『ダンボ(2019)』が酷すぎたので『バットマン・リターンズ』★★★見返したらやっぱり超傑作だった

  • 表題通り。『ダンボ(2019)』を観た時の怒りは以下のレビューに書きましたので、ご参考までに。余談ですが、『ダンボ(2019)』の後半はNYが舞台で、クライマックスでダンボはブルックリン橋を通るんですよね。あの辺りはNYのダンボ地区というところでありまして、偶然なのかどうかは知りませんけれども、そんなくだらねぇダジャレで来るんだったらこっちもダジャレで対抗してやんよ!ということで、グレイテスト・像マンというタイトルを付けたのですが、すっかりダンボ地区の下りを盛り込むのを忘れておりました。 

  • で、散々『ダンボ(2019)』に呆れてしまったわけですが、上記レビューに書いた通り『ダンボ(2019)』にはダニー・デヴィートマイケル・キートンが出てくるので、だったらいっそ『バットマン・リターンズ』を見返して昔のティム・バートンが如何に独創性に富んでいたか思い出そうじゃないかと、去年ブックオフで衝動買いした「バットマン&スーパーマン 9フィルムコレクション」セットを買ってたので、これを機に開封して観てみました。

  • 余談ではありますが、この「バットマン&スーパーマン 9フィルムコレクション」セットはノーランやデヴィッド・S・ゴイヤーがDCに関わる前の『バットマン』&『スーパーマン』シリーズを全作品まとめた超お得なセットです。仕様には一切書いていませんでしたが、僕のPS4が日本語設定のためか再生してみると日本語字幕が表示されたのも驚きでした。多分日本でも昔販売されていたと思いますが、今amazonで検索したら見つからなかったので是非輸入盤でも購入することをお勧めします。今だったら9枚入り$50くらいなんで、一枚辺りの単価は600円くらいの超大特価です。
  • 『ダンボ(2019)』のレビューで『バットマン・リターンズ』を引き合いに出していたのに、観返してみると結構忘れていた場面があることに気が付きました。悪役ペンギンの誕生をダニー・エルフマンのテーマ曲に乗せて哀しく描くオープニングからして既に超ザ・ワールド・オブ・ティム・バートンって感じで、(当時の)バートンはやはり相当社会からはみ出されたモンスター達にいかに同情を寄せていたことが伺えます。もう『シザーハンズ』とか『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』*1の世界じゃん。

  • なお、このタイトルデザインを担当したのはロバート・ドーソンという方で、ティム・バートン作品では他にも『ビートルジュース』『シザーハンズ』『マーズ・アタック』『エド・ウッド』『スリーピー・ホロウ』『猿の惑星』『ビッグ・フィッシュ』『チャーリーとチョコレート工場』『アリス・イン・ワンダーランド』を担当していて、バートンがかなり信頼を置いていたデザイナーであることが伺えます。ちなみに『バットマン』のタイトルデザイナーはリチャード・モリソンでしたが、続編を任せれた際にわざわざロバート・ドーソンを呼び戻したということは、やはり『バットマン・リターンズ』はティム・バートンにとってフランチャイズに囚われない、よりパーソナルな作品だったからではないでしょうか。
  • じつは、プロダクション・デザイナー(美術)も前作の『バットマン』を担当したアントン・ファーストから、初期バートン作品常連のボー・ウェルチに代わっています。アントン・ファーストは『バットマン』で陰惨なゴッサムシティを作り出し同作でアカデミー賞最優秀美術賞を獲得したほどの才人ではありますが、コロンビアピクチャーズとの契約上『バットマン・リターンズ』には参加できず、また妻との離婚を契機に薬物・アルコール依存に陥ってしまい、1991年に飛び降り自殺してしまう、という大変痛ましい悲劇があったからです。しかし、ボー・ウェルチにデザイナーが変わったことで、結果的に『バットマン・リターンズ』にはバートン的世界観がより強く反映されることになったと思います。
  • さて、やっぱり記憶に残っているようにペンギンが哀しきモンスターでした。なんていったって犯行動機は「ずっと下水で暮らしていたから表の世界に出たい!」「自分を捨てた両親に会いたい!」という実に切実なもので、どうしてこんな相手をボコボコに出来ましょうか。ヒーロー映画は好きなジャンルなのであまり作品ごとの優劣をつけたくはないですが、昨今のアメコミ映画は基本世界征服とか過激なエコロジーテロとかやたらと目的が壮大なものばかりですが、ペンギンくらいパーソナルな方が心に残ります。クライマックスも文字通り「リア充爆発しろ!」という犯罪計画で、その邪魔をしに来るバットマンが憎いです。
  • というか、すっかり忘れていましたが『バットマン・リターンズ』のペンギンもおどろおどろしいサーカス集団を率いていました。より一層『ダンボ(2019)』のサーカス描写の酷さが際立ってしまう…。
  • 当然ペンギンも可哀そうなのですが、見返すとセリーナ・カイル=キャットウーマンも「はみ出し者」としてティム・バートンが力を入れて演出していたことに気付きました。なんたって、ただのはみ出し者どころか完璧にセリーナは男性社会の被害者として描かれていました。男社会に圧迫され、男に殺され、男への復讐者として復活するキャットウーマンの格好良さは、彼女が切るラテックスのスーツのようにどす黒く照り輝いています。
  • というか、これもすっかり忘れていましたが、キャットウーマンを演じたミシェル・ファイファーってアントマン』シリーズの初代ワスプじゃないですか!ウルトラゴス哀しいキャットウーマンから、女性のポジティブな強さを体現するワスプまで演じられるミシェル・ファイファーの演技力の幅の広さは素晴らしいです。
  • ペンギンもキャットウーマンも圧倒的マイノリティです。彼らが対峙するバットマンは白人男性で更に億万長者でもあります。普通の映画だったら、一体どちらの方が悪役だというのでしょうか。
  • と書いていて、意外とこの構図は『ダンボ(2019)』でも再現されていることに気が付きました。ミシェル・ファイファーの代わりにゴシックなオーラをまとい最近のバートン作品のミューズであるエヴァ・グリーンが登場しますが、ダニー・デヴィートエヴァ・グリーンはダンボを助けるいい人たちで、マイケル・キートンは悪者でした。ただ、こちらはストレートに善悪を描いてしまっていたので、『バットマン・リターンズ』は捻じれたヒーローとヴィランの関係性を描いたことでも優れていると思います。
  • さて、この映画には可愛らしい本物のペンギンちゃん達が素晴らしい演技を披露していますが、ロケットを巻き付けられているので動物団体から抗議が来たそうです。しかし、ワーナー・ブラザースのペンギン管理は抜かりなく、ペンギンを運ぶ飛行機の気温は7度まで下げられ、ハリウッドでの撮影ではペンギンは冷蔵トレーラーと専用スイミングプールが与えられ、毎日500kg近い氷と港から直葬の新鮮な魚も届けられ、それはそれは一流セレブ並みの待遇だったそうです。なお、ラストで悪役ペンギンを水葬するペンギンちゃん達は、小人役者が中に入っていた着ぐるみです。この哀しさもすごくいいんだよな〜。

  • と、『バットマン・リターンズ』はティム・バートンらしさが全開な作品でしたので、一度もご覧になったことない方はこの機会に是非オススメします。『バットマン(1989)』を観ていなくても全然理解できます。最近のティム・バートンも大人になってしまわれたと思いますが、 もう一度この頃の陰鬱とした、しかし愛くるしい作品を連発していた時期を思い出して次の映画を作って欲しいですな。

*1:なお、よく誤解を招くが、『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』の監督はヘンリー・セリックである。ティム・バートンはストーリー原案並びにプロデューサー