鬼か!

 元来食っても太らない体質で、マクドナルドなどのジャンクフードを愛し、「食事制限してストレスを貯めるくらいだったら、好きなもん好きなだけ食って幸せに早死にする」というのがモットーであった。

 

 しかし、体は順調に歳を食っているようで、ここ最近腹のたるみが顕著になって来た。度重なる出張では仕事先の人がアメリカでの食事の量を甘く見積もり、誤って料理を多めに注文しては余らせては「若い者は遠慮せず食えよ!」という押し付けがましい食ハラで全て僕に回す、という日々が続いていた結果、気がつけば学生時代からなんと7kgも太っていた。情けないのは腹以外の部分は細いままなので、まるでE.T.のような体型なのだ。

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 先日、寒々とした天気の中で凍えながら海に入った写真を笑えると思ってインスタグラムに投稿したところ、僕の意図を汲んでくれた人は少なく、代わりに一番多い反応は「太ったね」「やばい」といったものだった。こ、このままではやばい!昔の体型のゴーホームしなくては!

 

 という訳で、今週から出張先のホテルのジムでランニングを始めた。NYに帰ってからも継続しようと決め、ちょうど昨日購入したAppleWatchが届いていたことも追い風となり、飛行機疲れもなんのそので早速ランニングをすることにした。AppleWatchのランニングタイマーを30分に設定し、おお、これは便利な買い物をしたなと満足していた矢先、

 

 

開始5分で盛大にコケた。

 

 

 ガタガタになっていた道路で、アスファルトが掌の皮を深くえぐり、小指の肉の部分が引っかかって少し爪が剥がれた。暗闇でも分かるくらい血塗れである。横に車が停車していたが、地面に叩きつけられた東洋人を見てビックリしたドライバーの顔を今でも鮮明に覚えている。

 

 イッッッッッッッテェェェェェェ…!!!

 

 ひとまず傷口にばい菌が入らないように手を洗わなければ。近くのランドリーに駆けつける。

 

「いらっしゃい」とオーナーのおばちゃんがカウンターで挨拶をする。

 

「すみません、トイレはありますか?」

 

「あんた客?客じゃなきゃ使わせないよ」

 

「いえ、ランニングをしていて転んでしまいまして、手を洗いたいのですが……」

 

ここで同情を誘うために血塗れになっている右手を見せた。そしておばちゃんはしかめっ面をしながら、

 

「客じゃなきゃ無理!」

 

 

と僕を追い出した。

 

……いやいや、鬼か!

 

身も心もズタズタに傷だらけにされた僕は何とか血を口で吸い捨てながらひとまず30分完走し、部屋で一人泣きながら消毒&絆創膏を貼るのであった。