ゴア・ヴァービンスキーだけでも復活してもらえないものだろうか…/『パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊』★☆☆

 「カリブの海賊」を元にしたアクションシリーズの最新作『パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊』を鑑賞。監督は『コンティキ』のヨアヒム・ローニング&エスペン・サンドベリ、製作はシリーズでおなじみのジェリー・ブラッカイマー。脚本は『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』『ターミナル』のジェフ・ナサンソン、前4作を扱っていたテリー・ロッシオ*1はストーリー原案に回る。お馴染みのジャック・スパロウジョニー・デップヘクター・バルボッサジェフリー・ラッシュを筆頭に、ブレントン・スウェイツ、カヤ・スコデラリオ、ハビエル・バルデムらが共演。音楽はジェフ・ザネリ。

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 映画ファンからは嫌われていることが多い『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズであるが、僕は世代直撃ということもあり、ことゴア・ヴァービンスキーが手がけた初期三部作に限っては大好きである。

 

 『パイレーツ・オブ・カリビアン』の何がそんなに大切な作品にしていたのかを考えると、やはりゴア・ヴァービンスキースラップスティックでギミック重視のアクション演出である。例えば『デッドマンズ・チェスト』の水車を使った戦いからも分かるが、AがBになるからCというアクションのロジックが非常にしっかりしており、ジャック・スパロウという考えの読めないキャラクターとは非常にマッチしている。


 

 また、海賊を題材としたシリーズということもあり、全編に漂うロマンの香りがカッコいい。初期の『パイレーツ・オブ・カリビアン』三部作は財宝と宝探しはあまり関係がなく、自由を謳歌する者たちの戦いとその矜持という側面が強かった。『呪われた海賊たち』のジャックは己に屈辱を与えたかつての部下に一矢報いるために、『デッドマンズ・チェスト』では奴隷のみから逃れるために、『ワールズ・エンド』では死にゆく自由を守るために戦った。

 

 そのロマンティシズムの極地が、戦場と化したフライング・ダッチマン号で執り行われたウィルとエリザベスの結婚式である。当然、戦闘の最中に結婚式をあげるなんて愚の骨頂という見方もあるかもしれない。しかし、彼らは海賊で己の直感に従って生きている。戦いながら彼らの式を取り持つ楽しそうなバルボッサの姿には海賊というロックな生き様が体現されていて、まるで歌舞伎の見栄のようなカッコ良さがある。

 

 個人的には『パイレーツ・オブ・カリビアン』はウィルとエリザベスの物語であったので、『生命の泉』が作られると聞いた時はガッカリした。事実、『生命の泉』は原作付きとなってしまったのが仇となったのか、前述のロマンよりも宝探しがメインになった結果下手くそな『インディ・ジョーンズと化してしまい、監督となったロブ・マーシャルゴア・ヴァービンスキーのおもちゃ箱をひっくり返したかのような楽しいケレン味演出は再現できず、ただひたすらに凡庸な作品となってしまった。

 

 さて、『最後の海賊』である。『ワールズ・エンド』から10年、『生命の泉』からもすでに6年も経って作られた。邦題に「最後」なんて付いているけど当然終わらせる気は無いのでつくづく嫌になっていたが、実際に観てみるとこれが『ワールズ・エンド』と地続きの物語であることが冒頭で判明し、ファン心理をくすぐられてしまう。そこから更にジャックが登場する際に展開される銀行強盗シーンの大仕掛けにも気持ちが高揚する。ゴア・ヴァービンスキースラップスティック・アクションを極力再現しようとするその姿勢だけでヨアヒム・ローニング&エスペン・サンドベリの新任監督コンビが『パイレーツ・オブ・カリビアン』の魅力とは何たるや、を理解しているかが伺える。

 

 しかし、これだけ鷲掴みにされていた心も後半になるにつれてゆっくりと冷めていくのを感じてしまう。まず、ティア・ダルマからもらったはずのジャックのコンパスが本作では重要なキーアイテムとなっているが、新脚本家のジェフ・ナサンソンがその入手過程を思い切り間違えてしまったので、設定の矛盾が大きなノイズとなってしまった。

 

 また、前半を盛り上げたようなギミックアクションはクライマックスではすっかりなりを潜め、CGのセットで吹っ飛んだり落っこちたりする近年100回は見た工夫もクソも無い演出でガッカリさせられる*2。ネタバレになるから控えるが、ドラマを盛り上げるために本作よりとある登場人物に加えられた設定のせいで、そのキャラクターのロマンティシズム溢れる格好良さをぶち壊しにしていたのもいただけなかった。

 

 このように色々問題点はあるが、『最後の海賊』は『生命の泉』よりはずっと面白い。最後の最後のファンサービスには流石に胸が熱くなり、次世代への後継というテーマも描けていた。しかし、フランチャイズへの限界みたいなものを同時に感じてしまったのも事実である。とはいえ、昨今のシリーズものの潮流から言ってディズニーは今後も性懲りも無く『パイレーツ・オブ・カリビアン』を作り続けていくのだろう。止められないんだったら、せめてゴア・ヴァービンスキーだけでも復活してもらえないものだろうか…。

*1:相棒のテッド・エリオットがキャラクター原案にしかクレジットされてなかったのだが…何かあったのだろうか?

*2:そもそものシリーズの問題点として、『ワールズ・エンド』のクライマックスが海賊連合VS東インド会社フライングダッチマンの全面戦争というスケールの極限に達してしまったので、これ以上盛り上がりづらい、というのはある。