クマは増えているか?

 昨日・今日は猟師の知人と過ごすという不思議な日だったのですが、そこで聞いた話をば。昨今ニュースでも騒がれているように、熊の被害が増えている。目撃件数も増えており、これ以上増えて被害が拡大する前に、SNS上ではクマを徹底的に駆除すべきだという声が高まっているが、事態はもっと複雑である。

 

 まず大前提としてクマの数は増えておらず、むしろ減っているという。クマが人里に現れる事が多くなったのは気候変動によりブナやどんぐりが減り主食が無くなっているからだ。人里に熊が現れるとクマの被害も当然増えてくる。そうなるとニュースになり、自治体の広報がクマの目撃情報を届けるように促す。多くの人はニュース見て警戒するので、例えば以前ならば1頭の目撃に1人が通報していれば1件の目撃情報になっていたが、今は1頭の目撃した4人が通報するので4件の目撃情報になる。

 

 つまり、メディアの煽動によりクマの目撃情報報告件数事態は増えたが、クマの数は増えていないのだ。さらに、タチの悪いことに年老いた猟師の間ではスポーツハンティングで狩猟を行う人々が多いそうだ。多くの都道府県で自治体毎にシーズン毎の狩猟上限というものが動物毎に定められている。たとえば石川県では昨シーズンのクマの狩猟上限は250頭だったそうだ。

 

 あくまでこれは狩猟解禁シーズン中に狩っていい数ではあるが、しかし実態としては解禁前にも関わらず、クマを狩る猟師は多い。これは猟の歴史を振り返ることになるのだが、単純に食料を得るための手段として猟をしていた時代から高度経済成長を経て食料自給率が上がり、猟は己の腕を見せるために行われる側面が強くなった。近年では持続可能な環境作りを学んだ若い世代の猟師が増えてきたが、猟師業界も基本的には高齢化しているため、最も人口が多いのは50~60代の「スポーツハンティング」として楽しむ猟師である。

 

 彼らは娯楽や自慢話のためにクマを撃つけれど、もちろんシーズン外では違法となるので自治体に報告することはない。そうなってくると、自治体が設定している狩猟上限数との辻褄が合ってこないのだ。

 

 クマを守れ、で済む話でもない。事実として、人里に降りてくるクマは人の脅威であり、駆除の対象とすべきである。しかし、現実に何が起きているかは報道せず、ただ単にクマの恐怖ばかり煽り、SNSで過剰な意見ばかり蔓延させる現状にも問題があることには違いない。すべてに白黒つけたがる二元論社会の悪しき弊害が、こんなところにもきているんだなと猟師さんの話を聞いてしみじみ思ったのだ。