ザック・スナイダーは良い意味でも悪い意味でも生粋のビジュアル主義者

 『アーミー・オブ・ザ・デッド』そして『ジャスティス・リーグザック・スナイダーカット』に備えるために、未見だったザックの3作品(『ドーン・オブ・ザ・デッド』『ガフールの伝説』『エンジェル・ウォーズ』)を一気見しました。ザックは良くも悪くも「クセが強い」映像作家で、『300』や『ウォッチメン』やDC作品など熱心なファンが多いグラフィックノベルやアメコミの実写化を手掛けているだけに、熱量のこもった賛否を呼びやすい監督です。が、この3本を連続して見て思ったのはやはりザックは生粋のビジュアル主義者だと思いました。

 

 劇場版デビュー作の『ドーン・オブ・ザ・デッドからして、陰影が濃くシャープネスを利かせて画作りで、シャッタースピードを早めたアクションシーンが印象的です。トレードマークのハイスピード撮影(スローモーション)は弾丸が落ちるシーン*1のみですが、ゾンビの赤ちゃんや『マッドマックス』のような武装トラックでゾンビの群れに突っ込むシーンなど、映像的にインパクトが大きいシーンが多いです。

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 『300』と『ウォッチメン』でザックの作風がかなり確立したかと思いますが、『ガフールの伝説』は自由に画作りができるアニメーションだからこそ、そのザックが好むビジュアルが思う存分に反映されていました。登場人物たちは皆可愛いフクロウなのに、これまたスローモーで鎧を纏ったフクロウたちが笑っちゃうくらいザック流の戦闘を繰り広げているんですね。

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 極め付けだと思ったのが、ザックの完全オリジナル企画『エンジェル ウォーズ』であり、ザック流のサチレーションを落とした映像で漫画チックな衣装を着た美少女たちが文字通り「妄想の世界」でスローモーで刀振り回し流しながら、サムライやらナチスゾンビやらドラゴンやらロボットやらと戦うわけですよ。モヤモヤっとした曇り空含めて*2、もうどこからどこを切り取ってもザック成分100%。

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 これはザックの前職がCMディレクターであったことに起因していると思うんですけど、どの作品も「キメ画」作りはハンパないんですよね。グラフィックノベルを原作にした作品は全部原作をストーリーボードにして寸分違わず忠実に再現しているくらいですから、いかにザックが病的なまでにこだわって画作りを行っているか窺い知れるでしょう。

 

 ただ一方で、これもザックがCM出身だからこその欠点だと思いますが、ビジュアル優先で作品作りをしている分、どれもこれもストーリー部分のバランスが悪いです。これはザックの作品が激しく賛否を呼んでいる一員にもなっているでしょう。グラフィックノベルを忠実に実写化した『300』と『ウォッチメン』は置いておくにしても、『ガフールの伝説』の中盤部分の盛り上がりに欠ける平坦さや『エンジェル ウォーズ』の妄想の中の妄想という構造の無意味さには少し目に余るものがあります*3。『ドーン・オブ・ザ・デッド』の脚本はジェームズ・ガンが執筆していたこともあり、そこまで出来が悪いものではありませんでしたが、ロメロ版にあった哲学的な部分が薄まっている部分とは無関係でないように思えます。

 

 また、ザックはジョーゼフ・キャンベル信者と言いますが、そのためか物語があまりにも定型化され過ぎてしまう欠点があると思います。例え定型化されてしまっていても、『スター・ウォーズ』や『マッドマックス 怒りのデスロード』など、映像表現そのもののオリジナリティが高いために神話化する作品もありますが、ザックの場合はオタク気質が強いため、『ガフールの伝説』も『エンジェル ウォーズ』も引用が透けて見えてどこか既視感を覚えてしまうのも少し残念ではありました。

 

 が、これだけ欠点を述べても、ザックの作品がいつも注目されるのは、ザックが素直に自分の好きなものを詰め込んでいるからど思うんですよ。あれやこれやストーリーのロジックは無視、批評家なんか関係ねぇ知るか、自分が好きなものだけを映像として表現していく!ザックはインタビューでも「ファック」という言葉遣いを辞さないですが、このメンタリティの強さに僕も惹かれている部分があるんだなぁ、と思いますし、彼の映画の魅力に還元されているはずです。

 

 ということで、『アーミー・オブ・ザ・デッド』と『ジャスティス・リーグザック・スナイダー・カット』楽しみです。どちらも配信で見れるなんて、改めて凄い時代ですね。

 

 おまけにザックがiPhoneで撮った短編映画をあげておきます。女性の困った描き方含めて、めちゃくちゃザック。

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*1:これ、Twitterで「キメ画ではスロモー(...)ザック・スナイダーらしさが詰まってるのは嬉しい。」と書いてしまいましたが、よくよく調べてみるとスローはこの場面のみの登場だったそうです。記憶違い&先入観は恐ろしい…!謹んで訂正致します

*2:これは何気にザック映画のかなり重要な要素だと思います。DC映画は暗いと批判されがちですが、正確にいうとザックの映画が暗すぎる、というのも欠点の一つです

*3:あと、2020年代の視点で見てしまったから、というのもありますが、男性(=ザック)の欲望全開で描かれているかなり女性描写に問題があるように感じました。ただ、当時リアルタイムで見ていたらちゃんと批判できていたかは自信がありません…。