『トランスフォーマー/ONE』が自由意志で独裁体制からの民主化を目指すアニメ映画でビックリした!

 最近忙しくて全然映画館に通えてなかったのですが、今日久しぶりに劇場に足を運んで何を観ようかなと迷ったところ、『トランスフォーマー/ONE』が頭空っぽにできそうだなと思って選んでみたら超ビックリ、こらがめちゃくちゃ政治的な映画だったんです!

 

 この映画ではオートボットディセプティコンの内戦でサイバトロン星が戦場と化す前の時代が描かれます。パックス(後のオプティマス・プライム)はヤンチャでD(後のメガトロン)は真面目だった、という描写も意外で笑えるんですが、この二人が仲睦まじい親友だったことを示す描写が丁寧に描かれて、これがのちの展開を予想させて既にちょっとエモいんですね。

 

 冒頭から映画的快楽に溢れたアクションシークエンスがあり、僕は最初から割とエンタメ的に心を鷲掴みにされていたんですが、よくできた子供向けアニメかと思っていたら映画が進むにつれてサイバトロン星がとんでもないディストピアだと判明し、別のギアが入ったように面白くなるので僕は驚愕してしまいました。

 

 公開されたばかりの映画なのでどこまで詳しく書いていいか悩みますが、本作は為政者が情報統制と嘘により人民をコントロールしている独裁社会を描いているんですね。労働者階級として生まれたボットには変身能力がなく、規則に従い資源を採掘することだけを生き甲斐としており、生産性が落ちると為政者はプロパガンダと娯楽により人民の士気を上げるという、独裁社会としてこれ以上ないくらいのお手本のシステムを築いています。

 

 そこで、主人公達が真実に目覚め、この真実を人民に広める事で民主化を図ろうとするのですが、何故パックスが真実に辿り着けたかというと、彼に自由意志があったからなんですね。これは本作の監督が『トイ・ストーリー4』も手がけたジョシュ・クーリーだと知ってなおのこと納得したのですが、『トイ・ストーリー4』もオモチャとしての役割に縛られていたウッディが自由意志を獲得する話*1でした。本作においてもほとんどのボットが盲信的に体制の言いなりになっている中、パックスだけ自らの可能性を信じて社会のレールから逸脱しようとした結果、真実に辿り着きます。そして本作には、ご丁寧にもレールから投げ飛ばされるシークエンスがあります。

 

 なお、本作の真実をめぐる戦いは、明らかに現代社会においてポピュリスト政治家たちがフェイクニュースや都合のいい「真実」を利用し、支持を得ている状況から着想を得ているのでしょう。それはそれでメタファーとして面白く観れたのですが、一方で僕は本作が描く「真実」を武器にした戦いは、陰謀論にも利用されそうなロジックなのもちょっと危険だとは思いました。ちょうど『マトリックス』が陰謀論者に好まれている映画なのと似ています。

 

 また、みなさんご存知のようにパックスとDはオプティマス・プライムとメガトロンとなり、袂を分つことになるのですが、これもそれぞれの正義への考え方の違いによるものです。元が勧善懲悪のアニメシリーズなので仕方がないものの、一方を正しく、他方を悪としてキッパリと描いてしまうのは、イスラエルが己の正義を信じ、テロリストが潜んでいるとしてガザやレバノンへの攻撃を正当化している状況をついつい思い浮かべてしまい、複雑な気分になりました。

 

 このように、ちょっと色々と思うところはあるものの、結果としては思考を深く重ねられる映画でした。これを子供が観に行くことを前提として作っていると考えると、やはりハリウッドのストーリーテリング力というのは末恐ろしいなと思いました。マイケル・ベイのロジックを捨てて爆発を優先したシリーズもいいですが、本作は間違いなくフランチャイズ史上一番深い作品です。トランスフォームが変身だけでなく社会を変えるというダブルネーミングになっているのも良い。必見!

 

 

*1:賛否両論ありつつも、僕はここが『トイ・ストーリー4』の素晴らしいところだと思いました。それだけに、『トイ・ストーリー5』はもういいだろ…という気がします