『ライズ〜コートで輝いた希望〜』の撮影にトホホ

 2年前、ミルウォーキーバックスのスター選手ヤニス・アデトクンボがTwitterで自身の伝記的映画を制作するにあたりオーディションを開催することをアナウンスした際、ディズニー+で本作が彼の人生を追った映画が公開されると知ってワクワクしました。

 

 というのも、ヤニスは今でこそスタープレーヤーですが、ヤニスはナイジェリアの不法移民の元でギリシアで生まれ育ち、家族と露天商で生計を立てながらバスケの才覚を顕して行った、その波瀾万丈で満ちた人生がファンの間では知られていました。すでにヤニスの人生が映画そのものだったのです。

 

 しかし、そのニュースも忘れかけていた頃、やっとディズニーが予告編を出した時、僕は画の貧相さにちょっと嫌な予感がしてしまいました。

 

 で、実際に観てみたらその不安が的中し、波瀾万丈に満ちたヤニスの人生が「ディズニファイ」されたチープな映画になってしまい、非常に残念でなりませんでした。これは前日に同時期にリリースされたバスケ映画の良作『HUSTLE/ハッスル』を観てしまっていたことも分が悪かったかもしれません。

 

 

 ここでバスケの迫力をリッチに描いた『HUSTLE/ハッスル』と、まるでディズニーチャンネルで放映されるティーン向けのテレビムービーみたいな画の『ライズ〜コートで輝いた希望〜』の予告編を比べてみると、その画作りのレベルの差が一目瞭然かと思います。

 

 一体何がここまで差をつけてしまったのか、理由は様々だと思いますが、撮影監督による照明の作り込みが大きな要因の一つではないかと思います。照明は対象物を立体的に見せたり、光陰のコントラストを強調したり、ショットのルックを印象付ける上で言わずもがな非常に重要な役割をしていますが、いい照明は更に観客に照明が炊かれていることを意識させません。

 

 『ハッスル』の照明は非常に自然で、まるでドキュメンタリーを見ているかのような手持ち撮影とマッチしてリアリティを提供しています。一方で『ライズ』はいかにも作られた照明で、陰影の付け方もノッペリしており、何を意図してか何度も強い青いハイライトを当てているのですが、何もかもが人工的で映画の作り物感が強調されてしまいます。皮肉なのは、現実には『ハッスル』の方がフィクションで、『ライズ』は冒頭で述べた通り実話をベースにした物語なのですが、撮影手法のせいでインチキ臭くなってしまいます。

 

 余談ではありますが、日本だと撮影部と照明部が分かれており、照明は照明部が責任持って作りますが、海外では撮影監督(DP)が照明の配置も監督します。もちろん、『ライズ』はディズニー+が初めて全編ヨーロッパで撮影した作品なので、一般のハリウッド作品と比べると照明のリソースが足りていないのかもしれず、また予算も異なるかもしれないので『ハッスル』と比べてしまうのは酷かもしれませんが、それにしたって肝心のバスケシーンも『アメイジングスパイダーマン』に出てくるバスケシーンくらいの臨場感なのはバスケ映画としていかがなものかと思います。

 

 ノッペリしているのは撮影だけでなく、ドラマ自体も平坦で、移民として異国で生きる過酷さや差別的で不寛容な社会は確かに2022年の映画としてはタイムリーではありますが、肝心のヤニスが選手として如何にパワフルかがあまり描かれておらず、説得力もありませんでした。それを示すはずのトライアウトのシーンですら、耐えきれず外に出て行ってしまったお父さんの視点に合わせてカットしてしまったので、非常に安パイな演出を選んでしまった印象です。セリフのほとんどもテーマを口で喋ってしまっていたのもいただけません。

 

 あと、クライマックスに2013年のドラフトを配置したのも、その後のヤニスの顛末を知れば全くハラハラしてこないので脚本上のミスだと思いました。まあ、これは『オビ=ワン・ケノービ』の根本的に問題にも通じていますが、その後の行く末が多くの人に知られているキャラクターの「How」を描く際、どのようにハラハラ感を煽るかは非常に難しいなぁ、と思いました。その点、『ドリーム・プラン』などは試合の結果以上に大切なことを描いていたので、本当によくやったと思います。

 

 ということで、『ハッスル』と違って『ライズ』はNBAファンにも緩い内容だし、映画ファンにとっては実録映画の凡作に過ぎないので、両方のファンにもあまりお勧めできない作品でした。本当は今日、もう夜遅くなってしまったのでちょこっとだけ書いて終わらせるつもりだったのに、いつもの映画感想くらいに長くなってしまったな…。