした。そもそも論であるが、福田雄一にあの傑作に手を出させてしまった邦画界や映画ファンの罪は簡単には贖えるものではない。 

 

 『50回目のファーストキス』の製作発表会で、福田雄一監督はアメリカン・コメディの大ファンであると語った。なるほど、アメリカン・コメディにはくだらないギャグや下品な会話が多く、そうした部分に福田作品が影響を受けているのは分かる。ただ、福田作品と優れたアメコメ作品で大きく異なる点が一点あり(そしてその一点が途方もなく大きいのだが)、アメリカン・コメディは決してくだらなくない、という点である。

 

 アメリカン・コメディはバカバカしいギャグで彩りつつも、その背後には人種・宗教問題だったり、青春時代のうっ憤だったり、男女差別だったり、社会風刺だったり、大人になり切れない男の哀愁であったり、観客に対する作り手の知的なメッセージが隠されている。しかし福田雄一作品に知性は欠片ほどもなく、そのためにくだらないギャグにはそのまま意味がまるでなく、酷い時にはステレオタイプを冗長する。似て非なる、どころか対極にある存在だ。


 ただ、先述したように、どうせ僕は吹き替え作品なんか観ないんだし、だから福田雄一が吹き替え監修したって別にいいじゃないか、と思う人はいるかもしれない。そもそもまだ『シャザム!』は公開すらされていないので、観もせず批判記事を書くのは時期尚早なのかもしれない。だが僕は話題作りの為に福田雄一が起用されてしまうことこそ問題だと思っている。映画評論家の柳下毅一郎福田雄一監督作品が頻繁に公開される状況を「日本の知的退廃」と呼んでいる*3

 

 今回の起用にあたり、ワーナージャパンは「吹替版をご覧になって『くだらねぇ~』って言って頂くことが最高の褒め言葉かと思っております(笑)」と言っているが、いささか暢気すぎやしないだろうか?このまま製作側や映画ファンたちが福田雄一の「くだらなイズム」をどんどん野放しにしていくと、この国のエンターテイメントは「くだらない」を言い訳に無意味な作品ばかりが量産されてしまう。それどころか『50回目のファーストキス』や『シャザム!』の吹き替えのように、人様の国の優れたエンタメ作品にも馬糞を塗るハメになる。これにハッキリとNOと突きつけるのが日本の映画ファンの責任であり、責務である。

 

くだらなきゃいいってもんじゃねぇ!

 

*1:これはこれで起用されるタレント側の気持ちを考えると可哀そうな気もする。

*2:傑作である原作と区別するために「・」は絶対に入れてはいけない

*3: