ジョージ・ルーカス=庵野秀明説

 今ディズニー+ でILMの黎明期を追った『ライト&マジック』を観ているんですが、これが滅茶苦茶面白いんです。

 

 

 中学・高校生くらいの時までは映画本編よりもボーナスディスクについてくるメイキングドキュメンタリーが大好きでDVDを買っていまして、『スター・ウォーズ』の旧三部作作ボックスの特典DVDも当然全部舐め回すように観ていましたが、大人になって映像業界で働き、色んなことに対する知識がついてから見るILMの舞台裏や『新たなる希望』のメイキングはまさに目から鱗の連続でした。

 

 ルーカスは頭の中にあるものを具現化するためにルーカスフィルムILMを作った訳ですが、今や常識として語られているこのエピソードも具に観ていくとトンデモない事だったことがわかります。何故なら当時は特殊効果を専門とした会社はほとんどなかったわけで、オフィスからカメラをはじめとした機材からシステムまで全て0から作り上げていかなかった訳です。

 

 誰もやったことのないことをシステム化するので、当然現場には苦労やプレッシャーがイザコザあったことがドキュメンタリーから見受けられますが、それでもジョン・ダイクストラを中心とした伝説的な特殊効果アーティストたちは若さとエネルギーと熱量で乗り切っていく様が爽快です。苦労の末に完成した『新たなる希望』をプレミアで見た時の感想を語っている各人のインタビュー映像を見ていて、思わず泣いてしまいそうになりました。

 

 で、僕がそれ以上に驚愕したのは、映画史に残る作品となった『新たなる希望』は、実はジョージ・ルーカスの頭の中にある理想のたった25%しか実現できなかったそうです。誰も見たことがない世界を映し出した一方で、完璧主義者のルーカスは自分の思い描いていた世界を完璧に再現できないストレスやプレッシャーから狭心症を発症して病院に行ったほどだそうですが、理想と現実の乖離はジョン・ダイクストラとぶつかりあった原因の一つになります。

 

 このドキュメンタリーを観ていて凄くルーカスに共感したのは、ルーカスが常々「脳みそを電極に繋げて頭にあるものを映し出せたら良いのに」と語っていたことです。というのも、僕なんかは絵コンテを描くのが苦手で、撮影中に自分の意図や頭の中にある構図をカメラマンに伝えるのが凄くもどかしく、いつも「自分の頭にある映像がそのままスクリーンに映し出せたら良いのに」と思っていたからです。もちろん、自分とルーカスを比べるなんて烏滸がましいにも程がありますが、それでもルーカスほどの天才も自分と同じような苦悩を持っているのが驚きでもあり、少しうれしくもありました。

 

 ちなみに、このルーカスの苦悩に僕が重ね合わせた人物が、去年『プロフェッショナル』で目撃した庵野秀明でした。完璧主義者の庵野秀明もどれだけスタッフが尽力しても、自分が理想とする作品には中々近づけず、公開直前まで作業している様子が捉えられていました。『シン・ウルトラマン』のデザインワークスでも庵野秀明が短い納期と限られた予算の中でのVFXの出来に少しガッカリしている旨の発言をしていましたが、まさにルーカスと同じことを言っています。ちなみに、庵野秀明も既存の映画作りにとらわれず、自ら会社を立ち上げて常に新しい制作方法を模索しているのも、ルーカスと重なるところです。

 

 なお、『新たなる希望』の撮影現場はトラブルの連続でルーカスを追い詰めましたが、ルーカスはこんなことを言っていました。「もし僕が映画作りのアドバイスをするなら、忍耐強くあれ、ということだ。諦めたり挫折してしまったらそこで全てが終わってしまう。不可能な状況下でも、頑張るしかないんだ」この含蓄ある言葉の味噌は、「映画監督」としてのアドバイスではなく、「映画作り(Filmmaking)」のアドバイスであることです。

 

 明日から、また地獄のようなアシスタント仕事の日々が始まり、実は今からあれこれ考えて震えているんですが、どんなトラブルが待ち受けようと、結局それを乗り越えることでしか解決できないんですね。誰の言葉だったかは忘れてしまいましたが、ある映画監督は「映画作りは機関車のようで、一度走り始めたら止められない」的なことを言っていたと思います。映画監督を志す身としての勇気のあるアドバイスになりましたが、逆に大きい現場の末端で働く身にとっても、どんな辛い仕事でも終わりは必ず来ると言うアドバイスにもなります。なんだかまとまらない文章になってしまいましたが、とりあえずルーカスが言う通り忍耐強く汽車に乗って頑張りたいと思います。