驚異的なハイパーリアリティ/『ライオン・キング(2019)』★★☆

 ディズニールネサンス期の名作をリメイクした『ライオン・キング』を鑑賞。監督は『ジャングル・ブック』のジョン・ファヴロー、脚本は『パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊』ジェフ・ナサンソン、音楽はオリジナル版から引き続きハンス・ジマー。主演はダニエル・グローバー、共演にセス・ローゲンキウェテル・イジョフォーアルフレ・ウッダード、ジョン・オリバー、ビヨンセら、そしてムファサ役にオリジナル版から引き続いてジェームズ・アール・ジョーンズが再登板。

f:id:HKtaiyaki:20190809123426p:plain

 

 ここ最近のディズニーの自社作品リメイク路線には度々辛口に評してきた。『アリス・イン・ワンダーランド(2010)』『ダンボ(2019)』*1のようにオリジナル脚本で実写化した結果原作が持っていた素晴らしい魅力・テーマを台無しにしてしまう作品もあれば、『美女と野獣(2017)』*2『アラジン(2019)』のように原作をほぼそのままなぞっている作品はアニメーションが持つ自由度を実写の重力によって縛っており、実写化する意義をあまり感じられないからだ。

 

 その点で言えば『ライオン・キング(2019)』の脚本は9割1994年版と同じである。原作が88分のところ今回は119分になっているので、原作にはないシーンや台詞がちょっとだけ盛り込まれてはいるが、それでも基本的なストーリー展開、登場する歌*3も原作と全く変わらない。そうなってくると先に述べた作品同様「果たしてリメイクする意義があるのか?」という疑問が湧くが、『ライオン・キング』はプロットがほぼ同じであるため、逆に恐ろしいまでにフォトリアリスティックなCGの凄さに目を奪われることになる。

 

 ディズニーとジョン・ファヴローは『ジャングル・ブック(2016)』*4で用いた映像技術を『ライオン・キング(2019)』で使い、動物ドキュメンタリーと見間違いかねないハイパーリアリティを提供している。しかもただリアルなのではなく、原作の数々の名場面をCGで再現しており、高橋ヨシキ著『暗黒ディズニー入門』での『ジャングル・ブック(2016)』評を引用するならば、ライオン・キング(2019)』の「画面には偶然の要素が写り込んでいない」のだ。

 

 昨今のハリウッド映画はCGの多用が前提なので、観客も批評家も簡単に「どうせCGでしょ」「あの映画はCGだらけ」などという批判を使うようになってきた。しかし、当たり前だがCGは勝手に生成されるものではない。草葉の一本一枚、木の幹の曲がり具合、水滴の滴り具合、動物の毛一本一本に至るまで、ライオン・キング(2019)』に見える要素には全て人間の意思と計算が組み込まれている。これは伝統的なアニメーション製作でアニメーターが線画を一本一本描いていることと本質は同じである。更に『ジャングル・ブック』や『ライオン・キング』のリメイクにはワンショット・ワンカットに「『決め絵』イズムや『画作りへのこだわり』が細部に至るまで追求されている」*5点において他のディズニーリメイク映画、引いてはハリウッド大作と一線を画した映像体験を提供しており、観客の「現実」と「幻想」の認知感覚を大きくグラつかせる。

 

 しかし、ハイパーリアルであることの難点が一つあり、『ジャングル・ブック(2016)』と異なり『ライオン・キング(2019)』には人間は登場しないので、全て動物たちが台詞を発したり楽曲を歌う。ところが、動きや表情まで徹底的に現実の動物に即して描いているので、喜怒哀楽が非常に分かりづらく、観客の感情移入を妨げてしまっている問題点がある。また、ミュージカルシーンも原作の外連味は抑えられて極力地に足がついた演出なので、とても地味に見えてしまう。『ジャングル・ブック(2016)』は実写の役者を起用したモーグリを介してそれらの点をカバーできていたので、『ライオン・キング(2019)』もうまい具合にデフォルメできれば良かったが、そうするとフォトリアリスティックに動物や自然を描いている意味がないので、確かに難しいところではある。

 

 もう一つ難癖をつけるならば、本作には僕の大好きなセス・ローゲンがプンバァの声を担当しており、ティモンとプンバァによりマリファナ吸って常にハイな自由人感が出ていてそれはそれで良いのだが、セス・ローゲンがあまりにも音痴すぎる!しかしまあ、そういったいちゃもんを差し置いても、『ライオン・キング』の驚異的な映像体験は是非とも劇場で味わってほしい。

ライオン・キング (オリジナル・サウンドトラック)

ライオン・キング (オリジナル・サウンドトラック)

  • アーティスト: ヴァリアス・アーティスト
  • 出版社/メーカー: Walt Disney Records
  • 発売日: 2019/07/12
  • メディア: MP3 ダウンロード
  • この商品を含むブログを見る
 

*1: 

*2:

 

*3:一曲だけオリジナル楽曲があったが、ちょっと現代ポップの意向が強過ぎて浮いてしまっているのは残念だった。

*4: 

*5:『暗黒ディズニー入門』高橋ヨシキ著 「第七章 ジャングル・ブック」より