のび太を甘やかせ過ぎだろ!/『STAND BY ME ドラえもん 2』★☆☆

 藤子・F・不二雄による国民的漫画の3DCGアニメ映画版『STAND BY ME ドラえもん2』を鑑賞。監督は前作や『friends もののけ島のナキ』『ドラゴンクエスト ユアストーリ』の八木竜一、脚本・共同監督もいつもコンビを組んでいる山崎貴。声の出演はテレビシリーズから水田わさび大原めぐみかかずゆみ木村昴関智一、ゲスト出演に妻夫木聡宮本信子バカリズム羽鳥慎一

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 「ドラ泣き」というパワーワードで映画ファンをイラつかせた前作から6年。まさか誰も作られるとは思ってもいなかった続編が、よりにもよってコロナ禍の真っ只中に登場!ドラえもんよ、タイムマシンがあるのならば、せめて1月の武漢に戻って全てを食い止めてくれ!

 

 ……と願ったところで虚しいだけなので、まあこの作品も他の夏の話題作と同様公開延期の憂き目にあったし、他に見る映画もないし多少なりとも大目に見てやるか、という穏やかな気持ちで観に行ったら、やっぱりイライラを禁じ得ないいつもの八木竜一&山崎貴の感動強要ムービーだった。

 

 まず何がムカつくって、前作から変わらずのび太がグズグズのダメ人間というところだ。何かっちゃメソメソ泣くし、他人を責めるし、自分に都合いいし。まあ、これが普段の子供向けアニメシリーズだったらコメディとして笑って観ていられるのだけれども、本作は「泣ける」ことを推してアカラサマに大人向けにマーケティングしているし、仮にもこれは映画なので主人公の成長が見られないとキツい*1

 

 が、さらにこの映画に驚かされるのは「のび太のび太のままでいい」とダメ人間のび太を(文字通り)大人になっても全肯定しているところだ。ドラえもんの道具には頼りっぱなしで、大人になってもビビって結婚式本番直前に逃げ出しても、最後の最後までドジでクズののび太を天使のように優しくて美人の可愛いしずかちゃんが無条件に受け入れる*2

 

 もうヘテロセクシャルの男たちだけで考えたんだろうなぁとしか思えないような究極のファンタジー。なお、八木竜一&山崎貴は「日本のピクサー/ディズニーを!」と息巻いて一連のCG作品を作ってきたと思うが、当のディズニーが男性中心主義社会から脱却して自立する女性像を確立したというのに、恥ずかしくならないのだろうか。

 

 まあ、100万歩譲って、『ドラえもん』が昭和の時代に描かれたことを加味し、さらにしずかちゃんがダメダメなのび太くんを受け入れて結婚したことは最悪原作通りと考えても、今回も例によって脚本が酷い

 

 冒頭は有名なおばあちゃんに会いに行く話、中盤は大人になったのび太が現代に逃げ出してドタバタする話で、終盤がのび太が生まれた頃の話で、クライマックスでのび太のおばあちゃん、両親、しずかちゃんに対する思いを昇華させて観客を泣かせにかかる。が、このクライマックスの露骨な感動演出がいつも通り酷く、体感で最後30分くらいもうずっと誰かが画面で泣いていて、涙の湿気でジメジメして気持ちが悪いったらありゃしない

 

 というか、感動させるにしても、やはり前作同様、原作の人気エピソードをロジック抜きに雑に繋げているだけなので、例えば冒頭に登場したおばあちゃんはクライマックスまでフェードアウトとしているくせに直前になって思い出したかのように登場*3し、両親への感謝に対するエピソードだって直前に唐突に挿入されるし、ドラえもんが大泣きする「のび太の魂が消えちゃう」云々のくだりは「最初からそれ出せよ!」ってアイテムで解決しちゃうし、全て場当たり的なので泣こうにも泣きようがない。

 

 脚本のダメっぷりといえば、中盤で結婚式から逃げ出した大人のび太を未来から現代へ探しに行くシーンで、子供のび太がどうやって結婚式に遅延なく戻ることができるかドラえもんに聞くと、観客の子供とバカにも分かりやすく画と言葉で懇切丁寧に説明をする。曰く、「未来から一旦現代にタイムトラベルして大人のび太を連れ戻した後、タイムマシンで未来を出発した時間の5分後に戻れば、一切のタイムラグが発生しない」と。「なるほど!」とのび太は膝を打つが、ちょっと待て!普通に事態が悪化する前の時間に戻ればいいだろ!SF映画史上、一番タイムマシンの使い方が下手くそな連中である。

 

 まあ、これだけだったらある意味想定内の出来の悪さではあった。だって八木竜一&山崎貴作品だし。が、ちょっと僕を余計にイラっとさせたのは、未来の千円札が手塚治虫という設定を採用したことだ。国民的漫画の傑作を台無しにしただけでは飽き足らず、漫画の神様にまで手を出しやがったな!エンドクレジットに「スペシャルサンクス 手塚プロダクション」と厚顔無恥にも誇らしげに掲げていたのも腹立たしかった。「STAND BY ME(そばにいて)」だって?のび太のそばに立って頭を引っ叩いてやろうか!?

 

 でも、ちょっと笑ったギャグのシーンがあったので、★一個おまけ。なんだっか忘れたけど。

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*1:ちなみに、大長編ドラえもんシリーズはこの辺うまく描いていた

*2:熱心な原作読者という訳でもないが、ドラえもんが未来からやってきた理由って、のび太を更生させるためではなかったのか?これじゃ原作否定だよ!

*3:あと、ネタバレになるが、本作および原作エピソードでのび太がおばあちゃんに会いに行ったのは、幼少期に亡くなったお婆ちゃんが恋しかったためだったが、クライマックス&エンドロールでのび太が自由にお婆ちゃんに会いに行ってもいい状況を作り出したのは、究極の甘やかしである。現実社会の厳しさからのび太はとことん逃げている。