DCエクステンデッド・ユニバース(非公称)最新作『シャザム!』を鑑賞。監督は『ライト/オフ』『アナベル 死霊館人形の誕生』などホラーを手がけてデビッド・F・サンドバーグ、脚本は『アース・トゥ・エコー』のヘンリー・ヘイデン。主演はザッカリー・リヴァイ、共演にマーク・ストロング、アッシャー・エンジェル、ジャック・ディラン・グレイザー、ジャイモン・フンスーら。
『シャザム!』はダサい。英語で魔法の合言葉であり、「チチンプイプイ」「開けゴマ」といった意味である。本作の主人公ビリー・バットソンも魔術師シャザムに「我が名を叫べ」と言われ、あまりのダサさに思わず吹き出してしまう。しかし、作り手たちがここで歴史あるヒーローのシャザムを笑い者にしたのは、決して時代遅れなコンセプトに対する自虐的な照れ隠しなどでは決してない。
今やスーパーヒーロー映画は興行収入の大多数を占め、同じヒーロー映画の中でもSFからファンタジー、コメディ、青春映画、ホラー、アニメ…など多岐のサブジャンルに細分化されるほど多様性に満ちている。むしろDC/マーベルの区分に限らず、スーパーヒーロー映画というジャンルは複雑になり過ぎてしまい、『スーパーマン(1978)』や『スパイダーマン(2000)』のような王道的なヒーローものは描けなくなってしまったきらいすらある。
『シャザム!』の登場人物たちは他のDC映画と同じ世界に住んでおり、しかし極めて現実世界に近いフィラデルフィアに住んでいる。そのため他のヒーロー達に言及することを厭わず、それを利点にスーパーヒーローあるあるにもツッコんで笑いを取る。メタ的ですらあり、第四の壁を辛うじて破っていないだけでまるで『デッドプール』だ。
しかし『シャザム!』はヒーロー映画というジャンルを脱構築しているからこそ、逆説的に王道である。最初は「ヒーロー映画あるある」のステップを踏んで、コメディに傾倒し笑いを取りつつも、家族も友達もおらず、独善的で捻くれ者だったビリーは徐々に大切な仲間を手に入れ、正義感に目覚め、国家や組織のためではなく愛する人のために戦う。こまでド正面からスーパーヒーローを描いた作品は近年他にはないのではないだろうか。
だから『シャザム!』はカッコいい。複雑になりすぎていたアメコミ映画界をスーパーパワーで風穴をぶちあけて、単純明快で痛快なヒーロー映画に仕上がった。クライマックスなんて、ビリーが「シャザム!」と叫んで変身するだけでカタルシスを得た。この展開こそ、まさに『シャザム!』がヒーロー映画というジャンルで成し遂げた偉業を表している。