「怖さ」よりも「厭味」が勝つ/『呪怨:呪いの家』感想

 諸事情で見る必要があり、Netflixの『呪怨:呪いの家』を完走したっす。僕はシリーズものを見る時はなるべく製作順に全て観たい性格なのですが、ちょっと時間がなくてNetflixで劇場版の『呪怨』『呪怨2』を観てからNetflix版に臨みました。『呪怨』シリーズは劇場版はNetflixに全て揃っており、ビデオ版もHuluにあるということで、そのうち全部制覇したいと思います。

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 まず、初めて観た劇場版の『呪怨』『呪怨2』の感想を軽く触れると、シンプルさに非常に感銘を受けました。舞台の主軸はほぼ呪われた一軒家なので、制作費がほとんどかかっていないことが推察されます。『1』の途中で田中要次がガソリンをまくところでは「お、ド派手に燃やすか!?」と期待しましたが、当然そんな予算はないのでまいただけで田中要次が呪われて終わりました。が、そういった制作費の無さを清水崇が見事に演出力でカバーして立派なホラーにしています。

 

 だって考えても欲しいのですが、今でこそ「伽倻子」や「俊雄」といったキャラクターイメージが先行してしまっていますけど、基本的に彼らは役者を白く塗っただけなんですよ。アップになった時の俊男なんて真っ白な上に目の周りはアイシャドー塗りたくっているのが分かってしまうくらいには低予算なんですが、その白塗りで半裸の男の子や母親が見え隠れするだけでしっかり怖い作品に仕上がってるのはとても感心しました。(といっても、古今東西のホラー作品はほとんどが低予算なので、そもそもが監督や作り手の創意工夫が楽しむ為のジャンルではありますが。)

 

 で、『呪怨2』になると、公開当時は前作からわずか7ヶ月のスパンで作られているので、相当1作目の評価が高かったことを受けてだろうと推測します*1が、その分冒頭からカーアクションが登場したりして制作費が如実に上がっているのも分かり、怖がらせ方のバリエーションも増えて遊園地的に楽しい作品に仕上がっていました。

 

 と、僕の軽い『呪怨』『呪怨2』の感想から、鑑賞時の僕には随分と「余裕」があったことを伺えるかもしれません。事実として、僕はホラー映画には結構耐性がある方なので、いつも映画を見る時のように部屋の電気を暗くして観ましたし、時には唐突な場面でゲラゲラ笑ったり、時には耳かきしながら観て余裕ブッこいて観てました。

 

 そんな調子付いたノリで昨日『呪怨:呪いの家』も鑑賞を始めたのですが、僕はすぐに自分の態度を後悔しました。『呪怨:呪いの家』は怖さの質が劇場版とは雲泥の差で、「厭味」をマシマシにしたホラーシリーズで毎話おっかなビックリしながら見る羽目になりました。観終わった後、電気をつけると何かいそうで怖いのなんの……。

 

 『呪いの家』は荒川良々の「『呪怨』は、実際に起きた出来事を参考に作られた」というメタ的なモノローグから始まります。その真偽のほどは定かではありませんが、『呪いの家』の劇中、「女子高生コンクリート詰め殺人事件」や「地下鉄サリン事件」など、昭和後期や平成初期のワイドショーを騒がせた事件がニュースとして次々流れます。そして、『呪いの家』では、これらの事件を抽象化したような凄惨な出来事が次々と起こります。

 

 今挙げた実在の事件は、その異常性からマスコミではセンセーショナルに取り扱われてきましたし、現在も度々起きる悲惨な事件も同様に騒がれます。しかし、少なからずそういった「異常」と叩かれる事件の背景には、日本社会の歪みが見え隠れします。家庭内暴力だったり、貧困だったり、マチョイズムだったり。『呪いの家』は心霊映画ですが、画面上で起きる凄惨な事件は、日本がかかえる諸問題が背景として見えてきます。ある意味では実録犯罪映画には近いのかもしれませんが、そうした日本社会の犠牲者たちの「呪怨」が「呪いの家」の燃料となり、「厭味」となって視聴者を襲います

 

 また、先ほど予算の話をしましたが、劇場版シリーズと打って変わり、今イケイケのNetflixNBCユニバーサルが関わっている本作は明らかに潤沢な制作費がかけられています。舞台も年代をまたいで物語は壮大となり、ゴア描写も筋金入りの特殊効果で気合が入っています。もちろん、冒頭に述べたようにホラーの醍醐味は演出家の見せ方にあるので、お金が全てではありませんが、予算があれば画的にもリッチに人を怖がらせることができます。なお、仮に予算なんかなくたって、三宅唱監督の演出力が凄まじいのは留意しておきます。

 

 かように、『呪怨:呪いの家』はガワからもウチからも視聴者をどん底の恐怖体験に陥れます。非常に困ったのは、『呪いの家』は1話30分全6話という短さで、一気見させる勢いのある面白さの作品だったことです。夜に見てしまえば一度最後、あなたはこの『呪怨』に取り憑かれてしまい、夜もねれなくなってしまうでしょう。……そうやって僕は今朝の会議に寝坊しました!

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*1:あるいは元々作る予定だったかもしれませんが。どなたか教えてください