HBO MAX作品『ピースメイカー』はジェームズ・ガンの禊の作品!?

 昨年末に1か月だけのつもりで契約したHBO MAXの支払いサイクルが近づいてきてしまったので、急いでHBO MAXオリジナル作品『ピースメイカー』を観ました。こちらは『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』に登場したピースメイカーにスポットを当てたスピンオフドラマシリーズであり、映画に続いてジェームズ・ガンが脚本と第一話から第三話の監督を担当しているんですね。

f:id:HKtaiyaki:20220120031234p:plain

 

 映画ではピースメイカーはアマンダ・ウォーラーから直属の名を受けていてタスク・フォースXを裏切ってリック・フラッグを殺し、その後ブラッド・スポーツに喉元を撃たれたものの、奇跡的に一命を取り留めたところからこのドラマ版は始まります。ようやく退院し、久々にシャバの空気が吸えると思いきや、今度は政府機関のA.R.G.U.S.の元で強制的に働かされることになるのです。

 

 映画ではラディカルに正義を心棒するあまり、残酷な手段も厭わない暴走キャラクターで好感を持ちづらいキャラクターでしたが、ドラマ版はまさにそこを逆手に取り、ピースメイカーの不器用さに焦点を当てていてとても共感しやすいキャラクターに変わっていたのがまず驚きでした。

 

 彼は時代遅れの愛国者で、とにかく空気も読めないし倫理観もアップデートされていないし、平気で性差別的な発言をして周囲をドン引かせてしまうのですが、彼なりに友達を作って頑張ろうとするのがジョン・セナが得意とする「筋肉バカ演技」と相待って非常に可愛らしく仕上がっています。

 

 また、ここまで読んでお気づきの方も多いかもしれませんが、映画版のハードコアさは少し形を潜め、このシリーズはテレビのスケールに見合った緩いトーンになっています。初期のジェームズ・ガン作品を想起させるようなオフビートな会話ギャグが全編を覆うのですが、一方でガン作品特有の「エグみ」もいい塩梅で散りばめられています。

 

 ついでに、古い歴史のあるDCコミックスには現代的視点で見るとあまりにもバカバカしいキャラクターもいますが、そうしたキャラクターもコメディ色の強い本作では逆に活かすことができるのも面白いです。(そもそもピースメイカー自体がバカバカしい名前とデザインですし)

 

 ただ、僕がこの作品をもいていて時折ヒリヒリするのは、トランプ以後のアメリカが盛り込まれていることです。愛国者ピースメイカーの父親は更につける薬もないようなド右翼で、テレビではQアノンの陰謀論番組を見ているし、普段の会話では流石のピースメイカーも引くレベルの人種差別用語を連発します。まだまだ今後の展望は見えてきませんが、KKKを模したような集団が出てくることも暗示されます。

 

 ここからは僕の推察ですが、差別主義者の父親とポリティカルコレクトネスの狭間で揺れるピースメイカーは、まさしくジェームズ・ガン自身なのではないでしょうか。過去の差別的で露悪なツイートが掘り出されてディズニーをクビになったガンがDCに拾われて『ザ・スーサイド・スクワッド』を取ることになったのは皆さんご存知の通りだと思いますが、そこから派生した『ピースメイカー』に焦点を当てた本作はジェームズ・ガンの禊のような作品に思えてなりません。

 

 とはいっても、まだ三話が1/13に同時配信されたばかりで、残り5週間かけて残りのエピソードが配信されるので、どういった物語になるかは全然読めません。ただ、確実に言えるのは、僕は来月までHBO MAXを払い続けることになるでしょう…。もう本当にこう言う商法やめてくれないかな、アメリカの口座のお金がなくなっちゃうよ!