今週の『テラスハウス』は番組史に残る、緊張度の高い回だった。あまりにも緊迫しすぎて山ちゃんをはじめとするスタジオメンバーまで萎縮してしまい、スタジオトークが空回りして見えたほどだった。
※『テラスハウス TOKYO 2019-2020』のネタバレを含みます。また、そもそも『テラスハウス』を観るつもりがない人向けにも分かりやすく書いています。
ほんの2週間前(36話)までの『テラスハウス』は多幸感に満ちていた。新メンバーとして入ってきたビンスイ社長こと新野俊幸*1が「モンスターハウス」のクロちゃん枠だったということは差し置いて、元メンバーの田渡凌に振られて傷心になっていた木村花と、彼女の傷を癒していたコメディアンの小林快が急速に距離を縮めていった。こんなデレシーンまで我々は見せつけられた。
正直に言おう。28歳独身髭面メガネ、図らずもキュンキュンしてしまった。「『テラスハウス』はクズが出てこそ面白い!」などと穿った見方をしていた僕は不覚にも悶えさせられてしまった。田渡凌関連で辛いエピソードが続き、ビンスイはモンスターとして番組を盛り上げてくれたけれども、王道に男女仲を深めていく二人を我々『テラスハウス』ファンはまだかまだかと待っていたはずである。
その雲行きが怪しくなったのが先週の37話であった。社長が狙っている女性メンバーの林ゆめを口説く口実で、快と花と共に4人は京都の水族館へ泊まりで行くダブルデート旅行へ行く。しかし、快はお金もなく、自身が打ち込んでいるスタンダップがうまく行っていないことから、逡巡する。社長が全てお金を出すから心配しなくていいと言ったので、それに乗ったものの、旅行中の快は終始上の空で、快の積極性に欠く態度が女性陣の目には周囲への配慮に欠けるヒモ男に写ってしまう。
せっかくのサービスシーンも会話のせいで怖い!
一気に快への思いが冷め、愚痴が止まらないガールズトーク。快と花が築き上げてきた関係性が瓦解する音が木霊し、我々は凍りついた。が、現実の人生に終わりが来ないように、このまま終焉ではなかったのが『テラスハウス』の面白くも残酷なところだ。
決定打となったのは今週。花は試合用のコスチュームを洗濯機の中に入れたまま出かけてしまったが、快はそれに気付かず自分の洗濯物を入れて更に乾燥機までかけてしまった。結果、花の衣装は縮んでしまい、着れなくなってしまう。
花の試合用のコスチュームは10万以上するだけでなく、デザイナーに相談して作ってもらったもので世界に一着しか存在しない。戦い抜いてきた試合の思い出も詰まっている。まあ、スタジオメンバーが指摘していたように、そんな大事なものを放置しておく方も悪いのだが、それが共同生活の難しさである。今回のエピソードで更に快の悪い意味でのマイペースさが露呈したので、日頃積み重なっていたものが爆発したのだろう。
自分が原因でブチギレている人を見たらみなさんはどうするだろうか?僕は謝って黙るしか思いつかない。およそ大半の人はそうするであろうし、我々が見守る快も同じ対処法しか取れなかった。その態度が更に花の怒りにガソリンを撒き続ける負のスパイラルの始まりである。
余談ではあるが、「なんか言えよ!」→「ごめんしか言えない」→「なんか言えよ!」→......のハメ技は、僕が働いていたブラック会社のクソ社長とのやり取りを思い出したので、トラウマという意味でも今週のエピソードは更に個人的にはキツかった。理不尽さはうちのクソ社長の方が圧倒的に上なので、花ちゃんと比べるべくもないですが
いやーもう、辛い。しんどい。連日コロナのニュースで鬱屈とさせられていたので、『テラスハウス』を清涼剤にしようかと思っていたら、余計に鬱々とさせられるとは思わなかった。
ほんの2週間前まで「ギュッとして❤︎」と甘えていたのが、京都に一回旅行に行くだけで「触んなよ!」とまで言われてしまう。せっかく縮んだ二人の距離は、縮んだコスチュームによって地の果てと果てまで離れてしまう。
我々は『50回目のファースト・キス』*2のような、カップルが成立する過程を楽しむ王道恋愛エンターテインメント映画を観ていたと思ったら、『ブルーバレンタイン』のようにカップルの破滅する様を描いた鬱映画を観させられていたのである。 あな恐ろしや!
また、ここで制作スタッフの手腕に脱帽するのだが、罪深いのは彼らはこの展開を知っておきながら、あの「ギュッとして❤︎」を編集で残したのである。 『テラスハウス』の作劇上、時系列こそシャッフルできないが、『ブルーバレンタイン』と全く同じ効果を視聴者へ与えることに成功した*3。いやー、憎い!巧い!
『テラスハウス』が配信されるたびに視聴者がSNSで出演者に文句を言ったり炎上させたりするが、重要なのは劇中の時間と現実の時間にはタイムラグがあるということだ。快と花を含めた『テラスハウス』の住民たちも、今こうしている間にもストーリーを転がしているので、我々には心臓を抑えて見守ることしかできない。そして『テラスハウス』が1話放映するごとに、刻々とコロナの喧騒へと突き進んで行く。一体どのようにして現実社会も背負いきれない題材を番組内に取り入れて行くのか、注目である。
*1:同時期に入居した女性メンバー林ゆめに一目惚れし、ゆめが飲んでいた瓶にあえて口つけたり(ビンスイの由来)、リップクリームを塗るふりしてキスをするなど。
*2:この映画の名前を出すたびに言っていますが、アダム・サンドラーとドリュー・バリモアの最高にハッピーになれる『50回目のファースト・キス』には「・」がついていますが、福田・ファッキン・雄一が監督したクソリメイク版『50回目のファーストキス』には「・」が無いので、視聴する際は気をつけましょう!ファック!
*3:なお、番組スタッフが『ブルーバレンタイン』を想定しているとは全く思わない。というか、自分の恋愛映画の引き出しが少なすぎて『ブルーバレンタイン』くらいしか思いつかなかった。今回のエピソードに類似した男女の破滅を描いた鬱恋愛映画を知っている方、コメント欄で教えてください!(なお、『(500日の)サマー』や『ミッドサマー』はちょっと違うと思う)