今更言うまでもないだろうが、敢えて言おう。
なんて年だったんだ!
誰にとっても記憶に強く残るであろう2020年、新型コロナウイルス感染症のパンデミックを中心に(ここ重要)、悪夢的な出来事が次々と起こった。僕は例年、年末のベストテン選出時には90本以上の新作映画を観ているが、今年見た新作はなんと36本だけ!
そもそも市場が止まっているので観たい映画がやっていないし、それでも頑張って劇場で公開された映画もあったり、配信で公開された新作映画もあったが、これだけ現実が非日常的だと、本来ならば現実逃避として機能していたはずのフィクションの世界には浸ろうとは思わなくなってしまうものなのだろう。当然、逆にステイホームで鑑賞本数を増やした映画ファンもいらっしゃるでしょうが、少なくとも僕にとって今年は大好きだった映画とはちょっと距離を取っておきたい年となってしまった。
ただ、それでもやっぱり映画は好きで、少ないけれど平均して月3本は新作映画を観ていた。映画史においても一生語り継がれるであろう2020年、一体どの作品が僕の心に刺さったのか、振り返っていこう。
▲今年のイメージキャラクター、アルプススタンドの端の方にいる皆さん。
【特記事項】
【2020年映画ベストテン】
- ザ・ルーム
- TENET/テネット
- 続・ボラット 栄光ナル国家だったカザフスタンのためのアメリカ貢ぎ物計画
- シカゴ7裁判
- The King of Staten Island
- 透明人間
- MOTHER/マザー
- フランクおじさん
- ソウルフル・ワールド
- アルプススタンドのはしの方
【解説】
上半期ベスト*2に続いていきなり反則技で申し訳ないが、①に関してはそりゃ、ねえ…。としか言いようがない。僕は今年36本の新作しか観ていないと書いたが、①に限っては誇張抜きに100回は観た。笑い、怒り、悩み、苦しみ、泣き、①のことばかりだけを考えてきたこの1年間。長期間一つの映画のことでこんなにも頭でいっぱいになったことは、あれだけ愛している『スター・ウォーズ』にだって無いのだ。ハッキリ言わせてもらうが、僕はトミー・ウィゾーよりも①のことを想っている自信がある!
そう言う意味では、真のベスト1は②。映画として正直完成度が高いものだとは全く思わないのだけれども、「考えるな、感じろ」とノーラン教祖様から命を受けた映画を、しかもこのコロナ禍で満員だった劇場で観たのは何事にも変え難い劇場体験だった。いやー、それにしてもバカな映画じゃった…。
③は昨日のコメディ映画ベスト*3でも1位に選んだけど、「2020年」を映画として体現するという、実はもの凄いことをやってのけていたのではないだろうか。比べるのもおこがましいかもしれないが、『SKITBOOK』で僕が目指す所の究極形態だ。酷い現実は笑いに変えてやれ!
④はついさっき見たばかりなのだけれども、オープニングからしてあまりの出来の良さに震えた。法廷劇なのに躍動的で、編集のリズムもよく、難しい法律用語をちりばめた脚本ものみ込みやすく、実力派俳優たちの演技合戦も最高で、文句のつけようが無い。アーロン・ソーキンは本当に恐るべし…。あとここでもやっぱりサシャ・バロン・コーエンがいい味を出していた。
⑤は劇中、NYらしい曇天が印象的なのだけれども、カラッと晴れるラストカットが素敵。相変わらずジャド・アパトーはコメディアンの味方で、監督として巧みなだけでなくて、彼らをさらにスターダムにのし上げるプロデュース力もあるのは流石だ。 最高のビハインド・ザ・カメラ・ガイ。
⑥はジャンル映画としては今年最高の作品。「透明人間」はその特性に反して、これまでの映画は「いかに見せるか」で観客の恐怖を煽ってきたが、今作はまさに「見えない」ことに恐ろしさがある。古典的作品を現代的なテーマで換骨奪胎した脚本もお見事。
⑦は実在の事件をモチーフにしているが、観客が為す術もなく映画を観るしかないように、少年が祖父母を殺めるまでに彼を負の連鎖から救えなかった社会の一員として、ただただ悔しい気持ちで胸がいっぱいになる。そして、昨今の良質な日本映画が全て貧困を題材としているのはこの国の経済状況を反映しているようで、行く末を案じてしまう…。
アメリカ南部で暮らしていたものとして、⑧の閉塞感には共感を抱く。しかし、反面温まる優しさにも包まれており、特にフランクおじさんのパートナーであるワリーのポジティブさが愛おしい。
⑨の人生哲学もいい意味でディズニーらしくなくて素晴らしいのだが、それよりもPIXAR史上最もドラッギーでトリッピーでサイケデリックな魂世界の描写に驚愕した。現地のディズニー+加入者はハッパ吸ってハイになりながら観ているのだろうなぁ、羨ましい…。あ、あとPIXARは『2分の1の魔法』も素晴らしかったが、あちらは上半期ベストで選んだので、今回は⑨に吸収合体。
ポカリのキラッキラした青春CMに僕の居場所はないけれど、⑩にはあるよ!
36本しか観ていないので選出するのは簡単かと思ったが、やはりそれでも漏れ出る作品が出るくらいには塾考した。今回惜しくも選ばれなかったのは『ハーレイ・クインと華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』『ラブバード』『ハーフ・オブ・イット:面白いのはこれから』『ザ・ファイブ・ブラッズ』『ランボー/ラスト・ブラッド』『オールド・ガード』『ようこそ映画音響の世界へ』『魔女見習いを探して』『MANK/マンク』(順不同)辺り。
【2020年映画ワースト】
【解説】
①に関しては、そりゃあ、ねえ…。としか言いようがない。もちろん、「ドライブ イン ザ・ルーム」みたいに観客を入れて観る分にはとても楽しいけれど、仕事として同じ映画を100回近く観るのも苦しいのに、それが史上最低の映画だなもんで、気が狂うかと思った。仕事上での苦労など、「物理的にも苦しんだ」と言う意味で誉れあるワースト1にしておく。ただ、言わずもがな僕は①を愛している。
コロナ禍で映画業界が苦しんでいる状況であまり映画イジメみたいなことはしたくないけれど、それでも②と③は心底品性下劣で最低だと思う。特に②なんか観たくもないのに、なんで安くない映画料金払って拷問みたいな寒い映像観させられなきゃなんないんだ。無論、本編は観る気もないので「映画を観ないで批判するな」という意見はごもっとも、だから実際にこの目で「観た」予告編をワーストにした。
Netflixがコンテンツ量を増やすためだけに作ってるとしか言いようがない④や⑤、⑦みたいな作品があまりにも多すぎるので、そろそろいい加減にしろと、誰かが声を大にしていっておくべき。あからさまな賞狙いの作品は別として、Netflixオリジナルはもっとも警戒すべき言葉。
⑥はマーベル人気にあやかって作ってみただけの企画だった。
【総評】
僕がベストテンを選び始めたのは、このブログの前身でジオシティーズに作っていたウェブサイトの『尾も白いの探して。』時代の2011年からで、その当時見ていた鑑賞本数が47本だったため、36本というのは自分史上最低記録だ。
ただ、こうして振り返ってみると、コロナを除けば自分にとって2020年とは『ザ・ルーム』の年であり、例えコロナが無かったとしても『ザ・ルーム』に集中するためにあまり映画を観ていなかったのではないか、とふと思う。そして、『ザ・ルーム』も外したとしても、2020年を象徴するようなベストテンになったと自負する。
ワーストは正直物足りなさを感じるが、映画業界が活気付いてこそワーストも輝くというものなので、2021年は少しでも現在の状況が良くなることを祈る。ちなみに、ベスト&ワーストに選んだ17本のうち、なんと9本が配信で鑑賞した作品となった。来年はもっと映画館に行こう。
それでは、良いお年を!
【過去のベスト&ワースト】