日本と海外のADの違い

 僕は映像作品の現場に参加する時、基本的に日本で撮影する海外作品の現場に参加しているので海外式でやることが多いのだが、毎回日本式の「助監督」と海外式の「AD」に違いがありすぎて現場でよく問題起きる。

 

 基本的には日本も海外も

  • 1st(チーフ)AD
  • 2nd AD
  • 3rd AD(またはその下に4th)

と3つ以上の階級がある。ただ、業務内容が大きく異なっている。

 

 まず先に世界で一般的な方式を述べると…

  • 1st AD...予算を鑑みながら全体スケジュールを作りつつ、現場のリーダーとして時間を管理して現場を回す。「アクション」などの掛け声も実は監督ではなくて1stADが行うことが多い。
  • 2nd AD...1st ADが作った全体スケジュールをもとに、現場の裏で日々のスケジュール=コールシートを作る。また、朝は俳優が時間通りにメイク/着替えが終えられるか支度部屋でチェックする。
  • 3rd AD…現場で俳優をケアしたり、エキストラを動かしたり、1stの指示を現場に伝えたり、基本的には1stや2ndの業務をサポートする。ハリウッドでは2nd 2nd ADと言ったりする。

 

 が、これが日本式になると…

  • チーフ 助監督…スケジュールを作る人。
  • 2nd 助監督…現場を回す人。また、衣装の管理、エキストラの演出などを行う人。
  • 3rd 助監督…美術や小道具の演出をする人。
  • 4th 助監督…見習い相当で、カチンコを切る人。予算や人手状況によっては3rdが兼任する

 と、まるで違う指揮系統になるのだ*1。余談だけど、海外ではカチンコを切るのは撮影部である2nd AC(アシスタントカメラマン)の仕事である。

 

 どちらの方式がいいとは言わないが、一番困るのは海外式と日本式がチャンポンになっている現場である。というのも、日本だと2ndは衣装の管理、3rdは美術の管理までしないといけないので、衣装部・美術部が演出部の指示なしに動けないのだ。例えば、3rd助監督は「原稿」というものをつく必要があり、劇中に出てくる小道具の内容や新聞の文字、Webサイトの作りなどを全て考えて発注する。

 

 海外の現場では全て衣装部・美術部内で管理や演出が完結するので、もう出来上がっていると思っていると衣装部・美術部が演出部から原稿ができていないことを指摘され、混乱が生じ…なんていうのはあるあるだ。

 

 先ほどどちらがいいとは言わないと書いたけど、ぶっちゃけ日本式は演出部の仕事が多すぎると思う。というか、もちろん経験値に応じて4thもしくは3rdから1stに出世していくわけだが、そうなると美術部は毎回経験の少ない3rdを当てがわれて、その3rdがようやく仕事に慣れてきたら今度は2ndに出世して、また経験の少ない3rdを当てられる…というのは、中々ストレスフルで非効率な話じゃないだろうか?*2

 

 これは日本の撮影部の独特さにもよく似ていて、海外でカメラのピントを合わせるフォーカスプラーを担うのは1st ACの仕事であるが、日本では2nd ACになる。海外の1st ACはそれ自体で食べていける責任ある役職であるが、日本では2nd ACはカメラマンになるための道筋でしかなく、ピントを送るのがうまいACはどんどん出世していき、また経験の浅い撮影部が2nd ACからキャリアを始め…とこれまた海外と真逆のシステムなのだ。

 

 日本は撮影所が存在していた頃の叩き上げシステムが、フリーランス全盛期の今でも中心となっている。ケータイでもなんでもガラパゴス化する文化が映像業界にも蔓延っているのは興味深い。

 

 

*1:僕は日本の現場経験がほとんど皆無なので、間違っていたら指摘してください

*2:余談だが、日本の場合は助監督というのはあくまでも監督になるための過程なので、優秀な人はどんどん監督となっていく。一方で、海外でADというのはそれ自体で成立している立派な職業であり、下手な新人監督よりもベテランADの方が給料が高い場合さえある。