映画愛VS経営戦略/『ザ・スタジオ』★★★

 AppleTV+『ザ・スタジオ』シーズン1を完走。セス・ローゲンエヴァン・ゴールドバーグの名コンビが自身のポイントグレイピクチャーズでプロデュース、監督と原案も務める。主人公のスタジオ代表をセス・ローゲンが演じ、共演にキャサリン・オハラ、キャスリン・ハーン、アイク・バリンホルツ、チェイス・スイ・ワンダーズらが連なる。

 

 観客がどんな思い入れを持っていようと、映画は基本的には資本主義的でマーケティング至上主義にならざるを得ない。娯楽の王様であると同時に恐ろしく金のかかる芸術でもある。あえてドライな言い方をすると、我々映画ファンに届けられる映画は、長い年月の開発期間と莫大な資金の投資、そして気の遠くなるような工数を経て届けられる商品なのだ。

 

 本作の主人公マット・レミック(セス・ローゲン)は、突如として歴史あるコンチネンタルスタジオの代表に抜擢される。映画を愛し、長年スタジオの代表になる事を夢見ていたマットは天にも昇る気持ちだ。しかし、彼の前任者パティは度重なる興行収入の業績不振を咎められ、クビになった。その代わりに選ばれたのがマットなのだが、つまり経営上の失敗は許されない事を意味していた。

 

 映画制作の舞台裏を描く「内幕物」は多い。昨年はスタントマンを描いた『フォールガイ』があったし、本邦でも『サムライタイムスリッパー』が話題となった。しかし、その多くはあくまでもクリエイター目線の作品が多いが、本作はスタジオの重鎮たちを描いているのが特徴的でフレッシュだ。

 

 これまでセス・ローゲンの映画には数々の映画引用ジョークがあったように、マットもセスをそのまま体現したような人物で映画が大好きだ。本作でもすぐに何かあると映画から引用したジョークを言うし、スタジオの代表に選ばれた当初はIPに溢れかえった現代ハリウッドに新風を吹かせようと、後世に名が残ろうような芸術映画と観客が楽しめる娯楽映画の両立を図ろうと意欲満々だ。

 

 しかし、現実は甘くなく、常に役員や株主たちから利益を求められ、1作品につき数十億ドルもの重いプレッシャーがのしかかり、マットは一筋縄ではいかない事を知る。映画好きであったはずなのに、時には利益やマーケティング判断のために映画を殺すための判断も迫られる。その上で現場の人間からは罵られ、スタジオ重役という役職が一般的なイメージよりもどれだけ辛いものかが描かれる。

 

 余談だが、これはセス・ローゲンが実際に知り合ったスタジオ重役たちがモデルとなっているという。インスタグラムで流れてきた彼のインタビューによると、セスは元ソニーの代表エイミー・パスカルと知り合った時、彼女の映画への知識量には圧倒されたという。しかし考えてみれば当然で、スタジオ代表としてエイミー・パスカルデヴィッド・フィンチャーのような大物と対峙し、説得する必要があるのだ。

 

 このシリーズがもう一つ特異なのは、こうした映画制作の裏側に説得力を求めるために、数多くの映画関係者が本人役で出演しているのだ。第1話からマーティン・スコセッシが登場して驚いたが、シャーリーズ・セロンロン・ハワード、アイスキューブといった超大物はもちろん、ピーター・バーグニコラス・ストーラーといった映画ファンしか知らないような映画監督も当たり前のように登場するし、果てはNetflixの代表テッド・サランドスまで本人役*1として登場する。

 

 また、更に大きな特徴として以前ブログにも書いたが、ほとんどのシーンが長回し1カットで撮影されている。1エピソード丸ごと長回しで撮影した第2話は話しの展開も合わさって神がかっていたが、毎回どうやって撮影したのか疑問に思うほど撮影が凄まじい。なお、全エピソード全シーン20mmの単焦点レンズのみで撮影しているようで、引いて風景を見せるショットから登場人物に寄ったクロースアップまで同じショットで写しているシーンなどもあり、それだけでカメラのとんでもない移動距離が推し量れる。

 

 こうした超絶技法含めて映画ファンなら舌を巻く事間違いなしだが、一番大事なのは純粋にコメディとして抱腹絶倒するくらい面白いという点だ。豪華なカメオがあろうと、超絶技巧の撮影が行われていようと、究極はお仕事ドラマとして視聴者誰もがその苦労に共感して笑える。本当に今年を代表する素晴らしいシリーズなので、是非ご視聴いただきたい。

*1:このカメオに関して、Apple側はティム・クックでなんとかできないかと交渉したが、セス・ローゲン側が断固として拒否。こうしたこだわりが随所に炸裂する