Paramount+で独占配信となったTV映画『South Park:POST COVID(コロナ後遺症)』を鑑賞*1!コロナ禍が始まって以来、リモート体制のために制作スピードが落ちてしまった『サウスパーク』だが、今回はスペシャルではなくなんと『サウスパーク/無修正映画版』(1999年)以来の新作映画。40年後のサウスパークを描いた衝撃作は如何に!?
前回の『Vaccination Special』*2で、4人組の友情が壊れてしまってから40年後ー。パンデミックも終わり、スタンはすっかり大人になり『ブレードランナー:2049』のジョイみたいなAmazon アレクサとサウスパークから離れた地で独身生活を送っていた。しかしある日、40年ぶりにカイルから電話がかかってくる。「実は…ケニーが死んだんだ」
ケニーの死の知らせを聞いたスタンは、友を弔いに40年ぶりに故郷に戻る。『シャイニング』の冒頭のような山道を抜けて見えたサウスパークは、「ベスト・バイ マックス」とか「TJマックス マックス」とか「Lamps Plus プラス」とか色んなお店にMAXやPLUSがついていたり『ブレードランナー』よろしく芸者ガールの謎ビルボードが流れてくる事以外は、すっかり昔ながらのクソじみた町だった。
スタンは待ち合わせた「デニーズ・アップルビーズ・マックス」で見たくもなかったカイル、そして警察官になったトークンと久しぶりに顔を合わせる。ケニーは40年の間で世界的な物理学者に出世していたが、カイルとトークンはケニーの死の裏には何者かの手引きがあったのではないかと疑っている。
しかし、また昔の仲間達とつるむことにウンザリしていたスタンは、二人の協力を拒む。通夜に出席すると、スタンを驚かせたのは旧友たちの変わりようだった。ジミーはトークショーをホストするくらい著名なコメディアンになっていて、ウェンディは既婚者だし、トゥイークとクレイグはまだ付き合っていて、クライドはすっかり太り、カートマンは…ユダヤ教に改宗して指導者のラビになり、妻と三人の子供を持つ家庭を築いていた!
カイルはカートマンが心の底から改心したとは信じきれず、自分への嫌がらせのためにユダヤ教徒に改宗したと思い憤りを隠せないが、カートマンは親友だったケニーから死の直前にメールが届いていたという。「ケニーはコロナウイルスの真相を突き止めていたらしいぞ」という衝撃的な情報だけ2人に渡し、翌日の葬式に備えて家族とともに去る。その後ろ姿は、あの冷酷無比なカートマンからは信じられないくらい優しく立派なお父さんだ。
その夜。スタンが何気なしにTVを見ていると、亡くなったケニーに関するニュースがテレビでやっていた。生前に撮影されたインタビュー映像に挟まれた、ケニーが解いた難解な数式になんと「テグリディ・ウィード」の文字が!スタンはこの事件の裏には、訳あって20年以上会っていない父ランディが関わっていると確信する。
さて、いよいよ葬式の日。今や司祭となった糖尿病持ちだったスコット・マルキンソンが取り仕切る中、式が粛々と行われていたが、科学者が突如として乱入する。「マコーミック博士の検死がようやく終わりまして、死因が分かりました!パニックにならず、落ち着いて聞いてください。博士はコロナで亡くなりました…新たな変異株、デルタ・プラス・リワード・プログラム株によって!」
デルタ航空のマイレージプログラムのような変異株を聞いて、案の定サウスパークの町は大パニック!トイレットペーパーを買い求めて暴動が起こり、慌ててズームをダウンロードし、町から逃れようと道路は渋滞するが、サウスパークへの全ての往路は遮断されてしまう。「記録によると、この町にいるたった1人の人物がワクチンを打っていない!その人物がワクチンを打つまで、何人たりともこの町から出してはならないという命令が下っている!」
すっかり嫌いな町から出られなくなってしまったスタンは、泊まっていたモーテルからも追い出され、仕方なしに避難所と化した懐かしのサウスパーク小学校へ。小学校にはもう町に住所がないウェンディ、トークン、ジミー、トゥイーク、クレイグ、そしてクライドもいた。もちろん、避難生活を取り仕切るのは、すっかり老いたPC校長。「いいか、9:00以降は絶対消灯だ!そして性別を特定するような言葉遣いをする奴は許さんし、映画のキャスティングでその文化について誤った配役をする奴はぶっ飛ばすから*3な!」
夜に集まって話し合うかつての仲間たち。「たった一人がワクチン未接種なせいで外へ出られないなんて、迷惑な話ね」「全くだ、いったい誰が打ってないんだ」「俺は打ったぜ」「僕も」と世間話をしていると、クライドだけ「俺は個人の選択だと思うね」と気まずそう。「お前、40年も経ってまだそんなことを言っているのか!」と一同が驚愕すると、「仕方ないだろ、俺は貝アレルギーなんだ!」とクライドは返す。
「貝なんかワクチンに関係ないだろ!」「何かの記事で読んだんだよ!何かしらの理由でワクチンに貝が入ってるって!とにかく、俺はシェルフィッシュ(貝)のせいでワクチンは打ちたくないね!」とクライドは言い訳をするが、どう考えてもセルフィッシュ(自分勝手)なせいで打ちたくない、にしか聞こえないのであった。
さて、カイルの家。ステイホームをしていると、カートマン一家が訪れる。「なんの用だ」とカイルは不機嫌に聞くも、「実はロックダウンのせいで、家に帰れなくなったんだ。学校も人数制限で入れず、モーテルもしまっているので、素敵なユダヤな家に泊まらせてもらえないかと…」とカートマンは懇願する。カイルは断ろうとするが、「お願い、カイルおじさん!」と可哀想なカートマンの子供たちを見てると同情してしまい、家に入れてしまう。
しかし、早速その晩からアブラハムの名を叫びながらコトに及ぶカートマン夫妻の喘ぎ声や、カイルを見ると無意識にFワードで罵り出す子供たちに悩まされ、早くも後悔し始めるカイル。一方、スタンは厳重に封鎖されている学校を抜け出し、因縁のある父と対峙しに、老人ホームに向かうのであったが…!?
さあ、待望の『POST COVID』は「コロナ後遺症」のほかに「コロナ後の世界」という意味も持つが、まさか40年後のサウスパークを描いた作品になるとは思いもよらなかった。アメリカの郊外を舞台に、少年時代のトラウマと向かい合う物語として明らかにスティーブン・キング系の作品(というか『IT』)をモチーフにしている。
トレイ・パーカーとマット・ストーンは今回の『POST COVID』は前2作の「スペシャル」ではなく「イベント」と区別するほどスケールの大きい物語となり、配信もParamount+の独占となった。一方そのフォーマットで配信しているにも関わらず、ディズニー+やらHBO MAXやらアップル+やら、なんでもかんでも+とかMAXとかとりあえずつけただけで特別感を演出する昨今の社会もしっかりバカにしているのも笑える。
このイベントでトレイとマットが大きく風刺しているのは、過剰なPC社会とアンチヴァクサーである。40年後の未来は神経質にコンプライアンスに配慮されていて、全ての肉が昆虫食に置き換わってるほど。特に、冒頭のジミーのトークショーでは、社会が過激に政治的正しさを求めるあまり、全く面白くもない優しい言葉を連ねただけのジョークが観客からバカ受けする様を描いていたが、それこそ風刺を扱うトレイとマットにとってのディストピアだろう。
また、「反ワクチン」に関しては、シノゴの言わせずに一刀両断で「ワガママ」と切り捨てたのは気持ちがいい。バカにかける言葉はこれくらいで良いんだよ!
他にも『サウスパーク』の愛すべき各キャラクターたちの40年後の姿には衝撃と笑撃を受けた。中でもベイビーヨーダ並みの風速でネットをざわつかせたのは、ラビ・カートマンであり、このカートマンの未来像を思いついたのは天才というしかない。そしてカートマン家の子供たちの父親譲りの憎らしい可愛さったらありゃしない。あと、元々モデルにはなっていたが、スタンとカイルが年取った姿が実際のトレイとマットにソックリなのもファンとしては嬉しいポイント。
ちなみに、熱心な『サウスパーク』ファンなら気になっているのは、バターズの行方だろう。僕も観ながら中々出てこないバターズの姿にヤキモキしたが、最後の最後で…!おっと、これ以上は言えない。というのも、『POST COVID』は実は『IT』よろしく2部作で、その後編が今月中にリリースされる予定であるからだ。なので『POST COVID』も典型的なクリフハンガーで終わるため消化不良感は否めないが、『DUNE/デューン』よりは期間が短いのでご安心を!
それにしてもParamount+は、本当にいいコンテンツを押さえたよなー。ただ、心配なのは例えば『スター・トレック』シリーズがParamount+で独占配信となったため他の配信フォームから消えたように、今後のシリーズの配信権の行方である。こういうの、本当に困るので各映画会社が始めてるこのトレンドはやめてほしいよね。