Taiyakiが選ぶ2022年映画ベスト&ワースト

 今年も年間ベストテンを総括する日が来てしまいましたね。毎年言っている気がしますが、何せあっという間に1年が終わってしまいました。特に今年は、このブログで何度も言及した通り、7月からずっと撮影現場に入っていたため、より一層この半年が光の速さで過ぎていった感がありました。

 

 そして昨日も書きましたが、そのせいで今年は映画を観る時間が全然ありませんでした。念願の海外作品の撮影現場に携われたことは光栄なことではありましたが、そのせいで好きな映画を見る時間が減ってしまったことはなんと皮肉なことでしょう。数えてみたところ、今年は54本鑑賞していました。大体週一本以上のペースで観ているとはいえ、ただでさえ少なかった昨年の65本を下回る結果となってしまいました。フリーランスとして仕事で忙しいのは光栄なことですが、これが今後も続くかもしれないとなると少し寂しい気がしますね。

 

 まあ、初っ端からネガティブなことばかり書いてましたが、これじゃめでたく年が越せないので、今年僕が好きで止まなかった映画を振り返っていきましょうか!


▲本年度ベストテンイメージキャラクター、湘北高校の皆さん!

 

【特記事項】

  • 2022年に鑑賞した新作のうち、僕が12月31日までに見た54本が対象。詳しくはこちら
  • 星取り表やTwitterに載せた★の数、上半期ベストテンの順位と矛盾している時がありますが、いつもその時々の気分に左右されているのでご了承ください。

 

【2022年ベストテン】

  1. THE FIRST SLAM DUNK
  2. エスト・サイド・ストーリー
  3. RRR
  4. エブリシング・エブリホエア・オール・アット・ワンス
  5. X -エックス-
  6. シャドウ・イン・クラウド
  7. 私ときどきレッサーパンダ
  8. トップガン:マーベリック
  9. ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバ
  10. アンビュランス

 

【ベストテン解説】

 ①は井上雄彦先生を愛した高校時代を送っていた僕にとって、ご褒美のような作品。映画の全容が分かるカッコいいOPで思わず声が漏れてしまったが、単なるファンサービスに甘んじることはなく、究極のバスケ表現を目指し、あくまで単体映画として傷ついた人間たちの魂を浄化するドラマを追求していたのは見事という他ない。映画監督井上雄彦の才能に震える圧巻の1本。

 

 

 ②は、本当は2021年全米公開作品はあまり選びたくなかったのだけれども、しかしこの作品以上に「映画」を感じた作品もないので、上半期ベストテンに続いて選出。スピルバーグが何故今更『ウエストサイド物語』のリメイクに挑んだのか、その意義をはっきりと感じさせるアップデートで、かつ一々映画的表現がうまく、あまりの美しさに号泣してしまった。今年のワンツーは好きな人の映画になってしまったな。


 ③はプロパガンダ色が強すぎたり、女性の描き方に難があったり、正直困った作品ではあると思う。しかし、ナートゥダンスを目撃した時のカタルシスは忘れられないし、S・S・ラージャマウリの神々しい演出には否が応でもアガってしまった。職業柄、映画の鑑賞中はどうやって撮影したのかとか、どうやって照明を配置しているかなど、ついついつまらないことを考えながら見てしまうけど、本作はそんな邪念を忘れさせてくれて世界に没頭させてくれるのが良かった。

 

 ④は本日米Amazonで購入・鑑賞したばかりだったが、聞きしに勝る傑作であった。最近、マルチバースという概念がアメコミファンダムを満足させるために消費されがちだが、本作におけるマルチバースはアジア系移民のメタファーとして機能しており、更に人生はクソで無意味であるというニヒリズムに対し、愛を持って人生というものを全肯定しているのはとても素晴らしかった。特に誰もがメタ的な視点を抱いていると錯覚している冷笑的なSNS社会全盛期において、この映画が世界中で大ヒットしているのはまだまだ人類に希望が持てると思った。マルチバースを自由に往来して成立する編集も怒涛。

 

 ⑤の思い切りのいいストーリーテリングは本当に痛快だった。『悪魔のいけにえ』オマージュが過ぎるのは玉に瑕だが、画作りや演出、テーマが本作を強烈にオリジナルなものに仕上げている。余談だが、今年参加した現場のスタッフが本作にも関わっていて、本作の制作裏話を聞けたのはいい思い出。あ、よくよく考えたら図らずもA24作品を2本連続で選んでしまったな。

 

 ⑥は今年最大の「ナメてた映画が傑作だった」枠。単なるB級映画かと思いきや、前半は密室スリラーで、なおかつウーマンエンパワーメントを描く作品に仕上がっているとは思わず、僕みたいな男性客の無意識な有害な偏見をクロエ・グレース・モレッツにぶん殴られる映画だった。

 

 ⑦は昨日のコメディ映画ベストでも挙げたが、本当に抱腹絶倒の楽しい作品。絵柄やギャグの盛り込み具合含めてピクサー映画としてはかなり異色作だと思うが、それでもホッコリと感動させる作りなのは真のピクサー映画。この傑作を劇場公開しなかったディズニーは恥を知るべき。あと④もそうだが、アジア系移民の物語が最近増えているのは興味深く、大体が保守的な家族と個人のアイデンティティとの葛藤の物語になっている。

 

 ⑧は今年の映画シーンを席巻したのではないだろうか?まさか『新たなる希望』のトレンチランをディズニー版『スター・ウォーズ』以上にうまく、更にカッコよく見せてくれるとは思わなかった。僕が世評よりも本作に対する評価がちょっと低いのは、タイミング悪いことにウクライナ戦争が始まってしまって、あまりエンタメとして素直に鑑賞できないモヤモヤはあった。でも、エンタメ映画としては間違いなく満点の出来だとは思う。

 

 ⑨は不慮の悲劇への喪失感から、ワカンダに生きるキャラクター達、製作・共演者陣、そして観客の魂を救い、人生を前に進ませてくれるセラピーのような映画だった。かといって、全体的にそこまでウェットにしない作りもえらい。下手したら事故になってもおかしくない映画だったのに、本当によく違和感なくいい映画に仕上がったと思う。撮影の美しさも印象的。

 

 ⑩は今年の偏愛枠。どっからどこを切り取ってもマイケル・ベイ映画のルックをしているのに、情報が交通整理されていてとても見やすかった。一方で、登場人物が全員怒鳴り合っている演技はどっからどう見てもベイ映画の特徴であり、ちょうど「マイケル・ベイはハリウッドを代表するクソ野郎」という噂を現場で聞いた。つまりベイの映画に出てくる怒鳴り散らしてくる人たちはベイ自身なのではないだろうか。まあ、そんなことは置いておいて、「マイケル・ベイが忖度抜きで面白いと言える映画を撮った!」という驚きでベストテンの締めくくりに選んだ。『6アンダーグラウンド』とかなんだったんだ…。

 

【2022年ワーストファイブ】

  1. ゴーストバスターズ/アフターライフ
  2. 大怪獣のあとしまつ
  3. ザ・バブル
  4. モービウス
  5. すずめの戸締まり

 

【ワースト解説】

 そもそも映画の鑑賞本数をそんなに観ていないので、今年のワーストも5本くらい。仕事で忙しいと、わざわざつまらない評判の映画を見に行く気がしないのよ…。

 

 それでも、本記事を書くにあたりベストよりもまず一番最初に選んだのは❶。本当にノスタルジーポルノとして下品で許せず、劇場を怒りで後にした。ファンに媚を売る映画を作るのが現代ハリウッド映画であるならば、即刻滅びてほしい。これは本作に限らず、マーベル/DC、SWに対しても言えることだし、この深刻な現代病が蔓延っている事態は本当に憂慮すべき事態だ。

 

 ❷は単純につまらない映画としては、本年の頂点。ギャグがこれっぽっちも機能していないのはいいとして(よくない)、風刺としても立場が不明瞭だったのは何も考えていない証拠。邦画が『ドント・ルック・アップ』をやろうとして出来たのが本作、というのはこれまた憂慮すべき事態…。

 

 ❸はこれまで作家に寄り添ってきたジャド・アパトーの新作として、全く作り手に寄り添っていない作品になっていて本当に残念だった。好きな監督がこういう薄っぺらい映画を撮ってしまうのは本当に悲しい…。

 

 ❹もつまらなかった以外にかけてあげる言葉が見つからない。一部で「モービンタイム」と本作をカルトB級映画化しようとする動きがあるが、カルトB級映画をナメるなと、カルトB級映画を配給したことがある身としては物申したい。

 

 ❺は上記4作品と比べると幾分かマシかもしれないが、それにしたって主人公が出会って5秒で椅子になる男子大学生に惚れる理由が「イケメンだから」以外に見つからないのは酷い。311をテーマにするのは『君の名は。』の方がよっぽどうまくいっていたし、犠牲なく幸せを得るオチの付け方も甘いと思った。

 

【総評】

 今年は僕の人生の大部分を占めてきた「映画」について、色々と考えさせる1年であった。

 

 夢であった映画作りに関わる仕事はしても、基本的に肉体が疲れているので、貴重な休日にわざわざ映画を見に行く気が起きないのである。しかも、邦画界では様々なハラスメントが発覚し、今まで自分が好きだった映画が誰かの苦しみの上で成り立っていると思うと、いよいよ見に行く気が失せてしまった。自分の目が肥えたのか30代になり偏屈になったのか、中々両手を上げて褒められる映画も少なくなってしまった。

 

 が、それでも映画を好きでい続けようと思わせてくれたのは映画館で出会う映画達であった。どんな状況であれ、年に必ず10本は心を揺さぶる映画があるというのは、よくよく考えたら凄いことだ。映画への希望はまだまだ捨てず、来年も仕事でもプライベートでも積極的に映画と関わっていきたいと願い、2022年を終えるとしよう。来年もいい映画に出会えますように!

 

【過去のベスト&ワースト】