ノスタルジア・ポルノ/『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』★☆☆

 シークエル三部作完結篇『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』を鑑賞。監督は『フォースの覚醒』のJ・J・エイブラムス、J・Jは『ジャスティス・リーグ』クリス・テリオと共に脚本も手掛ける。製作はキャスリーン・ケネディ、音楽はジョン・ウィリアムズ。前作に引き続き、デイジー・リドリージョン・ボイエガオスカー・アイザックアダム・ドライバーらが出演、パルパティーン皇帝役としてイアン・マクダミードが再登板、更にケリー・ラッセル、ナオミ・アッキーら新規キャストも参加。

※ネタバレしていますので、ご注意ください。

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 『サウスパーク』シーズン20で「メンバー・ベリー」という果物が町民の間で流行った。「今の世の中は最悪だ、昔は良かったなぁ」と嘆く大人達にメンバーベリーは「タトゥイーンって覚えてる?」「トーントーンって覚えてる?」「ゴーストバスターズが全員男だったこと覚えてる?」「あの頃って移民もいなかったし何もかも最高だったよね!」とノスタルジアで誘惑して食うものを虜にするのだ。*1

 

 

 ディズニーがルーカスフィルムを買収してから製作してきた『スター・ウォーズ』シリーズは全てメンバーベリーを包み込んだパイのようだ。シークエルトリロジーの1作目『フォースの覚醒』は『新たなる希望』と『帝国の逆襲』の良い所どりで、続く『最後のジェダイ』も『帝国の逆襲』と『ジェダイの帰還』をミックスしたような映像が続く。アンソロジーシリーズの『ローグ・ワン』も『ハン・ソロ』も同様で、毎度毎度馬鹿の一つ覚えのように砂漠や雪の惑星や宇宙酒場のシーンが登場するのも如何にディズニーが旧三部作のルックの再現に腐心していたかが伺える。

 

 しかし、ディズニーの計画は狂い『最後のジェダイ』がネット史に残る大炎上を起こした。ライアン・ジョンソンがシリーズの再構築を試みた*2ことが、コアなファン層の逆鱗に触れた。興行収入にまで打撃を与えてしまい、ボブ・アイガーが掲げていた「『スター・ウォーズ』永続化計画」に暗雲が立ち込める。シークエルトリロジーの完結編である『スカイウォーカーの夜明け』を絶対に失敗ができないディズニーは、若手監督のクビを切ってまで徹底的にファンサービスに徹することにした。

 

 シリーズを代表するパルパティーンの復活。ベイダーの声。デジャリックで遊ぶチューイ。タイ・ファイターに追われるミレニアム・ファルコン。ジェダイのトレーニングを行うレイ。卓上会議中の悪者。砂漠。ランド・カルリジアンの再登場。スピーダーチェイスデス・スターの残骸。ハン・ソロ、ルークの再登場。水中から引き上げられるレッド5…etc

 

 無数の『スター・ウォーズ』らしいアイコンがJ・Jの突っ走ったペースで息つく暇もなく142分もの間に次々と盛り込まれる。そしてファンダムを満足させることを優先した為に、作劇上の粗や設定の矛盾が浮き彫りになってしまった。

 

 主に粗はパルパティーン周りのストーリー*3から派生しているが、それもその筈で『フォースの覚醒』時点で皇帝の暗躍は全く考えられておらず、炎上した『最後のジェダイ』からの修正・並びにコリン・トレボロウのアイディアを破棄した結果、J・Jが新たに思いついたアイディアだからだ。これならファンも納得するだろうと本人は思ったかもしれないが、じゃあEP1〜EP6までかけてスカイウォーカー一族が皇帝を倒したのは何だったのか、という疑問に帰らざるを得なくなる。

 

 ここでファンから評判の悪かったプリクエルを振り返ると、ルーカスは政治劇や悲劇に重点を置いた。単純明快な活劇を望んだファンから頗る叩かれたが、ポケットマネーで制作費を捻出しクリエイティブ・コントロールを掌握したルーカス*4にそんな雑音は関係なく、ただただ自分の撮りたい物語と映像技術の刷新に力を注いだ。「撮りたいものを撮る」というのはプリクエルだけでなく旧三部作でもルーカスが貫いた姿勢であり、だからトールキンが『指輪物語』を、J・K・ローリングが『ハリー・ポッター』を作り出した様に、ルーカスは映画という土壌で『スター・ウォーズ』という壮大なサーガを作り出すことが出来たのだ。

 

 つまり、ディズニーには『スター・ウォーズ』らしさのあるイメージを作ることはできたが、続三部作を始めるにあたりルーカスが抱いた様な確固たるビジョンが無かった。所詮はビジネスで商業。顧客の欲望を叶え、投資した分だけのリターンを得られれば評価なんかどうでも良いのだ。これは観客のノスタルジーという欲望を刺激する為に作られたポルノで、残念ながらディズニーが欲し続けるファンから金を得続ける限り終わる事はない。

 


「スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け」スター・ウォーズ 大いなる遺産

 



*1:もちろん、これはトランプの掲げる「再びアメリカを偉大に!」を意識しており、「俺たちの幼少期を壊しやがって!」も荒れる有害なファンダムとアンチリベラルの懐古主義を繋ぎ合わせた傑作エピソードだ。

*2:しかし、ライアン・ジョンソンの試みに反して、結局はルーカスが作り出した定番イメージから逸脱できなかったことがむしろ問題だった、と僕は思ってます。

*3:スノークパルパティーンの操り人形だったならば、30年もの間練った計画はなんとも周りくどいものになってないか、とか、レイの親が酒銭欲しさにジャクーで売り払った話はなんだったのか、とか

*4:だから『スター・ウォーズ』とは世界最も金のかかった自主映画であり、ルーカスの私小説的内容の映画なので、本来誰の文句も介在するスペースはないのだ