『王の帰還』IMAX版を鑑賞して中つ国から帰還した。

 9月末からIMAX版公開を期に再鑑賞していた『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズもいよいよ『王の帰還』で終わりとなる。初見は大学時代に家のテレビで観たDVDであり、当時のTwitterを観ると偉そうな事を書くもあまりハマらなかった感想が並んでいたが、IMAXで観る三部作は格別な体験であった。

 

 これはもう『旅の仲間』の時から書いてきた事だが、なんと言っても実存感が違う。仕事柄、映画を観る時につい照明の位置やカメラワークなど、余計な舞台裏を考えてしまう癖がついてしまっているが、『ロード・オブ・ザ・リング』は時折そう言った雑念を忘れさせて純粋に中つ国を信じさせてくれた。

 

 『スター・ウォーズ』6部作など、優れた創作物はバックグラウンドの文化や社会まで想像させてくれるが、ガンダルフが飛蔭に乗ってミナス・ティリスを駆け登っていくシーンで、この都市ではどういうセキュリティ体制がひかれ、人々がどのように仕事に行き、商売を行っているか、という細部のことを思わず考えさせてくれた。

 

 一方で何故か脳の片隅に浮かんだのは『マレフィセント2』や『スノーホワイト』などの『LOTR』のなりぞこないのファンタジー作品たちで、それらの作品に登場するエキストラはただスタジオに雇われたエキストラ以外の何者でもない。エキストラの演出は主に助監督の仕事ではあるが、こうした細かいところまで世界の呼吸を感じさせてくれるのが『LOTR』の凄いところだ。

 

 トールキンが生み出した『指輪物語』には実に多様な種族が暮らす豊かな世界ではあるけれど、一つ現代的視点で映画版に難癖をつけるとしたら「は、白人ばかり…!」と感じてしまった事だな。メイキングとか観てると意外とマイノリティのエキストラなんかもいるが、大抵がオークの特殊メイクを施されている敵役。「多種多様な世界」と言っても、あくまで中世ヨーロッパ的な価値観の中での話だ。かと言って、正直実写版『シンデレラ』や『美女と野獣』とかで貴族として黒人が炎上対策の申し訳なさ程度に出演しているのを観ていると僕も非常にモヤモヤしたものを感じる訳で、そういう意味では現代において中世ヨーロッパをモデルにしたファンタジー世界の創造は難しく、『LOTR』シリーズはある意味限界地点だったのではないかと思う。なお、未だドラマシリーズは見ていない。

 

 あ、あとエンドロールでデカデカと「EXECUTIVE PRODUCER HARVEY WEINSTEIN」と出る気まずさよ…。まあ、ミラマックスでの企画準備期間の名残とはいえ、これまた現代的視点で見ることの弊害よな…。