カルト・モキュメンタリーの14年ぶりの続編『続・ボラット 栄光ナル国家だったカザフスタンのためのアメリカ貢ぎ物計画』を鑑賞。監督はコメディ・グループのヒューマン・ジャイアント出身のジェイソン・ウリナー、脚本・原案・製作はボラット演じるサシャ・バロン・コーエン。共演にボラットの娘トゥーターを演じたマリア・バカロヴァ他、マイク・ペンスにルディ・ジュリアーニ(!?)
『ボラット』が公開された2006年のアメリカは、ジョージ・ブッシュ政権下であった。ボラットは「カザフスタン」出身であることを盾に、アメリカ中を回ってドッキリを仕掛け、行く先々で迷惑をかけまくり、大人を怒らせまくった。
あれから14年、オバマ政権を挟んでアメリカは随分様変わりした。今回もボラットがアメリカ中を回ってドッキリを仕掛け、行く先々で迷惑をかけまくり、大人を怒らせまくる基本的な構造は変わりがないのだが、今回のボラットには使命があるように見える。それはここ4年で急速にアメリカを覆った反知性主義を炙り出すことだ。
もちろん、ブッシュ政権時のアメリカも大概だったが、『サウスパーク』のランディ流に言えば「高潔さ」ってもんがあった。……今書いていて、自分でもまさかこんなことをいう日が来るなんて思ってもみなかった。だが、少なくともブッシュはSNSで政敵を下品な言葉遣いで相手を煽ったり、討論会で論敵の言葉を遮ったりしなかった。自国のリーダーが酷い言葉を使ってるもんで、アジられた聴衆も汚い言葉で罵り合い、かつてないほどアメリカ国内の分断は深まった。
内容から察するに、『続・ボラット』の前半部分はパンデミックが始まる前に撮られたものだろう。実際、2019年末には街中でボラットに扮するサシャ・バロン・コーエンが目撃され、話題となった。が、当初は大統領選挙に向けてのサタイアをつくることだけが目的だったはずが、コロナ禍によって世界が大きく様変わりしてしまった。
本作はドッキリ方式のモキュメンタリーとはいえ、当然大まかなストーリーラインや脚本もある。だが、コロナ以後の世界に合わせるために、脚本も大幅に修正せざるを得なかっただろうし、そこから新たに色々仕込み直すハメになったプロダクションの労力を思うと絶句する。
しかし、結果として『続・ボラット』は、コロナ禍でより一層顕著になった、事実よりも耳障りのいい言動に傾倒するトランプのアメリカをカメラに鮮明に収めることに成功した。「ウイルスよりも民主党の方が悪魔」だと言い切ってしまうQアノン信者、「武漢ウイルスなんてでっち上げだ!」とマスクも着けずにライフルと連合軍の旗を誇らしげに掲げる集会といった光景は、コロナが無かったら撮影することはできなかっただろう。
パンデミックで世界中の映像業界が悲鳴を上げている中、反知性主義に支配されたイディオクラシー国家アメリカの姿を大統領選挙前という絶妙なタイミングで見事公開できたサシャ・バロン・コーエンとプロデューサー陣の仕事ぶりには脱帽する。『続・ボラット』はAmazonPrime作品だが、コーエンはあくまで「追加料金なし」での配信にこだわったという。先日の『サウスパーク』「Pandemic Special」も同様、2020年のように現実がファックド・アップな状況こそ、コメディが真価を発揮する。つくづく、恐れ知らずにあちこちに中指を立てられる欧米のコメディアンたちの度量のでかさが羨ましい。
そして、これらの一見バカバカしいコメディ作品たちのメッセージはいたってシンプルだ。GO VOTE(投票に行け)!