悲しいよ、僕は…

 僕は浪人時代に通っていた予備校が大好きだった。知らない人はいない超有名予備校だったが、それまで詰め込み型の勉強だけしかしてこなかった僕にとって、毎日が目から鱗で刺激的だった。どの講師の授業もユニークで楽しく、ただ答えや解法を覚えるだけでなく、なぜそうなるのかという論理を大事にする授業ばかりだった。

 

 その中でも好きだったのは世界史の某講師だった。その講師は授業中に歴史上の人物に憑依し、突然寸劇を繰り広げる。その国や人物が何故そのような政策を取ったのか、なぜ戦争をしたのか、その社会システムはどう言ったものなのか、物語形式で教えてくれるので、歴史用語が単なる単語を超えて頭の中に入っていった。

 

 その講師の特色として、ホームページで師の講義を音声ファイルで配布しているという点だった。まだポッドキャストYouTubeも今ほど流行っていなかった時代で、これは画期的だった。当時はもちろんiPodに入れて通学中に聞いていたし、師の授業は単純にエンタメとして面白かったので、卒業後も度々ホームページに訪れて講義を聞いていた。

 

 ところが、ちょっときな臭いと思ったのは、師のブログだった。師は授業中からも時に感情的になり一人でに歴史上の人物になりきって怒鳴り始める思想の強さも感じられたが、師は愛国保守だった。ただの保守論客ならまだしも、いわゆるネット右翼の言説を展開していて、ヘイトや陰謀論的な主張に満ちたものだった。いつしか師はYouTubeも始めて十数万人規模のチャンネルとなり、保守系の番組やイベントでも頻繁に呼ばれるようになり、百年の恋も冷めるスピードで予備校時代の憧れは消え失せていった。

 

 さて、今日『スケッチブック』のネタを探そうとTwitterを開いていたら、反ワクチンの集会動画が流れてきた。何気なく開いたら、びっくり仰天。師が演説していたのである。反ワクチンなんて、もう保守でも右翼でもなんでもないじゃないか…。大好きだった存在がここまで堕ちぶれる様を見るのはもう悲しい以外の何者でもないし、こんな陰謀論者が今も未成年達の前で教鞭をとっていると思うと、恐ろしくて仕方がない。そういや、なんか気功とかそういうの好きな人だったな…。

 

 余談だが皮肉なことに、僕は最近ワクチンに関する仕事をした。先生、あなたの教え子は大人になりましたよ…。