『サウスパーク』版『素晴らしき哉、人生!』/『South Park: POST COIVD: THE RETURN OF COVID』感想

 Paramount+独占配信映画版『South Park: POST COVID』は衝撃のクリフハンガーで終わった。あれから三週間、遂に後編となる『THE RETURN OF COVID(コロナの帰還)』が配信!これが『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』よろしく、全てのカオスに決着をつける完結編だったのだが、果たして…!?

 

※結末以外、前作『POST COVID』も含めてネタバレしています。

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 『THE RETURN OF COVID』は40年前、カートマンとケニーは体育館で同級生のヘザーが放屁した瞬間を撮り、彼女の母親がNBAチーム デンバー・ナゲッツのホームアリーナであるペプシセンターのスポンサー、クアーズで働いていることを利用して、ヘザーを脅迫して4人でナゲッツVSクリッパーズ*1のチケットを手に入れようと目論むところから始まる。

 

 しかし、計画を実行しようとするも束の間、全米でコロナのパンデミックが始まり、学校は閉鎖されてしまい、そして『Pandemic Special』と『Vaccination Special』へ至り、四人組の仲は引き裂かれてしまう。また、テグリディ農園のせいで家族関係が悪化したことにウンザリしたスタンは農園に火をつけ、そのせいで納屋にいた姉のシェリーは焼け死に、そのショックでシェリーは自殺し、スタンも父ランディと絶好状態となり、40年の月日が過ぎるのであった…。

 

 さて、前作『POST COVID』で、ケニーがタイムトラベルで40年前に向ったことを知った元少年たち。ケニー・マコーミック博士の死をきっかけに生まれた新型コロナのマコーミクロン(McCormickron)株流行により、サウスパークは30年間閉鎖されてしまう。この事態を解決するタイムトラベルのキーとなるのはテグリディ農園の大麻と、施設のファイアウォールを突破するためにケニーの助手とされる「ヴィクター・チャオス」という名の人物、そしてタイムマシンの暴走から命を守るためのアルミニウムの確保だった。

 

 前作で老人ホームから逃げ出したランディは、焼け残った農園から新たに芽吹いた大麻の生き残りを大事に抱えていたところを、トークンによって保護される。あとは「ヴィクター・チャオス」と出会うためにスタンとカイルはチャオスが収容されていると言うサウスパーク精神病棟プラスへ、そしてトゥイークとクレイグは世界的な品不足に陥っている貴重なアルミニウムの確保へ向かうのであった。

 

 しかし、不穏な動きを見せている人物が一人。ユダヤ教のラビとなったカートマンである。パンデミック以降の世界で幸せな家庭を手に入れたカートマンは、タイムトラベル計画を失敗させるために暗躍する。カートマンは教会をベースに「タイムトラベルに反対する機関(Foundation Against Time Travel)」を立ち上げ、愛する家族をアンネ・フランクよろしく屋根裏部屋に隠す。FATTにはドクター・フー』のコンベンションだと勘違いしたケヴィン*2ような人間もいるが、機関員にタイムトラベルの阻止を指示する。 

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 さて、精神病棟に向かったスタンとカイル。チャオスに合わせて欲しいと院長に懇願するが、チャオスはあまりにも多くの人々の人生を破壊した危険な人物であるため監禁されていることを警告される。「僕はサウスパークに40年も住んでいるのに、そんな人の話は聞いたことがないよ!」と訝しむカイルだったが、カルテを見て納得する。ヴィクター・チャオスの正体はヴィクター・カオス(Victor Chaos)、つまりバターズだったのだ。

 

 なんとか、院長の許しを得てチャオス、もといバターズと面会するスタンとカイル。厳重な牢屋に入れられていた割には、いつもの朗らかなバターズで面食らう。「バターズ、僕たちスタンとカイルだよ…」「スタンとカイル?知らないな!俺はヴィクター・カオス!そんなことより、君たちお金を儲けたくないか?NFTって知ってるか?」とバターズが暗号資産の話を持ちかけたところで警報が鳴り、警備員にスタンとカイルは檻から追い出され、バターズは消化器で制圧させられる。

 

 院長からの話によると、バターズはパンデミックが始まった頃、両親に外出禁止を命じられたものの、コロナが収まった頃に両親が遊びに出かけたまま家に帰って来なくなってしまった。16年もの間1人で外出禁止を守っていたバターズはiPadでNFTのことを知り、家を飛び出して人々を上手く話に乗せてNFTを買わせ、購買者の人生を破綻に追い込んでいた。「やっぱり面会なんかさせるんじゃなかった!」と院長は二人を追い出すが、バターズはカイルからもらった一枚の紙切れを使い、看守にNFTを買わせ、見事に病棟を脱出するのであった。

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 さて、サウスーパーク小学校のマコーミックラボに残ったウェンディたちは、政府に救援要請をかけていた。「このマコーミクロン株のパンデミックを終わらせる方法がわかるのかね?」「はい…ただし、ケニー博士の施設を運用するには強力な電力が必要なんです!」「分かった、いますぐ救援を送る…ところで、そこにいる人間は全員ワクチンを打っているかね?」ウェンディがふと目をやると、反ワクチン主義者のクライドが立っていた。「僕はワクチン打ってませんし、打つつもりはありません」とクライドが勝手に答えてしまったために、政府からの救援は断ち切られてしまい、ウェンディたちを呆れさせる。

 

 そんなクライドがある日教室でリサーチをしていると、外にいたカートマンから呼び出される。「ラビ様どこにいたの?みんな探してたよ」「オイラはカイルたちがやっていることをリサーチをしていたんだよ、クライド…。つまり、皆それぞれ何が正しいのかを勝手にオイラたちに伝えて、それに沿うように行動しろというけどさ、オイラは個人なんだ!疑問を持つ自由がある!」カートマンの演説は陰謀論者のクライドに妙に刺さる。

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 「クライド、FATTという団体を聞いたことがあるかね?」「ないけど?」「タイムトラベルをしたい連中は『あれが科学だ』『これが科学だ』というけど、オイラたちFATTは『科学なんて知らねーよ!誰がそんな科学を思いついてるんだ?』って人々の目を覚まさせるカッコいい団体なんだ。どうだい、クライド寝返らないか?」と誘惑すると、クライドは「ああ、そっちに入る」とあっさり答える。「ようこそクライド!ところで、今タイムトラベルの進捗具合はどうなってるんだ?」「別に何も進んでないよ。タイムトラベルにはバターズが必要なんだよね」「バターズ!?」と驚くカートマンは、スタンとカイルより先にバターズを見つけ出そうと動く。

 

 一方でバターズが解き放たれてしまったサウスパーク中のあちこちで、人々がNFTを購入した後に絶望して死んでいく。それを手がかりに追いかけるスタンとカイルだったが、あまりの早さで人々が財産を失っていき、追いつかない。さて、そんなバターズは老人ホームでNFTを老い先短い老人たちに買わせようとしていた。プレゼンも絶好調でトイレで機嫌良くオシッコをしていると、ラビカートマンが待ち受けているのであった…。

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 『THE RETURN OF COVID』は『POST COVID』が打ち立てた様々な伏線を解消していく見事な完結編であった。40年後の田舎町ということで前作はスティーブン・キングオマージュが強かったが、タイムトラベルを主軸にした今作はディストピアから世界を救う『バック・トゥ・ザ・フューチャー part2』の影響を感じ、また笑ってしまうくらい『ターミネーター』のパロディも登場する。また、余談だがタイムトラベルをプロットに採用したのは『アベンジャーズ/エンドゲーム』のヒットも無視できないだろう。

 

 今作でトレイとマットがターゲットにした事象は前作に引き続いて個人主義者たちの身勝手さNFTバブルだ。胡散臭さ前回のバターズが耳障りのいい話で人々の人生を破壊していく様はまるでインフルエンサーを象徴しているようでもあり、ひろゆきやメンタリストDaiGoやオリラジやらが流行ってしまう時代精神もうまく反映している。

 

 そして、当然なぜコロナ以後の世界はこんなにも狂ってしまい、分断してしまったのか、という問に対して、トレイとマットは実にシンプルで感動的な答えを用意している。それは「人類みんな初めてのパンデミックで、不安だから」ということだ。つまり、もっとチルして生きろよ、ということでもあり、あまりにも馬鹿馬鹿しい解決法には笑ったが、そこには政治的対立もイデオロギーも関係なく融和する人類の姿が描かれていて思わず目頭が熱くなってしまったほどだ。

 

 さて、先ほどタイムトラベルについて述べたが、実は本作はクリスマス映画にもなっていて、プロット的に一番影響を受けているのは素晴らしき哉、人生!ではないかと思っている。オチになってしまうのであまり言えないが、サウスパーク中の人々が幸せになる一方で、ある人物だけトンデモない不幸な結末を迎える。本作での彼のモチベーションやアクションを考えるとあまりにも酷でアメリカの『サウスパーク』ファンコミュニティの間でも賛否両論を呼んでいるのだが、彼が今までしてきたことを考えるとある意味妥当とも言える…。

 

 この衝撃のオチも含めて『POST COVID』二部作を是非見ていただきたいが、Paramount+のない日本で見れる手段はあるのか…。Netflixなどで無事に配信されることを祈りたい。

*1:余談だが、第16シーズン第7話『Catman Finds Love』でカイルとニコールが見に行った試合もナゲッツVSクリッパーズだった

*2:ケヴィンはいつもカートマンが立ち上げる団体に勘違いして入団してイライラさせている