PIXAR最新作の『私がビーバーになる時』を観てきました。実は予告編を観た段階で かなり笑えそうだったので、それなりに期待していました。蓋を開けると、コメディという側面ではもっとポテンシャルがあった作品なのになぁ、と少し残念には思えました。ですが、映画全体の出来としては大変よく、流石のPIXARクオリティでしたね。
僕が本作で気に入っているのは分断を生まない作品だからです。根幹はわかりやすく、環境主義の主人公メイベルと都市開発を進める市長ジェリーの対立です。二人は全くお互いの意見を聞く気が持たず、文字通り左右に分かれてずっと喧嘩ばかりしてます。
冒頭では誰もが分かりやすく動物の住処を都合よく破壊するジェリーが悪役なんですけども、彼を完全な悪人として描かないバランスが素晴らしいと思いました。家に帰れば年老いた母の面倒を見るナイスガイで、市井の人からも好かれています。もちろん、賽銭のことばかり気にしていたり、好感を持てないような汚いやり方もやったりするんですけども、基本は自分が大好きでどこか憎めないようなキャラクター造形をしているんですよね。
一方、メイベルには正義があるのは非常に分かりやすいですが、彼女にはアンガーマネジメントに問題があるんですね。幼い頃からその強い正義感が暴走する様子が描かれていますが、本作でも「動物の住処を守りたい」という強い願望でカオスを巻き起こします。本作で起きている悪い事象のほとんどは彼女が起こしているといっても過言ではありません。
この両者の仲介役となっているのが哺乳類の王であるビーバーのジョージで、これまた初登場時から好まざるを得ない可愛らしいおじさんなんですけども、彼は他者を憎むことを知りません。性善説を信じており、環境破壊を続ける人間にすら「いい面はある」と見捨てません。動物だけでなく、人間も含めて我々は運命共同体なんだとメイベルに説きます。
僕はこのメッセージが非常に気に入っています。2010年代に入り、世界中の左右の分断はとても根深いものになりました。ハリウッド映画でも、その分断が分かりやすく描かれ、時には対立を煽ってしまうような映画もあります。でも『私がビーバーになる時』が描いているのは融和の姿勢です。左右の両岸を挟んで言い合っていてもしょうがない。問題を解決するためには、まずは助け合って話し合う。トゲトゲした世界の中でとても癒しのある映画だと思いました。
そういえば最近観た『プロジェクト・ヘイル・メアリー』もとてもポジティブで癒し効果のある映画でした。同時期に公開された『私がビーバーになる時』も『プロジェクト・ヘイル・メアリー』も両者共に世界中に大ヒットしているのを見ると、今世界が何を求めているのかが分かる気がしますね。
