『サウスパーク』S23E7「Board Girls」

 すっかり今シーズンも終わってしまい遅れて恐縮だが、今回の感想はストロング・ウーマン副校長フィーチャー回。前話でそしてテグリディー・ファームの連作が終わったので、今回のテーマ曲はPCベイビーズ!

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 全校集会で学校中の女子児童を励ます為、PC校長はストロング・ウーマン副校長が今年もサウスパークの女子アスリート大会に出場する事をアナウンスする。ウーマン副校長はこの大会を連覇するチャンピオンなのだ。筋トレに日々励みやる気に満ちたウーマン副校長と彼女をサポートするPC校長だが、当日大会に行くと明らかに男性ホルモン満々でムキムキマッチョな参加者が現れる。

「イエァーッ!!俺様の名前はヘザー・スワンソンだ!!俺様が他の参加者の女どもをボコボコにしてやるっ!!」

 予想斜め上の参加者に皆ビックリで、司会者が改めて聞く。

「えっと、スワンソンさん、つい2週間前にトランスジェンダーを告白したとお聞きしましたが?」

「俺のジェンダーの話をしに来たのでは無い!!早く他の女どもと競わせろッ!イエァーッ!!」

「スワンソンさんにかける言葉はありますか、ウーマンさん?」

「え、えっと、幸運を祈ってるわ、スワンソンさん」

「運だぁ?運なんてもんは弱々しい男どもの為にあるものだ!イエァーッ!!」

 かくして始まった大会だが、当然スワンソンが他の参加者達を圧倒し一位を勝ち取り、ウーマンは二位。憤るPC校長とウーマン副校長だが、反PCな事を言えばPCベイビー達が泣き止まないのでグッと堪えるしか無いのであった。

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 一方、サウスパーク小学校達の放課後クラブでは、カートマン達がロールプレイングボードゲームに興じていた。するとギャリソン先生がニコールとタミーを連れてくる。

「今日からこの子達もクラブに入れてあげなさい」

「え、へへ、えー、絶対ダメです」と当然カートマンは反対するが、学校のポリシーで認められない。

「女にボードゲームができるか!」と舐めてかかるカートマンだが、女の子たちはプロ前の腕前でボードゲームを圧勝する。後日ギャリソン先生に文句を言いに行くカートマン。

「あの女どもがクラブに入ってからというもの、全く不公平になった!アイツらはルールを利用して勝ち続けやがるんだ!オイラたちはテーマを楽しんでるんだが、アイツらは勝つ為にやってる!これじゃただの数学だ!」

「…つまりエリック、女の子達の方が賢くてゲームが上手いという事なんだね」

全くギャリソン先生に聞き入れて貰えなかったエリックは女の子たちがついてこれないようにボードゲームからミニチュアゲームに変更してみるが、女の子たちは自前にリペイントしたミニチュアを持参。ゲームに勝つどころか他の男の子たちも味方につけ始め、窮地に立つエリックはバターズとスコットを連れて議会まで乗り出すのであった。

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 さて、落ち込んでいるウーマン副校長とPC校長の元へヘザー・スワンソンがやってくる。

「あ、こ、これはスワンソンさん…どういったご用件で?」

「イエァーッ!あまり落ち込みすぎて無いか様子を見に来てやったぜ!」と、スワンソンがその手に掲げるのは大会のチャンピオントロフィーだった。

「そ、それはどうもご丁寧に…でも今は子供の相手をしないといけないので」

「子どもだって?俺様に見せてみろ!」

ズカズカと家の中に入ったスワンソンは子供たちをあやす。

「イエァーッ!可愛い子たちじゃねーか!五ツ子の面倒が見れるなんて貴様らの母親は余程強いに違いないな!当然、優勝トロフィーを持ってるのは俺様だがなッ!」

PC好調の堪忍袋の緒が切れる。

「おい、良い加減にしろ!さもないと…」

「さもないと何だ?さまないと俺を殴るのか?このトランスフォビア野郎!」

性差別主義者だと思われては子供たちが泣き始めるので口をつぐんでしまうPC校長。

「だと思ったぜ!あばよ子供たち、たまにはヘザーおばさんのところは顔を出してくれよな!本当のストロング・ウーマンが何か見せてやるぜ!」と言いたい放題に去っていくスワンソン。

「どうしてあいつはこんなにも君に敵対心むき出しなんだ!」と憤るPC校長だが、「あの人は私のことを知ってるの…あの人は私の元カレなの!」と衝撃の事実を耳にする。スワンソンはトランスジェンダーを盾にストロング・ウーマンに復讐することが目的だったのだ…。

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 今回の『サウスパーク』はPCによって語りにくくさせているトランスジェンダーのアスリート問題を扱っている。もちろん、このエピソードで取り扱われているのは極端な話であるが、PC文化は本来議論すべき繊細な話題を語りにくくさせているのも事実だ。つい先日当ブログでも書いたが、本来PCとは文脈において適応させるべきものであって、あまりにも自動的にPCを適用させていくと議論の首を締めてしまう危険性を説く傑作エピソードだ。本エピソードの最後にPCベイビーがある成長を見せるのは素晴らしい。

 

 また、このエピソードが放送された際、案の定「性差別だ!」とソーシャルジャスティスウォーリアーズの人たちが憤慨したが、やはり文脈でこのエピソードを見ていない証拠だ。だって女の子を馬鹿にするカートマンやトランスジェンダーを利用するヘザーこそが間抜けだって事を描いたオチを全く見ぬけていないのだ。このエピソードに登場する女の子たちはボードゲームや数学が得意で複雑なルールをすぐ覚えられて、これは一般的な女の子へのステレオタイプ像とかけ離れており、トレイとマットが非常に「政治的に正しい」作家であることの証拠なのだ。