わきまえない復讐にカタルシス/『プロミシング・ヤング・ウーマン』★★★(+3/20のお知らせ)

 今年のアカデミー賞で5部門にノミネートされている『プロミシング・ヤング・ウーマン』を米AmazonVPN使用)にて鑑賞。監督・脚本はテレビシリーズ『イヴの総て』の主任ライターを務めていたエメラルド・フェネルで、本作が彼女のデビュー作。『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒』のマーゴット・ロビーがプロデューサーを務める。主演は キャリー・マリガン、共演にボー・バーナムアリソン・ブリークランシー・ブラウンら。

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 『プロミシング・ヤング・ウーマン』とは「将来有望な若い女性」という意味。主人公キャシーは医学部在学中から優秀で、誰もが有能な医者になると思っていた。しかし、「とある事件」をきっかけに中退し、三十路を迎えるというのに両親と暮らしており*1、町の小さいコーヒーショップで働いている。

 

 しかし、キャシーには人に言えない「活動」をしていた。夜な夜な家を抜け出してはクラブやバーへ繰り出し、泥酔したフリをして男に「お持ち帰り」されるのを待ち、いざその男が手を出し始めたらシラフである事を明かして戦慄させるのだ。そして、その「活動」の動機には、キャシーが大学時代に遭遇した「とある事件」が深く関わっているのだが…。

 

 山口敬之による伊藤詩織事件、森喜朗の「わきまえない」発言、佐々木宏による渡辺直美への侮蔑発言、そして映画秘宝の岩田和明編集長によるDM恫喝事件…。並べるだけでクラックラする事件ばかりだが、どれも根底には日本社会の根深い「トキシック・マスキュリニティ(有害な男らしさ)」が共通している。いや、何も日本だけのことではなく、#MeToo運動に代表されるように、世界中でいつだって女性は男性に虐げられているのだ。その毒素が近年になって地表に噴出してきただけなのである。

 

 『プロミシング・ヤング・ウーマン』を観て、身が縮こまる思いをしたのは、セリフの端々に男の「無意識な」差別意識が表出してしまっているところもあるだろう。例えば、ストリッパーの前で自身が臆病でない事を強調したくない男は、ついつい「プッシー(Pussy)だとは思わないでくれよ」と口走ってしまう。プッシーは女性器の隠語で、「女々しい」の意味で使われる。そもそも、その日本語の「女々しい」だって、そこには明らかに男女の性差がある。そして我々男は、どれだけ気をつけていても無自覚にそういう言葉を使ってしまうのである。

 

 昨今のウォク・カルチャーに伴って、かつての性差別的な言動を慌てて改めた人は多いだろう。何を隠そう、僕だってそうだ。学生時代のホモソーシャルの心地良さを盾にした言動に、どれだけ周囲の女性に嫌悪感を抱かせていたか、想像することもできない。このブログだって、ずっと昔の記事を遡ればそういったものが出て来るかもしれないが、怖くて見返せない。その罪滅ぼしに我々にできることは、毎日毎日よりよい自分になろうと努めることのみである。

 

 ただし、『プロミシング・ヤング・ウーマン』は、そうしたポッと出のジェンダー意識の高い人たちも許さない。「若気の至り」を言い訳に女性に傷を負わせた奴らが、今ではさも常識人のような顔をして、成功して、結婚して、家庭を作って幸せに暮らしている。キャシーが彼らに次々と復讐を果たしていくのは末恐ろしいが、気持ちがいい。ドン底に胸糞悪い展開が来たと思ったら、最後の最後で震えるくらいカタルシスを得る。わきまえないキャシーは痺れるほどかっこいいけれど、彼女の目に僕はどう映っているだろうか。

 


 

 ということでですね、『プロミシング・ヤング・ウーマン』を僕が鑑賞したのは、明日、というか本日3/20は今年のアカデミー賞ノミネート作品を肴にオンライン飲み会をするからでありました!

日時:3/20(土) 21:00〜(予定)

配信:YouTubeチャンネル『スケッチブック』にて


www.youtube.com

参加条件:各自飲み物とおつまみを用意すること!

 

 何回も推していますが、明日はアメリカから友人が参加してくれるのですが、なんと彼女は2013年のアカデミー賞に学生アシスタント・プレゼンターとして参加していたことがあるのです!もしかしたら映画ファンが憧れるアカデミー賞の舞台裏が聞けるかもしれないので、これを聞き逃す手はありません!

 

 しかし、アメリカ時間だと朝早すぎるので、アカデミー賞の話は23:00から行います。それまでに何をするかと言いますと、いつものお便りコーナーを中心にあーだこーだ雑談する予定です。募集しておりますお便りは…

 

「え!?○○から10周年」特集です! 

 

 気がついたら10周年を迎えていたあれやこれやについて是非お聞かせください。お便りの宛先はhktaiyakiあっとgmail.comか、TwitterのDM/リプライか、ここのコメント欄か、匿名メッセージサイトのマシュマロまで!

 

 それではまた明日、というか今日!

*1:補足しますと、基本的にはアメリカでは成人を過ぎると親元を離れるのが常識的です