内閣が検察幹部の役職定年を強引に延長できるようにする検察庁法改正案について、一昨日夜あたりからSNS上で「#検察庁法改正案に抗議します」というハッシュダグが上がり、一大ネットムーブメントになりました。このバーチャルデモが特徴的だったのは、普段は政治的な話を避ける傾向にある芸能人達も多く参加したことだと思います。
中でも話題になったのはきゃりーぱみゅぱみゅの投稿で、彼女のツイートに賛同する声もある一方、「勉強してから投稿しろ」「ファンだったのにガッカリしました」などとアレなリプライで埋め尽くされ、結果きゃりーぱみゅぱみゅは該当ツイートを消去するに至りました。 *1
今回に限らず、芸能人が政治的な話をすると叩かれがちです。いや、正確には反政権的なこと、ですかね。石田純一なんかは安全保障関連法案が強行採決された時に国会デモに参加して叩かれ、そこから火を見るより明らかにテレビで見なくなりました。ウーマンラッシュアワーの村本も時事ネタを扱うようになってから、Twitterは連日のように炎上しています。対して、保守的な持論を述べる芸人や知識人はワイドショーに引っ張りだこなので、日本の芸能界は権力者に尻尾を振ってゴマ擦りまくってる人たちには非常に優位な職場だということがわかります。
で、今回の件で僕がふと思い出したのは、先週観た『マイケル・ジョーダン:ラスト・ダンス』第5話のとあるシーンでした。1990年、ノースカロライナ州の上院議員選挙が世間から大きな関心を向けられていました。当時現職だったのは共和党のジェシー・ヘルムズで、ヘルムズは保守的な上に人種差別的発言が物議を醸していました。その対抗として出馬したのが民主党のハーベイ・ガントであり、ノースカロライナ州初のアフリカ系上院議員候補として大注目を集めていました。
ノースカロライナ州はジョーダンの地元であり、バスケの神様はガントへの指示を求められたところ、「共和党議員もスニーカーを買う」と断りました。ご存知のように、ジョーダンはバッシュのエアジョーダンシリーズをプロデュースしており、「黒人の地位向上よりも自身の利益の方が大事」と捉えられかねない態度は、世間から大バッシングを受けました。
▲「自分は活動家にはなれない」とバスケに専念することを選んだジョーダンだったが、無関心故に世間から叩かれた。なお、母に頼まれてガント陣営には支援金を小切手で送った。
特に初優勝に向けて勢いづいていたこともあったのでしょう、ジョーダンは「自分は政治家ではない、バスケ選手だ」としてバスケに集中しました。「スポーツ選手は政治に口を出すな」というのは日本でもよく聞かれる文句です。ただ、ジョーダンとは正反対の姿勢を見せたのが現役最強のNBA選手レブロン・ジェームズです。
2018年、レブロンがドナルド・トランプの人種差別的発言をESPNのインタビューで非難したところ、保守的なFOXニュースのキャスター ローラ・イングラムが「黙ってドリブルだけしてろ」と発言しました。
'Shut up and dribble' — Fox News's Laura Ingraham to LeBron and Kevin Durant after their criticism of President Trump pic.twitter.com/0BlokQDIIl
— Sports Illustrated (@SInow) 2018年2月16日
これに対して今度はレブロンが「俺たちは黙ってドリブルだけする訳にはいかない。俺はここで重要なことを言う必要がある。俺には社会的責任がある。若者たちにも多大な影響力を及ぼす。困難な状況から逃げ場がなく、助けが必要な子供達にとって、俺は多大な責任を負うからだ」と会見で発言しました。レブロンの会見はアメリカ人の共感を呼び、逆にイングラムは「人種差別だ」と叩かれる羽目になりました。
レブロンはまた、「MORE THAN AN ATHLETE(アスリート以上)」というスローガンを掲げています。スポーツ選手というのは、体だけが取り柄のような存在に思われがちで、だからこそ政治的な発言をすると物議を醸します。しかし、レブロンは自分は単なるアスリート以上の存在であると捉え、学校を建てたり、映画に出たり、SNLの司会をやったり、積極的に慈善活動や政治活動に参加したり、バスケットボール以外の活動にも力を入れています。それは自身を「NBAの顔」として捉え、その影響力の大きさも自認し、だからこそ子供達にとってのロールモデルになりたいと、責任感を感じているからです。
レブロンのように政治的発言を積極的に行うスターはアメリカでは大衆に好かれます。一方で、日本では先述したように芸能人やスポーツ選手は専門外のことを口にすることは好まれておらず、この大衆心理の比較は興味深いと今回思ったのでありました。でもまあ、究極は本人の自由なので、無理して立場表明するよりは、ジョーダンのように無関心を貫き通すのもありっちゃありなのかもしれません。(それはそれで残念だけど)
*1: しかし、本人は削除した理由を「コメント欄でファンが争うのが嫌だったから」としています
— きゃりーぱみゅぱみゅ (@pamyurin) 2020年5月11日