板橋を去るのだ

 いよいよあと6時間後には引っ越しが始まる。つまり、2年間住んだ板橋の部屋を離れるのだ。本当はこんなブログなんか書いている暇はないくらい荷造りでてんやわんやなのだが、それでも感傷的にならざるを得ないのは、ようやくこの部屋と別れる日が来てしまったからだ。

 

 この家は元々亡くなった祖母の部屋だった。コロナが拡大していた頃、仕事柄どうしても外出する機会が多くなると思ったので、自分から両親にコロナが感染ることなどないように一人暮らしをすることになり、空き家となった祖母の家に転がり込んでいた。名目上はこの部屋を1年以内に売るので、それまでに遺品整理をすることだったが、もちろんそんなことをする訳もなく、むしろ撮影機材などで物は増え、なんだかんだで2年間経ってしまった。

 

 片付けをする気にならなかった理由は、やはり祖母のものを僕の判断で勝手に捨てるのは忍びなかったからだ。祖母が倒れて老人ホームに入居する日のまま部屋を残していたし、なんならカレンダーも2017年の7月でずっと時が止まっている。2019年夏、祖母が亡くなった時僕はアメリカにいたので、祖母の死に目に会えなかった。当時ブログにも書いていたけど、過酷な労働環境でいろんな不幸が重なって精神的にはボロボロだった。で、この家に住んでいる最中はこの家を婆ちゃんが元気だった頃のまま残しておくのが僕の責務だったような気がしたのだ。(その割には大分散らかしてしまったけど)

 

 が、僕も30を超え、人生で次のステージに進む時が来た。また新天地で暮らすことになったが、それはつまり遂に祖母が住んでいた家を手放すことを意味する。子供の時から遊びに来ていた家なので、一抹の寂しさはあるのだけれど、まあ過去に縋っているのは良くないからね。なお、冷蔵庫を持っていくつもりなのだが、一番下の冷凍庫には祖母が生前作っていた糠漬けがある。祖母の特製レシピであり、「私が死んだらこのぬか漬けと一緒に墓に埋めてちょうだい」と言っていたほど大切にしていた代物だが、残念だが今回捨てることになる。もうこの糠漬けを作れる人間はこの地球上に存在しない。

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