映画ってこんなもんでいいんだよ!/『アオラレ』★★☆

 煽り運転を描いたスリラー『アオラレ』を鑑賞。監督は『幸せがおカネで買えるワケ』『American Dreamer』のデリック・ボルテ、 脚本は『ディスタービア』『レッド・ドーン』のカール・エルスワース。本作のヒールである煽り運転ドライバーを演じるのはラッセル・クロウ、共演はカレン・ピストリアス、ガブリエル・ベイトマン、ジミ・シンプソンら。

※直接的に書いてはいませんが、ちょっぴりエンディングの描写に触れています。

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 コロナ禍であまり劇場に行かなくなったり、映像制作が忙しいせいか、最近は映画ファンを名乗るも申し訳ないくらい映画をあまり観なくなってしまった*1。そうすると映画を見る「基礎体力」がすっかり落ちているのを実感してしまい、益々映画を見るのが億劫になり負のサイクルにハマってしまった。しかし、久々に劇場に足を運んで鑑賞した本作は、僕のような人にとってリハビリと呼べるくらい丁度いい映画だった。


 まず、何と言ったってオープニングクレジットが素晴らしい。バカシンプル*2な邦題が示すとおり、日本でもアメリカでも問題になっている「煽り運転」がテーマなのだけれども、まるで煽り運転アメリカ全土を覆う病理化のように大袈裟に描くバカバカしさが最高だ。Twitterで銀河暗黒皇帝閣下(id:globalhead) が仰っていたが、まるで「『マッドマックス』のオープニング」である。煽り運転により全人類が絶滅するかのような勢いすら感じる。

 

 そして、その勢いのままに、プロットのシンプルさも素晴らしい。サイコなラッセル・クロウが逆恨みで被害者女性をどこまでも追っかけるだけ。この粗筋からどうしても想起されるのは若きスピルバーグの傑作『激突!』であるが、『激突!』はドライバーの顔を隠したり、トラックをあたかも怪獣のように描いたり、天才スピルバーグの演出力にただただ脱帽する映画だ。対して、逆に『アオラレ』は狂気に満ちたラッセル・クロウの恐ろしさをシンプルに楽しむ、役者力を堪能する映画である。『アオラレ』も『激突!』は一見似たプロットだけど、実は真逆のアプローチの作品なのだ。

激突! (字幕版)

激突! (字幕版)

  • デニス・ウィーヴァー
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 また、シンプルさ故のタイトな尺も素晴らしい。つまり、93分という短尺に一切の無駄なく三幕構成が織り込まれている。僕が脚本の授業を教えていたら、授業の題材に扱いたいくらいだ。劇中、ある登場人物の死を考えると、エンディングの「よかったよかった感」には疑問を持たないでもないが、最近の映画でよく見られるクライマックス後のグダグダなくスパッと終わってくれるのが気持ちいいし、何よりリハビリ中の身としては大変助かる。本国では「薄っぺらさ」が批判されており、確かに観終わって得るものは何もないかもしれないが、映画なんてこんなもんでいいのだ。いたずらに難解で疲れる映画よりはずっと愛おしい。

 

 最後に、ここでブログを書くにあたってリサーチして知った逸話をひとつ。本作がアメリカで公開されたのは去年の夏で、ちょうどパンデミックにより全米で営業規制されていた大手映画館チェーンが再開し始めていた頃だそうだ。ところが、本作のチケットセールストップ5を占めたのは、全てドライブインシアターの劇場だったという*3。なるほど、ドライブインシアターにはもってこいのジャンル映画だったとは思うけれど、それにしてもこの映画だけは車の中で観たくないよ!

 

 

*1:遂に知人には「お前のTwitterNBAばかりでうるさい」と言われました、わはは。えーい、Twitterくらい好きにさせろ!

*2:褒めてます

*3: