傑作SFコメディのリブート版『ゴーストバスターズ』を前夜祭興行で鑑賞。監督・脚本はポール・フェイグ、製作に旧シリーズ監督のアイヴァン・ライトマン。新しいバスターズをメリッサ・マッカーシー、クリスティン・ウィグ、ケイト・マッキノン、レスリー・ジョーンズが演じ、セクシーな秘書役としてクリス・ヘムズワースが登場する。
※最後の方で一部ネタのネタバレについて触れていますが、該当部分の前に警告します。
本作は『ゴーストバスターズ』フランチャイズのリブートであるが、同時に本作はポール・フェイグ監督とメリッサ・マッカーシーがコンビを組んで通算4回目の作品なので、どうしてもその流れについて触れないといけないだろう。
ポール・フェイグとメリッサ・マッカーシーが初めてコンビを組んだのは、2011年のアカデミー賞脚本賞候補ともなったコメディ、『ブライズメイズ 史上最悪のウェディング・プラン』。この作品の主演を務めたクリスティン・ウィグが脚本も描いた本作は、所謂ブロマンス映画、つまり当時流行っていた男同士の心地よいホモソーシャルな関係を描いたコメディを、そのまま女性に置き換えて女性同士の心地よい連帯感を描いたウーマンス映画であった。「友達同士で馬鹿やって騒ぎたいのは男だけじゃない!」と、ブロマンスコメディの中で圧迫されてきた女性キャラたちの気持ちを代弁した『ブライズメイズ』は、それこそブロマンス映画の旗手であるジャド・アパトーの元で制作され、幅広い共感を呼んで大ヒットした。ちなみにメリッサ・マッカーシーは本作でアカデミー賞助演女優賞ノミネートまでされ、ブレイクのきっかけとなった。
その次にポールとメリッサが作った映画は『ヒート』。前作よりもメリッサに焦点を当て、相方にサンドラ・ブロックを迎えた本作はバディコップムービー。エリート故に男性社会のFBIから煙たがれてるサラ(サンドラ・ブロック)と、粗野で男勝りな性格で愛するボストンを守るシャノン(メリッサ・マッカーシー)は、最初は水と油で反目し合いながら徐々に友情を高めて事件を解決する、というハリウッドの刑事映画の定石を女性キャラに置換したアクションコメディだった。
去年公開され、またも大ヒットした同監督主演コンビの『SPY』は、ストレートなタイトルが指すようにスパイ映画を女性版にした。『SPY』が明らかに下敷きにしているジェームズ・ボンド映画を観れば分かるように*1、スパイ映画でも長らく女性はスパイを格好良く観せるための「華」でしかなかった。時には『黄金銃を持つ男』のメリー・グッドナイトのように、何故か常にビキニ姿で登場し、どれだけボンドから邪険に扱われようと一途の愛を捧げ続ける間抜けな女エージェント、みたいな酷い描かれ方をされたキャラもいる。レギュラーキャラのマニーペニーも(ダニエル・クレイグになるまでは)秘書でしかなかった。しかし、言ってみれば『SPY』はそのマニーペニーがボンドも世界も救うスパイ映画となっていた。
このように追っていくと、ポールとメリッサはこれまで男性主義的だったハリウッドの定番ジャンルを女性版に換骨奪胎している、ということが伺えるが、勘違いしてはいけないのは二人が作る映画は「女性版」であって「女性向け」ではない、ということだ。これらの映画はキャラクターを女性に置き換えているだけなので、逆説的に言えば基本プロットそのままに男性キャラで映画化しても成立する。ポールとメリッサはキャラを女性にすることで新しい視点や価値観を導入し、性差を平等にしているだけで、内容自体は普通のコメディ映画と変わらないくらい下品でバカな爆笑必須のネタ満載。ポールとフェイグはキャラを「女性版」にした「万人向け」の映画を作っているだけで、だからこそ二人が作る映画はどれも大ヒットしているのだ。
という訳で、「女性版」映画を作り続けているポールとフェイグの次回作が『ゴーストバスターズ』のリブートになる、と話を聞いた時はとても興味が沸いたし、面白いアイディアだと思った。しかしながら、このブログでも度々指摘してきたが、世間は違ったようで、『ゴーストバスターズ』は製作発表時から公開日まで近年稀に見るほどの大炎上騒ぎとなった。
何度も何度も言ってきてるので恐縮だが、しかしそれでも書かずにはいられないほど新『ゴーストバスターズ』への世間の態度は酷いものであった。もう十分長くなっているので上記の過去記事で書いたことは省くが、それ以外でもIMDbでは一般公開前からユーザーレビュー3点台を記録。
本当にどうしようもない連中だな。 pic.twitter.com/pKGfqxcrLa
— Taiyaki (@HKtaiyaki) 2016年7月11日
また、僕が実生活で体験したことで言えば、
本当になんなんだろうか、この人たちは。ポールとメリッサに自分の親の霊でもバスターされちゃったのだろうか?
実際のところ、製作者たちにとってもネットの意見がダイレクトに伝わってくるこの時代に大変なプレッシャーを受けたろうことは想像に難くない。ポール・フェイグもこの記事で語っているが、相当の嫌がらせをこの2年で受けたという。
そういう訳で、ポールとメリッサが作る映画の大ファンの僕は、新『ゴーストバスターズ』を一貫して擁護してきた。ただ、擁護し続けてきたからこそ変な緊張が僕の中であった。「これで万が一つまらない出来になってたらどうしよう…」夜遅くの回とはいえ、300人入るIMAX劇場も30人ぽっちしか入っていない。鼓動が高まる中いよいよ本編が始まるが……そんな心配は全くの杞憂に終わった!
オープニングから正々堂々とレイ・パーカーJr.のテーマ曲を流した本作は、(当然ながら)歴とした『ゴーストバスターズ』の遺伝子を受け継ぐ作品となっていた*2。つまり、ちゃんと「人生の負け犬たちが団結して楽しく頑張る」誰もが見たかった『ゴーストバスターズ』になっていた。単体でも楽しめる作品になっているが旧版への愛のある目配せも多く、過去作と新作が交差する点では本作は『ゴーストバスターズ』版『スカイフォール』とも言えよう。
しかも、最初から書いた脚本が偶然そうだったのか、それともご時勢を見て変えたのか、プロットと制作時の状況が見事にシンクロしているのにも震えた。クリスティン・ウィグがネットのコメントを見ると「アマ公なんかに幽霊退治なんかできるか!」なんてメタなことまで書かれている。新生バスターズが様々な妨害を受けながらも奮闘する様はまさに世間からのバッシングと戦う製作陣のそれで、作品と現実のシンクロという意味で本作には『ロッキー』に似た熱さがある。
(※ここから先ネタのネタバレを含みます)
何よりも驚き、そして感心したのはビル・マーレイのキャラの描き方だ。80年代にあれだけお化け退治してきたビル・マーレイは、なんと「ゴーストバスターズなんて嘘つきだ!」と主張する、超常現象のインチキを暴くことを生業とする意地悪な博士として登場する。その威圧感はまるでオリジナルの『ゴーストバスターズ』自体から「お前らは本当に大丈夫なんだろうな!」とプレッシャーを受けているかのようにも見える。
そして衝撃なのは、本作はお化けにビル・マーレイを殺させてしまうのである!戸惑ったが、これは新バスターズたちからそのプレッシャーへのアンサーとも言えよう。そして彼女たちとポール・フェイグが正しかったことは、「製作 アイヴァン・ライトマン」「製作総指揮 ダン・エンクロイド」というクレジット、そして数々のカメオ出演がそれを示している。
Their bustin' made me feel good!!!