振り切れた駄作には文化的価値がある。/『The Room』☆☆☆

 「駄作界の『市民ケーン』」と呼ばれる『The Room』をファン上映で観に行ったんだけど、これが聞いていた以上に酷い作品で非常に楽しかった。

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 何が酷いかって一部例を挙げると、トミー・ワイゾーの演技が大根なんて序の口で、カメラはほとんど寄りでフォーカスは頻繁にピンボケて、セットも照明も人工的でわかりやすく、外ロケはほとんどクロマキーなんだけど人物のふちの緑とか全然抜けてなくて、シーンに誰かが登場すると「ハイ、マーク!」と一々挨拶から会話が始まり、喋ってる間は動きなんてほとんどなくて、どのセリフも直接的で陳腐で、部屋に入ってくる人は誰もドアを閉めないし、シーンが切り替わると無駄に長いサンフランシスコのインサートショットが挟まり、何回も出てくるラブシーンはチープなバラードを流しながらへそあたりで腰を動かしてるだけでしかも毎回3分以上続く、などなど……あ、これ『The Room』のヤバさの半分も説明できないからね!

 

 ただ、冒頭に「楽しかった」と書いたのは嘘ではない。『The Room』のあまりの酷さに観客はツッコミを入れ、手を叩きながら爆笑するので場内はものすごく盛り上がる。例えば、舞台となる部屋には意味もなくスプーンの絵が目立つ位置に置かれていて、それが登場するたびに観客は「スプーン!」と叫びながら持参したプラスチックのスプーンを投げるのだ。下の写真は実際に僕が鑑賞した劇場での上映後の様子。

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 ちなみにツッコミには定番があるそうで、多くの観客が完璧なタイミングで同じツッコミを入れていたので彼らは常連客なのだろう。『The Room』はこのようにあまりの酷さからカルト化し、15年近く劇場でスプーンを投げられ続けている映画なのだ。丁度『ロッキー・ホラー・ショー』の参加型上映が自然発生した経緯と似ている*1。映画の出来は最低でも、凡百の忘れ去られる普通の作品よりはよっぽど文化的価値はあると思うし、約15年愛されて語られ続けることほど映画としてこれ以上幸せなことはない。

 

 ところで、『The Room』で観客が爆笑するポイントとして、過剰なくらい説明過多というのがある。全ての登場人物が今起こっていること・抱いている心情を全部言葉にして棒立ちのまま発していて映画としての詩的な美しさとか情緒が全くないの。観客に混じってゲラゲラ笑っていたけど、この演出結構大真面目にやっちゃう*2邦画が多いんだよなぁ…、とふと我に帰ってしまう瞬間があった。

 

 そういや、酷い出来の邦画っていっぱいあるのに、『The Room』みたいにカルト化する作品があまりない。きっとダメさも中途半端でその振り切れてなさが邦画のまたダメなところなんだけど、よくよく考えたら我が国には『貞子3D』という破壊的な作品があることに気がついた。あれのツッコミ上映とか絶対楽しいだろうなぁ。


 

 

貞子3D ?2Dバージョン?
 

 

*1:

 

 

*2:いや、『The Room』もあくまで大真面目にやってるんだけど