願わくば、バスケに集中できる世の中を

 現在NBAプレーオフは東西カンファレンスファイナル中で大盛り上がりの最中です。特に今年はゴールデンステート・ウォリアーズがかつての王朝時代を想起させるような強さで嫌になっちゃうくらいですが、本日マブズ戦前に敵地ダラスでの会見に現れたスティーブ・カーHCの表情は、3連勝中のチームの知将とは思えないほど険しい物でした。

バスケットボールについて話すつもりはない。(前回会見した)6時間前と変わったことは何もない。

(中略)

この10日でNY州バッファローのスーパーマーケットで黒人のご老人が殺され、南カリフォルニア州の教会ではアジア人が殺され、いまや子供たちが殺された。いつになったら我々は行動するんだ!

 

 もちろん、この会見場から僅か375マイルほどしか離れていない、同じテキサス州ユバルディの小学校で起きた銃乱射事件を受けてのことです。テーブルを叩きつけるスティーブ・カーの激昂っぷりにビックリしましたが、彼の憤りも理解できます。カー自身の父親も大学教授をしていたレバノンベイルートでテロの標的となって亡くなった過去があり、カーは既に銃暴力の被害者の一人でした。

 

(銃事件が起きるたびに)ここに上がって遺された家族のためにお悔やみの言葉を述べることにうんざりしている。沈黙にうんざりしている。もう十分だ。

 

(中略)

 

下院が数年前に通した、銃購入時のバックグラウンドチェックを義務付けるH.R.8法に反対する上院議員が今この瞬間にも50人ほどいる。ヤツらが投票に応じないのは、権力にしがみつくためだ。(法案に反対する)あなたたちに問いたい。あんたたちは、自分の権力のために、我々の子供やお年寄り、宗教家の命を差し出せと言っているのか?

 

(中略)

 

この50人の議員は我々の命を人質にとっている。支持政党の違いにもかかわらず、90%のアメリカ人がバックグラウンドチェックを望んでいるんだ。我々アメリカ人が望んでいるにもかかわらず、自分の権力にしがみつきたいために1票を投じることもできないんだ。情けない!

 

 結局この日、スティーブ・カーはバスケのことに触れることは一切なく、H.R.8法に反対する議員を痛烈に批判しました。その後、試合は予定通り開催されましたが、試合前に行われた追悼の時間でのカーの表情を見ると彼が抱いている悲痛さが嫌というほど伝わってきました。試合にはマーベリックスが10点差でこのシリーズ初めての勝利を決めましたが、カーHCにとって試合結果なんてどうでもいいことだったかもしれません。

 

 このブログでも常々書いている通り、NBAの素晴らしさはバスケットボールというプラットフォームを使って、その構成員である選手やコーチが積極的に社会的な発言を行なっていることです。しかし、本来はそんな発言をしなくてもいい健全なアメリカ社会であってほしいところですが、残念ながら解決の糸口は全く見えてきません。僕のアーカンソー時代の知り合いもFBで殊更銃の必要性を訴えていました。病理は深い。