ハリウッド撮影現場潜入期vol2 コールシート編

 本場のハリウッドの現場を体験できる!とウキウキして参加した現場だったが、実態としては正直うまく現場が回っているようには見えない。理由は様々だろうが、一つには日本側とアメリカ側の現場の回し方やスケジュールへの考え方の違いが、上層部が想定していたより大きかったのだろう。

 

 その代表例として「コールシート」も挙げられる。コールシートとは日本の現場における香盤表(または日々スケ)にあたる。更に映像業界でない方向けに説明すると、香盤表とは撮影期間中に毎日配布されるスケジュール表のようなもので、集合時間・場所はもちろんのこと、その日に撮影するシーンの撮影時間、そのシーンに出演するキャストや必要な小道具など、撮影に必要な情報がおおかた書いてある。例として、ネット上で拾ってきた典型的な香盤表がこちらだ。

 

 一方で、海外の現場で配られるコールシートは以下のようなものが一般的だ。(なんと『007/慰めの報酬』のものがネットに落ちていた。)

 

 ご覧の通り、日本の香盤表と比べてかなり情報の密度が濃い。主要制作スタッフや1stや2ndAD(助監督)の連絡先まで書いてある。更にキャストの集合時間も細かく、例えばダニエル・クレイグは7:20にはトレイラーに集合して、7:30にリハーサル、その後ヘア&メイクと着替えを行い、9:00に撮影開始、その裏では撮影に参加していないオルガ・キュレリンコは9:30に集合して10:00からスタントトレーニングを開始し、16:30からは銃器の練習や訛りコーチなど…ということまで細かく書かれている。

 

 ところが、-これが冒頭の日米間の違いによる混乱につながるのだが-ここまで細かく情報が書いてあるコールシートには日本のスタッフからしたら一番重要な情報が記載されていない。それは各シーンの撮影開始時間や、おおよそどのくらい撮影に時間が費やされるかが全く書かれていないのだ。上のコールシートで分かる事といえばS95とS96を一部分撮影するという事と、それぞれが脚本のページにしてどれくらいの分量か(それぞれ3/8ページと7/8ページ)と言ったことだけである。

 

 だが、ハリウッドや海外の現場では12Hルールが一般的であり、基本的には全体集合時間から6時間以内に1回飯休憩を挟み、12時間以内には撮影を終了しないといけない。つまり、12時間の間に予定されているページ数を撮り切れば良い、という非常に大雑把な香盤の切り方をしているのだ。僕としても日本式香盤の方が合理的な気はするのだが、どんなブロックバスタームービーも何十年もの間このスケジュールで回ってきたのだからカルチャーショッキングではある。

 

 ちなみに、『007』などの大予算映画ほどスタッフの数も多いので、コールシートは流出しやすい。試しに調べてみたら色んな映画のコールシートが流出していて面白い。こちらは『ジェダイの帰還』の皇帝の玉座の間での撮影で使用されたコールシート。

 

 そしてこちらはかの有名な『アベンジャーズ/エンドゲーム』のトニー・スタークの葬式でのコールシート。プロダクション・タイトルは『Mary Lou』だったらしい。

 

  役者の数があまりにも多くて業界内でネタ化されている有名なコールシートだが、たった2分のシーンを取るためにこれだけの大スターが集められたのはやはり異常だし、特殊メイクが必要なネビュラを演じたカレン・ギレンなどは午前3:45に集合していて、改めて大変な職業だなと感心させられる。

 

 このように、コールシートを眺めるだけで現場の裏側が色々想像できる。映画ファンのあなたも、気になる映画のコールシートを検索してみてはいかがだろう?