一般社団法人映画製作者連盟が発表した「映画撮影における新型コロナウイルス 感染予防対策ガイドライン」なるものを目にしたんですが、今後の映画界を考察するには中々興味深かったです。
http://www.eiren.org/img/guideline_covid19_200519_2.pdf
このガイドラインは政府の新型コロナ対策専門家会議メンバーのアドバイスを踏まえて作成されたものなので、一応プロの感染症対策が盛り込まれていることになります。目を通すと具体的な対策案が色々書かれているのですが、制作現場での作業方法どころか、画作りやストーリーとかにも影響を与えるだろうな、と思った部分を抜粋しますと、
① 撮影関係者人数の制限
- セットでの撮影の場合、撮影関係者間で2メートルの社会的距離が確保できるよう、撮影関係者の人数は必要最小限に限定するとともに、一度にセットへの立ち入りを許される撮影関係者の最大人数は50人までとする。
② 撮影シーンの制限
- セット撮影、ロケーション撮影にかかわらず、群集シーン等の社会的距離の確保が著しく困難な設定のシーンの撮影は、社会的距離の確保が可能な設定に極力変更することとする。
- 出演者に身体的な接触が必要なシーンの撮影においては、出演者は前後に手洗いと口唇・口腔内等の消毒を行うこととする。発熱・咳・下痢等の症状がある者、新型コロナウイルス感染症の陽性と判明した者との濃厚接触がある者、同居家族や身近な知人の感染が疑われる者、過去14日以内に政府から入国制限、入国後の観察期間を必要とされている国・地域等への渡航並びに当該国・地域の在住者との濃厚接触がある者(以下、「有症状者等」という。)は原則として出演しない。
ちなみに、撮影関係者というのは「映画の出演者及びその撮影に携わるスタッフ」と定義づけられているので、俳優さんたちにも2メートルの社会的距離を取らせることが要請されます。これをいつまで続ける必要があるのか今の所まだわかりませんが、少なくともワクチンが十分に行き届いたり、集団免疫がついたりして新型コロナが収束するまで実施することになると思います。
そうすると、今年後半から来年、いや下手したら2022年くらいまで公開される映画っていうのは、ほとんどのシーンが3密を避けた屋外で、登場人物たちが不自然な距離を取っていて、画がスッカスカなものばかりになってしまうのではないでしょうか。なんならカットバックするときなんて望遠レンズを使って距離を詰めたりするかもしれないですね。
しかも群衆シーンで社会的距離を取れ、ってそんなもん無理に決まっているわけで、スペクタルなシーンはほぼ脚本から削り落とされるんじゃないでしょうか。また、「出演者に身体的な接触が必要なシーンの撮影においては、出演者は前後に手洗いと口唇・口腔内等の消毒を行う」とありますけど、こんな面倒臭いこと一々やってられないので、そういったシーンもカットするんじゃないでしょうか。*1
もちろん、VFXで群衆を補うことも考えられますが、邦画だったら予算的にもクオリティ的にもちょっとキツイ面があるので、アクションや時代劇、SF/ファンタジーなど、スケール感が大事な映画はかなり苦しい戦いを強いられるんじゃないでしょうか。良い言い方をすれば、監督の演出力やカメラマンの腕の見せ所ではあるので、色々創意工夫に画作り映像が見られるのではないでしょうか。逆に、明らかに不自然な画が出てきた時には「コロナで撮れなかったんだろうなぁ…」とノイズになってしまうのも悲しいですが。
ちなみに、これは中国人の知人から教えてもらったことなのですが、今中国のテレビ番組では紙製の観客を背景に置いて雰囲気を作っているそうです。
やってることがマットペインティングとか空気人形に近い!
▲超有名な『ジェダイの帰還』のマット・ペインティング。画面に映るストーム・トルーパーは全て油絵。
▲ハリウッド映画に映る観客は全部空気人形だったりする。
つまり、映画作りの未来は、アナログ特撮世界に託されているのかもしれない!
*1:まあ、これはある意味、無意味な恋愛シーンを盛り込んだ映画が減るかもしれないので良かったりするかもしれませんが