いやー、凄まじく酷かった!!!!もちろん前半の酷さから期待はほぼなくて、かつて『踊る』シリーズに魅了されていたファンの責務として指輪を滅びの山に捨てに行くフロドの気持ちで観に行った訳だけども、分かっていても酷くて辛い…。
前編の『敗れざる者』で色んなエピソードを積み立てており、もちろんそれらは本作で全て解決していくと思われたのだが、それらが有機的に何一つ絡み合うことはなくあっさりと処理されていく。
もうネタバレ全開で書くけど、ひっくり返るほどアホかと思ったのがあれだけ盛り上げていた室井の家の向かいで死体が見つかった事件。この死体はレインボーブリッジ封鎖事件の犯人のうちの一人のもので、根拠はないが警察は当時の犯行グループの一人が犯人だと睨んで捜査をするが、犯人の居場所がわからない。
すると犯人が何故か捜査本部に電話をかけてきて*1、何を要求するでもなく(なんで電話したんだ!)一方的に切ったかと思えば『踊る』の世界の凶悪犯は警察が何もしなくても何故かもう一度電話を掛け直してくるバカばかりなのでまた電話がかかってきくるが、別に何も要求するわけでもなく、警察から「君たちのリーダーは誰だ?」と聞かれたら「俺たちにリーダーはいない!」とブチギレて電話を切る。
その録音を聴いた室井はその犯人の声に聞き覚えがあることと、背景の音からどうも東京の港あたりらしいと突き止めているが、何故か次のシーンでは犯人グループが特殊詐欺を行っていると思われるアパートに警察の特殊部隊が突撃する。どうやって正確な住所まで分かったんだよ!あと、この犯行グループのアパートで明らかにレインボー事件当時のメンバーが主犯格として指揮を執ってるんですけど!リーダーいないんじゃねーのかよ!
こうして捕まった犯人に対し、室井さんが取り調べを行うのだが、重要な情報を特段引き出そうとするわけでもなく、「全ての事件の裏には、苦しめられている人がいる!」と至極当たり前の説法を説き、事件は解決に向かう。いや、引退した室井さんをわざわざ引っ張り出した意味はなんだったんだよ!そんな当たり前の説法で心変わりする犯罪者だったら、21年前にしておけば今回の事件は起きなかっただろ!
あ、あともう一つ思い出した、前編の最後で室井さんが面倒を見ているリクくんを虐待していた父親は加藤浩次がムショから出てきて*2、児童相談所に行ってリクを引き取る手続きをする。で、この児童相談所はリクくんを懇切丁寧に面倒見る室井さんから、虐待経歴が明らかになっているDV親父の元に引き渡すことを決定する!
観客全員が「そりゃダメだろ!」と内心突っ込んでいるところ、加藤浩次がダメ押しで「俺、生活保護申請したいんですけど、子供いるともらえる額増えますかね?」とか児相の担当員に相談するの。今すぐ止めろよ!アホか!案の定最後虐待されて帰ってくるし!
こんな調子で全てのエピソードに対し、全部主人公たちが後手に回っているにも関わらず勝手に解決されるという。で、解決しても他のエピソードと特に関わっていないので、ペラッペラのまま映画が進んでいく。そういや、最後の最後でこれまで登場しなかった新キャラを急に出してきて、回想で無理やり登場させて感動に組み込もうとしているのは本当に最悪だったな…。*3
前回のレビューに書いたように、『踊る』シリーズは映画になって以降の出来の悪さが顕著だったが、この2部作も相変わらず最悪で、さらに伝わってくるメッセージが全部最悪である。つまり君塚良一は
- 犯罪者は更生することなくずっと犯罪者
- 生活保護を申請する奴は大概クズ
- スマホは現代社会の分断の象徴*4
- 銃は人を傷つけるのではなく、人を守るものという共和党的な考え方*5
- 田舎の人間は閉鎖的で、よそ者を偏見で判断する*6
- 秋田犬が離れないと人が死んでいる*7
ということを4時間かけて観客たちに伝えている。
元々4作目のタイトルが『THE FINAL 新たなる希望』だったんだから、もう12年前に終わらせておけばよかったんだ。『室井慎次』シリーズはそれを墓からわざわざ掘り起こしてまたぶち殺しにいったような2部作だった。そして、今作のラストでは「The ODORU Legends Still Continues...」と明らかにMCUを意識したテロップで続編を匂わせる。そこには往年のファンならビックリドッキリなサプライズがあるが、僕はゾンビのように甦らせられるシリーズの今後を思うと本当に辛く苦しい気分になった。
*1:これも本当に意味不明だったんだけど、電話に出る前から「犯人と思われる男から電話がかかってきました!」と緊張が走るんだけど、いや意味わかんねーよ!犯人の電話番号知ってんのかよ!
*2:あとこれも意味分からなかったんだけど、虐待のトラウマを見せていたリクくんが娑婆に出た加藤浩次を見て「おとうさーん!」とか満面の意味で抱きつきにいく。これマジで草稿を映画化してんの?
*3:注釈でもうネタバレ書いちゃうけど、室井さんは加藤浩次をやっつけたと思ったら、そのまま吹雪の中に逃げ出した犬を探しに行って遭難する、という本当にしょうもない理由で死ぬんだよね。そしてその後のモンタージュで元々覚悟したような描写が明かされるが、じゃあ吹雪の中に犬を探しに行ったのは死ぬつもりで行ったようにしか見えなくなって、見ず知らずの未成年三人預かっておいてそれはあまりにも無責任ではないかと思った。で、あの子達はどうすんのさ…
*4:スマホを持ってないことを理由に虐められたり、好きな子がそっけない態度を使ってるときにスマホ使ってたり、ここぞとネガティブなシーンでスマホが出てくるので笑いました
*5:あと、室井さんがクライマックスで子供達の前に銃を放置してどっか行くのは保護者として最悪だと思いました。アメリカの銃所有者でもそんなことしないよ!
*6:という、偏見を田舎の人にしていく映画でしたね