『スペース・ジャム』の謎を追え!

 今年上半期に僕が最も夢中になったエンターテイメントはNetflixで配信された『マイケル・ジョーダン:ラスト・ダンス』だった。マイケル・ジョーダンをかつて無いほど深く掘り下げたドキュメンタリーシリーズで、バスケの神様に興味を持った僕は『スペース・ジャム』を観てみた。

スペース・ジャム (字幕版)

スペース・ジャム (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

 

 『スペース・ジャム』はマイケル・ジョーダンがアニメキャラのルーニー・テューンズと共演したスラップスティックコメディだ。『ラスト・ダンス』内でも言及があったが、この映画が公開された1996年、ジョーダンが引退からカムバックしてから初優勝を飾った年で、人気の絶頂期にあった。

 

 最近多くなった90年代のノスタルジアを扱った映画やドラマにおいて、高い頻度で『スペース・ジャム』が登場することからも、いかにこの作品が当時の子供達を熱狂させたかが良く分かる。しかし、スーパースターとはいえ、「マイケル・ジョーダンをバッグズ・バニーと共演させよう!」という企画は、今になって考えると中々トチ狂っているとしか思えない。


▲『スペース・ジャム』予告編。なんとアイヴァン・ライトマンの製作!

 

 その「狂い」っぷりは、ディズニーアニメでもなく、他でもない『ルーニー・テューンズ』と共演していることによく表れている。『ルーニー・テューンズ』シリーズにはよく銃や鈍器が登場し、登場人物が平気で撃たれたり殴られたりしている。『スペース・ジャム』も暴力的なまでにスラップスティックで、マイケル・ジョーダンがゴルフをしている最中にホールの中に吸い込まれてしまったり、無理やり丸められてボールのようにドリブルされてしまったり、やりたい放題だ。

 

 当然、撮影にはグリーンバックによるクロマキーが多用されたが、劇中ではマイケル・ジョーダンが違和感なくバッグズ・バニー達と会話を交わしている演技力の高さが興味深い。有名な話だが、グリーンバック撮影が多用された初期の映画である『スター・ウォーズ』のプリクエルでは、何も無い空間で演技を強要させられたことに役者達は苦しめられた。CMやメディアに出演することが多いNBA選手は、大半が素人っぽい演技でネタにされることが多いが、『スペース・ジャム』でのMJの演技は鑑賞に支障をきたさない位には上手い。


▲『スペース・ジャム』メイキング

 

 それにしても、人気絶頂にあるジョーダンが映画の主役に抜擢されるのは分かるが、その主演作が演技の素人には難しそうな『スペース・ジャム』である必要があったのか。古い映画*1のためか、インターネット上にはあまり制作背景が乗っておらず、『スペース・ジャム』の英語版Wikipediaにすら製作に到るまでの過程は省かれている。

 

 鑑賞してから1週間、このなんとも不思議な企画の映画の存在が頭の片隅のことっていたが、たまたまマイケル・ジョーダンの英語版Wikipediaを読んでいたら、91年に下記のCMにジョーダンが出演していたことを知る。

 

 これは1992年のスーパーボウルで流れたエア・ジョーダン7のCMだ。なんとこの時既にジョーダンとバッグズ・バニーは共演していた!ジョーダンが「今日はこれにておしまい!(That's all folks!)」と締めるオチまで『スペース・ジャム』と酷似している。

 

 このCMは好評だったらしく、ジョーダンが引退する直前の1993年にも続編が制作される。エア・ジョーダン8のCMでは、宇宙人を相手にジョーダンとバッグズ・バニーがバスケで戦う内容となっており、より『スペース・ジャム』のプロットに近付いた。

 

 つまり、『スペース・ジャム』は突然生み出された狂った企画ではなく、当時の人気CMシリーズを長編化した企画だったのだ。そして、ジョーダンは既にCM撮影の時点である程度アニメキャラクターとの共演を経験していたからこそ、『スペース・ジャム』の撮影を難なくこなしていたのだろうと想像ができる。

 

 ちなみに、『スペース・ジャム』は続編が2021年公開に向けてポスト・プロダクション中であり、現役のNBAスーパースター レブロン・ジェームズが主演する。先ほど、「NBA選手の演技は大根」と書いたが、レブロンの演技のうまさは『エイミー、エイミー、エイミー!』で証明済みなので、楽しみでしょうがない。

 

 

*1:90年代を「古い」と形容することに、いささか抵抗があったことは告白しておきたい