人は自分が信じたいものしか信じない。

 今、海外の『スター・ウォーズ』ファンの間で「『スカイウォーカーの夜明け』ルーカスカット」なるものの存在が真しやかに囁かれている。事実として、『スカイウォーカーの夜明け』は現行のバージョンの他、ディズニーが複数の編集バージョンを用意していて、試写で観客の反応を見た結果、昨年公開された形となった。

 

 そうした中でJ・Jエイブラムズのディレクターカット版が存在するという噂もあったが、今ファンの間ではディズニーはシリーズの生みの親ジョージ・ルーカスが編集したバージョンも存在し、ヘイデン・クリステンセン演じるアナキンが登場するなど、現在の『スカイウォーカーの夜明け』とは40%も内容が違うと信じられている。しかも、そのカットは2023年にディズニー+で公開予定だと言うのだ。

 

 はっきり言って、この情報を出しているのはどれも映画オタクブログやYouTuberで、信ぴょう性の高いまともな映画ニュースサイトはどこも報じていないので、ガセである可能性が非常に大きい。しかし、それにしてはあまりにも大多数のファンに支持されている噂で、何故このような眉唾物な噂が信じられているかと言うと、シークエルシリーズが多くのファンの落胆を買ったことと無関係ではないと思う。自分たちが子供の時から愛していたシリーズの結末が、期待を裏切るものになってしまった。そうした事実を打ち消したいファンが、藁をもすがる思いで「ジョージ・ルーカス・カット」を待ち望でいるのだろう。ちょうど、DCファンにスナイダーカットの『ジャスティス・リーグ』が帰ってくるように。

 

 僕はこのファン心理は、新型コロナウイルスにおけるインフォデミックにも適用できると思う。今朝、母親が家族LINEにコロナ陰謀論ブログを共有してきて、その中身は「コロナはただの風邪」「メディアは本当のことを報じていない」「PCRはパパイヤやヤギやウズラの卵でも陽性反応が出る」といった、典型的な内容で非常に頭を抱えた。

 

 同日、Twitterでは「クラスターフェス」という、にわかに信じがたいイベントが渋谷で行われていることが話題となった。どうもこのフェスの主催者も「コロナはただの風邪」と思っているらしく、マスクの着用は意味がないと主張しているし、ソーシャルディスタンスも三密回避も全部デタラメだと信じている。彼らはノーマスクで山手線を一周する傍迷惑なデモまで行ったそうだ。

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 そして、これは世界的に起きている事象で、アメリカでは南部を中心にマスクを「信じない」人が大多数いるし、ドイツでもマスク反対デモが起きたし、ナイジェリアでは多くの人がコロナはガセだと思っている。『スカイウォーカーの夜明け』に落胆したスター・ウォーズファンと同じく、彼らもまたウイルスにより生活が制約されてしまった現実を受け入れ難く、陰謀論にハマってしまった。

 

 正直その気持ちは痛いほどよくわかる。僕だってマスクは息苦しいし、できれ真夏にマスクつけて外に出かけたくない。政治家は嘘つきばっかりでメディアも忖度しているし、何が真実かは見えづらい。『ザ・ルーム』のスプーン上映だってできなかったし、日本に帰ってからやりたいプランが軒並みできていないので、コロナなんか起きなければ良かった。

 

 しかし、だからといって、自分の都合の良い情報だけに気持ちよく浸っているのは、辛い現実から目を背けているだけに過ぎず、何の解決にもならない。そして『スター・ウォーズ』と違い、新型コロナウイルスは多くの人の命がかかっている。とりあえず、一刻も早くこのパンデミックが収束するためには、我々一人一人がコロナが蔓延っている現状と向き合い、弱者にウイルスをうつらせないような責任ある行動を取るしかない。そして感染収束に協力するから政府は早く補償とまともな対策しろ。