皆さんご存知の通り、世界は今大きな悲しみに包まれている。しかし、現実世界で酷い事象が起きた時、真っ先に笑いの対象にして立ち向かって行ったアニメが『サウスパーク』であった。そして今回のウクライナ侵攻も当然早速フィーチャー!『サウスパーク』が考える、プーチンの信仰の目的とは…!?
いつもより重々しい雰囲気が流れる、スタンのクラス。「最近のニュースでみなさんも心配しているでしょう。皆さんから不安の声も聞こえてきますので、今日は話し合いたいと思います。…私がボーイフレンドのリックと喧嘩したことについて」とギャリソン先生がクソほどどうでもいい話をしようとしていると、「ロシアが核を落とします!」という物々しい警報が流れる。パニックになって体育館へ逃げる生徒たちだったが、実はマッケイ先生が仕込んだ非常訓練だった。「今日は22秒、悪くないね、ンケーイ。もしこれが本当だったら、ここで待機して政府の発表を聞くまで、適した音楽を聞くんだよ…我々が80年代にやったようにね、ンケーイ」といってマッケイ先生が流すのはワン・チャンの『ダンスホール・デイズ』。
さて、今回の主人公バターズは、週末のポニーによるドレッサージュ(馬場馬術)大会に向けて練習をしている。厳しいストッチ夫婦はバターズの馬術能力のなさに苛立つだけでなく、ロシア系のソロコフ家の息子さんが上手くポニーを乗りこなしていることに危機感を覚える。「俺たちの自由がお前ら共産主義者に奪われてたまるか!」と子供相手に本気のブーイングをするスティーブン。
一方、マッケイ先生が事務室でピーター・ガブリアルの「ゲームズ・ウィズアウト・フロンティアーズ」を聴きながら耽っていた。そこへPC校長がマッケイに注意しにやってきた。
「今日の午後に核爆弾への避難訓練を行ったと聞いたが?」
「ええ、その通りです。我々は準備をしなければいけません!」
「マッケイ先生、これで2日間で7回目の訓練だぞ?それに聞くところによると核シェルターの整備と『レッド・ドーン』のVHSに大量の予算を費やしているそうだが?」
「VHSは最強のフォーマットなんだよね、ンケーイ」
「マッケイ先生…少し心配なのだが、ちょっとノスタルジーに浸りすぎていないか?まるで楽しんでいるようにも見える」
怒ったマッケイ先生はカセットテープを止める。
「楽しんでるですって!?私の仕事は生徒たちに準備をさせること、そしてロシアの恐ろしさを教えることです!」「なんでもいいが、これは命令だ!とにかく訓練をやめて、生徒の頭に変なアイディアを植え付けないこと!」と言ってPC校長が部屋を去るのを見計らうと、マッケイ先生はスパイ映画のような身のこなしでPC校長の部屋に侵入して物色する。「一体お前は何を企んでいるんだ?」
話は戻って馬術場へ。スティーブンはバターズにハッパをかける。
「いいかバターズ、ドレッサージュ大会まであと2日しかない!」
「ベストを尽くすよ、パパ!」
「いいや、それ以上にやらないといけない!あそこに見えるロシア人の子供が見えるか?あいつはお前のことなんかクソほどにも思っていない、ただただ勝ちたいと思っている。そして我が国に残ったほんの少しの愛国心ですら奪おうとしているんだ!」
「…あの子が?」
「お前は冷戦時代には生まれていなかったかもしれないが、俺たちは知っている。この大会もどうせ政治劇に巻き込まれるんだ!…だからお前は勝たないといけない。でないと、お前のポニーも共産主義者に奪われて、スキンクリームにされちまうんだ。…まあそれはどっちかっていうと中国がすることだが、共産主義は共産主義だ、関係ない。さあ、アメリカ人がどうやって馬に乗るか見せてやれ!」
愛馬メランコリーの命にプレッシャーをかけられたバターズは頑張って乗りこなそうとするも、メランコリーは棒高跳びの前に脱糞したり、他の馬に発情して襲い掛かったり制御がまるで効かない。その様子を見てますます絶望するストッチ夫妻。
翌日。マッケイ先生はPC校長こと「ピーター・チャールズ」をロシアのスパイと疑い、素性を調べていた。そこへバターズが相談にやってくる。「先生、実は家でうまくいっていないんです」と打ち明けるも、マッケイ先生は「へー、そうなんだ、良かったね」と返すばかりで調査に夢中で聞いていない。「僕は興味のあったドレッサージュを始めて、大好きなメランコリーに乗るのが楽しかったのに、最近はプレッシャーなんだ。僕のパパとママがロシア人に絶対に勝たなくてはいけないって…」「へー、そうなんだ…って、ロシア人だって!?」とマッケイ先生は態度を豹変する。
「ただ馬に乗るのが上手い子なんだけど、パパは国家の安全保障の問題だっていうんだ」「いいか、バターズ、ドレッサージュについて知っていることを全て話しなさい!」とバターズに迫るマッケイ先生だったが…!
『サウスパーク』はこれまでの番組の歴史の中で、前日にあった大統領選の結果を反映させるなど、ギリギリの納期の中で時事ネタを取り入れる制作体制を構築してきたし、それがシリーズのアイデンティティにもなっていた。しかし、番組がコロナ禍で2年間休まざるを得なかったは、テレワーク体制になったためフレッシュな時事ネタをそのまま番組に取り入れるのが難しかったからだ。今期はどういう制作体制なのかは不明だが、前週1週間休んだ分もあってか久々にタイムリーなネタを提供している。
キーとなるのは80sへの危険なノスタルジー。過去のエピソードでも「なつかしベリー」などで度々批判してきたものだが、確かにプーチンがウクライナに固執するのも「古き良き」ソ連時代への郷愁があってのことだろう。もちろん、それは「アメリカをもう一度偉大に!」などに通じる危険な時代精神だ。
2010年代中盤からやたらと80年代ポップカルチャーが引用されていたが、やはりあれに浸ってはいけなかったのだな。そして毎度のことだが、それに気づいていたトレイとマットの先見の明には驚かされるばかりだ。ただ、このエピソードではギャグとして節々に『レッド・オクトーバーを追え!』や『ウォーゲーム』などの冷戦時代のポップカルチャーが引用されており、エンディングが『ロッキーIV』のパロディになっているのが笑えるし、しかし現実がこんなに簡単に終わらないのを考えると虚しい。
さて、このエピソードは『サウスパーク』の意外な真実を2つ明かしている。1つはPC校長の本名が明かされたこと、そしてマッケイ先生のお母さんが登場したこと。その強烈なキャラは本編を見てのお楽しみ、ンケーイ!