ハリウッドの現場で叫ばれる「Abby Singer shot」とは?

 以前もブログに書いたが、海外作品の現場に参加していると色んな用語を覚える。例えば、1st AD(日本で言うチーフ助監督)が「Martini shot(マティーニ・ショット)」を宣言すれば、それはこれから撮影するショットがその日の最後に撮影するショットを意味し、スタッフは内心安堵する。

 

 で、最近覚えた用語に「Abby Singer shot(アビー・シンガー・ショット)」がある。これはマティーニ・ショットの前、つまりその日に撮影する最後から2番目のショットなのだ。わざわざ最後から2番目を宣言するのも不思議な話だし、お酒を指すマティーニと違ってアビー・シンガーが何を意味するのかよく分からない。

 

 それもそのはず、調べてみてわかったことだが、アビー・シンガーとは1950年台から1980年台にかけて活躍した、アメリカの有名な1st ADの名前だったのだ。曰く、アビー・シンガーはスタッフに「今日はあと何ショット残っているのか」と聞かれると、アビーは必ず「このショットと、あともう1ショット撮る」と答えていた、という逸話からアビー・シンガー・ショットという業界用語が生まれたそうだ。

 

 アビー・シンガーがわざわざ最後から2番目のショットをコールしていたのは、当時のテレビドラマの撮影では1日に5から6現場を移動することが普通で、最後から2番目のショットをスタッフに周知することで、機材の撤収や車両の手配を余裕をもって行うことができ、スムーズな移動を可能にしたからだそうだ。ADは現場を円滑に回すために必要不可欠な存在であるが、この逸話だけで如何にアビーが優秀なADだったかが窺える。

 

 なお、日本における助監督とハリウッドにおけるADは、現場における権限や責任において大きく異なると感じる。その詳細については時間がある時にまた今度!明日も4時起きなので…