『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』★★☆
また、本作の一番の問題点はキャップが人助けをしない点だ。気になったのは後半の市街戦で公共のバスが巻き込まれるアクション・シークエンス。ウィンター・ソルジャーたちの急襲を受け、キャップが何とか体制を立て直そうとする中、ピントの外れた奥の方でバスの乗客たちが逃げ惑う。僕はここに違和感を覚えた。本来ならキャップは、真っ先に乗客の避難を優先するべきではないのか?
『アメイジング・スパイダーマン2』★★★
※ネタバレは伏せていますが、勘のいい人は分かってしまうかもしれないので、観賞後に読む事を推奨します。
何より、コミカルで明るいのがいい。『ダークナイト』症候群で、昨今のアメコミヒーローは悩んでばかりいる。しかし、『アメイジング・スパイダーマン2』の製作陣はとあるルールを定めたそうだ。つまり、「ピーター・パーカーはスパイダーマンであることが好きで、スパイダーマンであることについて絶対に疑問を持たない」ということだ。
<素顔>と<仮面>の間で苦境に立たされようとも、決してスーツを捨てるという選択肢は選ばない。2作目で慣れも出てきたのか、むしろスパイダーマンとして活躍している間はずっとペラペラと軽口を叩いており、楽しそうですらある。その快活な感じがアクションの爽快感も相乗して観客にも伝播し、我々は親愛なる隣人を益々好きになる。アイドル的とすらいえる。
そして、『アメイジング・スパイダーマン2』はNY市民の活躍も忘れない。タイムスクエアで消防士とスパイダーマンが手を組んでエレクトロに放水するシーンはユーモラスでありながらも、彼らの助けなしではエレクトロ相手に歯が立たなかった事をさりげなく示す。あくまで特殊能力を持たない、一般人ありきのスパイダーマンなのだ。ライミ版からもこういった描写は散見されたが、このような謙虚な姿勢も好感を抱く大事な要素となっている。
しかしそんなスパイディに好意を持っているのは我々観客だけでなく、ヴィランも執拗にスパイダーマンを追いかける。元々スパイダーマンの熱烈なファンであったエレクトロはとある誤解から彼に対してストーカー的な憎しみを抱き、ピーターの親友だったハリー=グリーン・ゴブリンは己の命のためにスパイダーマンの血を渇望する。スパイダーマンはヒーローとしての責務を果たしたばかりに彼らに命を狙われるハメになる。己が生み出してしまった化物と戦う事が本作における通過儀礼である。
なんだか、必要以上に甘く切ない。プライベートでも恋愛関係にあるアンドリュー・ガーフィールドとエマ・ストーンだからこそ醸し出せる雰囲気*3かもしれないが、少し様子がおかしい。そしてこの違和感の正体が分かってしまったのは、イギリスへ留学するグウェンにとある決意を述べるために橋の上で交わされた、素晴らしくロマンチックなシーン。「あ、これ、[グウェン死ぬ]…。」これに気付いた瞬間このロマンチックなシーンは別の意味で僕の胸を強く締め付ける事になり、そして悲しい事にこの予感は当たってしまう*4。クライマックスでスパイダーマンが飛ばす糸は手の形となり、切なく美しい。2作目にしてやっとマーク・ウェブがこのシリーズに起用された意図が判明された。
いくらスパイダーマンである事を楽しんでいたピーターとはいえ、この時ばかりは心が折れてしまう。もう、辞めてしまおうか。しかし、かつてない絶望に見舞われたピーターを鼓舞したのも正にグウェンであった。彼女の言葉を聞いて立ち上がり、スパイダーマンは生まれ変わる。そしてスパイダーマン不在の間NYを守ろうとしていたのはやはり一般市民であり、彼らとともにスパイダーマンの真の戦いが始まる。ハンス・ジマーが新たに手がけたヒロイックなテーマ曲も相まって、そんな予感がする傑作なラストであった。
そしてそんな完璧なラストシーンをぶち壊したのが『X-MEN』とのよく分からないタイアップであった。FUCK!!!
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『X-MEN:フューチャー&パスト』★★☆
3Dにて鑑賞。さて、その『X-MEN』 シリーズも7作目。面白いんだけど、本数的に段々人にオススメしづらいシリーズになってきたなぁ…。ということで、まずはここで映画『X-MEN』シリーズのおさらいをしておきたい。
『X-MEN』シリーズがここまで長寿シリーズになってしまった全ての原因は『X-MEN ファイナル・ディシジョン』にある。『X-MEN』『X-2』を監督したブライアン・シンガーはそのままシリーズ最終作の『ファイナル・ディシジョン』に参加するはずだったが、撮影直前にして『スーパーマン・リターンズ』を撮ることになり降板。土壇場でメガホンを渡されたのはアメリカ版堤幸彦との呼び声が高い職人監督のブレット・ラトナー。『ファイナル・ディシジョン』は確かに三部作ラストに相応しいド派手なアクション映画となったが、突貫工事のように作られたため前二作にあった社会的なテーマ性は損なわれてしまった。
テーマ面だけでなく、シリーズとしても『ファイナル・ディシジョン』は問題を孕んでいた。一つは、散々前二作で仄めかされていたウルヴァリンの過去についての伏線が丸投げされてしまったこと。そのため開始されたのがスピンオフの『ウルヴァリン』シリーズでなのだが、これも伏線への期待値の割にはまあイマイチパッとしないシリーズで…。
もう一つの問題は、『ファイナル・ディシジョン』はシリーズの完結を急いだばかりにプロフェッサーXをあっさりと殺してしまったことだ。これまでの作品ではプロフェッサーXと宿敵マグニートーとの愛憎入り混じった関係の描き方が秀逸であったのに、ブレット・ラトナーは壁を猪突猛進に破壊するジャガーノートが如く全部ぶち壊してくれた。
これらの問題を解決するために開始されたのが『ファースト・ジェネレーション』から始まるもう一つのスピンオフシリーズである。当初の監督としてシンガーが復帰する予定だったがまたもや『ジャックと天空の巨人』というこれまたなんとも言えない微妙な作品のために降板、製作総指揮という立場に。代わりに起用されたのが本来『ファイナル・ディシジョン』を監督する予定であったマシュー・ヴォーンだった。
説明するだけでかなりややこしい製作状況ではあったが、結論から述べるとこの交代劇が功を奏した。シンガーが戻ってきたことでまたもやミュータントに社会的マイノリティの苦悩という重厚なテーマが反映され、かといって『キック・アス』のマシュー・ヴォーンが監督したことで辛気臭い雰囲気は避けられ、さながら60年代のスパイアクション映画のような極上エンタメ映画が完成した。『ファースト・ジェネレーション』は『X-MEN』ファンのみならず映画ファンからも絶賛され、映画秘宝の2011年ベストでも第4位に選ばれた。 がしかし、確かに『ファースト・ジェネレーション』は面白い作品であったが、シリーズとしてはまたもや問題を抱えることになる。『ファースト・ジェネレーション』の描写が、『ファイナル・ディシジョン』で描かれた過去パートや『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』の描写と一部異なるのである。これはどういうことなのか?出来の悪い『ファイナル・ディシジョン』と『ZERO』は無かったことにされてしまったのか?それとも成功した『スター・トレック』のリブートのように、『ファースト・ジェネレーション』シリーズは別時間軸という設定なのか?映画『X-MEN』シリーズのファンは議論に明け暮れることになる。
だが、『ファースト・ジェネレーション』の次に公開された『ウルヴァリン:SAMURAI』にて、今度は『ファイナル・ディシジョン』の出来事が正史であることが判明する。さらにファンは混乱したが、エンディングに嬉しいサプライズが。死んだはずのプロフェッサーXとパワーを失ったはずのマグニートーが復活してウルヴァリンの前に現れたのである!
「これからの戦いには君の力が必要だ」とのプロフェッサーの言葉にファンは大興奮。ついにスピンオフシリーズと本シリーズが交差する時が来たのか!なぜプロフェッサーXとマグニートーは復活したんだろうか?敵対関係にあった二人はどうして力を合わせることになったのか?バラバラになったX-MEN達はどうやって再集結するのだろうか?既に制作発表された『フューチャー&パスト』に向けファンは胸を躍らせた。『ウルヴァリン:SAMURAI』は『フューチャー&パスト』に備えた長い予告編だったのだ!
そして約10ヶ月という、長いような短いようなインターバルを期間を経て、満を持しての『フューチャー&パスト』の公開である。ついに監督もブライアン・シンガーに戻り、懐かしいオープニングとテーマ曲まで復活を果たし、それだけでファンには感涙ものである。
X-Men: Days of Future Past Opening Titles - YouTube
今度の舞台は未来から始まり、エレン・ペイジ演じるキティ・プライドの能力でウルヴァリンは1973年に飛ばされる。なるほど、ベトナム戦争も終わりにさしかかった時代で、今度はパリ和平協定の裏でミュータント抹殺のために政府が暗躍していたことを知る。このシリーズは実在の歴史的事件をストーリーに組み込むのが巧妙で感心してしまう。また、シンガーが戻ってきたことでまたも差別的描写も描かれ、プロフェッサーXが脊髄薬と称されるドラッグっぽい何かを打ち込むのも衝撃的だった。新キャラ、クイックシルバー*5が活躍するシーンはかっちょいいし、さらには未来と過去をカットバックして描くクライマックスには圧倒された。いやー、面白かった面白かった!
…と言いたいところだったが、ちょっと待て。僕が一番見たかった部分、つまり『SAMURAI』と『フューチャー&パスト』の間の物語が丸ごとカットされているぞ!しかもタイムスリップものにしたことで全シリーズを繋ぎなおしたかと思いきや、またもや『ファイナル・ディシジョン』や『ZERO』と異なる描写も出てくる!しかもシリーズの矛盾を勝手に解決したことにしてるし!そもそもエレン・ペイジの能力が今までと全然違うじゃん!なんだよこれ、『ヱヴァQ』かよ!*6
と、いうところで、作品としては面白かったものの、シリーズの整合性という面ではまたもやストレスを感じる作品となってしまった。そして、マーベル映画恒例のエンディング後には次回作『Apocalyps』の映像が続き…っていつまで続くんすか、このシリーズ…。
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『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』★★☆
最後にこちらも世間的に異常に評価が高い作品。世評ほどではないが、王道を突っ走る物語に僕もついつい熱くなってしまい、劇場で二回見る程度には好きになった。1回目はIMAX3D、2回目は2D。
地球人ピーター・クイルは子どもの頃、母と死別したその日に盗賊集団ラベンジャーズを率いるヨンドゥに拉致され、以降銀河を股に掛けるトレジャーハンターを生業にしている。今日も秘宝(オーブ)を求めて遺跡を巡るが、同じく秘宝を求める敵に捕まってしまう。
「お前、名前はなんと言う!」
「ピーター・クイル、またはこうも呼ばれている…スター・ロードってね!」
「…誰?」
引用元の『レイダース』ならばベロックからわざわざ「おやおやインディアナ・ジョーンズ博士…」と名前を読み上げてもらえるところを、この緩さ。しかし、このやり取りは単なるギャグを超えたメタギャグとなっているのが面白い。
というのも、実は『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の原作コミックはアメリカですら全く知られていなかったという。映画秘宝やパンフレットに掲載されている光岡ミツ子の解説よると、そもそも最初に「ガーディアンズ」がマーベルコミックスで登場したのは1969年であるが、この時の「ガーディアンズ」は現在のものと繋がっているのは名ばかりで全くメンバー構成も違っており、映画版の元となったチームは2008年に誕生している。
当時コミック世界(ユニバース)にスペースオペラを展開しようと考えていたマーベルは、ダン・アブネットとアンディ・ラニングのイギリス人ライターコンビに「ガーディアンズ」の再編成を依頼、その際コミックオタクであった二人はこれまで誌面に数回程度しか出ていないどマイナーなメンバーを選出したのであった。「スターロード…誰?」というのはまさに観客の台詞だったのである。
劇中、スターロードはオーブを巡る冒険で、育ての親に復讐を試みる<暗殺者>のガモーラ、妻子を殺された過去を持つ<破壊者>ドラックス、アライグマに人体改造された<賞金稼ぎ>ロケット、同じセリフしか言えない<木の怪物>グルートの4人と凸凹チームを結成する。スターロードよろしく、5人の負け組の物語をまとめあげたのが監督のジェームズ・ガン、というのもこの作品の肝だ。
ガンは大学在学中にトロマ・エンターテイメントでアルバイトをしてそのキャリアをスタートさせる。トロマはB級ホラー映画の専門会社で、いわば映画という名の銀河の端っこにあるような会社だ。後にガンは脚本を手がけた『スクービー・ドゥー』の大ヒットにより一躍売れっ子となる。その後も『ドーン・オブ・ザ・デッド』や『スクービー・ドゥー2』(いずれも脚本)などでヒットを飛ばすが、初監督作の『スリザー』が大コケしたことで一転し、ハリウッドから干されてしまった。業界の地獄を見たガンだったが、4年後に監督した『スーパー!』がカルト的評価を獲得し、この度ディズニー/マーベルという映画宇宙のセンターで再スタートを切ることとなった。
このジェームズ・ガンの起伏に富んだキャリアは、ガーディアンズ達の人生と重なる。だからこの映画は熱い。スターロードは仲間を集めてスピーチをする。
俺たちがどういう風に見えるかわかるか?負け犬だ
俺たちはいろんなものを失ってきた。
故郷。家族。普通の暮らし。
俺たちは人生からもらうものより奪われるものの方が多いかもしれない。
だが今日は違う!人生は俺たちにチャンスを与えてくれてるんだ!
人助けをするチャンスを!
自己中心的だった負け犬集団、ガーディーアンズがヒーローになった瞬間である。負け犬から再起を図れたガンだからこそ書けたセリフだ。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』はジェームズ・ガンにとっての『ロッキー』だったのだ。
知名度が皆無であった『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』が、ジェームズ・ガンの不死鳥精神に乗って世界中でメガヒットを飛ばし、今年最も話題になった映画の1本になったのはなんとも喜ばしいことだ。クライマックスで冒頭の敵と再び鉢合わせたピーター時のやりとりも意味深い。
「お前は、スターロード!」
「やっとその名で呼んでもらえた!」
ピーターと同じく、今ガンはニヤリとした笑みを浮かべているだろうね。
以上で今回の記事を終えます。
実は今回の記事、5月の『X-MEN』公開時に投稿する予定だったんですよ…。なかなか書き終わらずにダラダラしていたらついに『ガーディザン・オブ・ギャラクシー』まで公開されて、その下書きも準備してたら…って気が付いたら半年以上経ってました。自分の遅筆っぷりには呆れるばかりですね。
そして卒論がやばい。*7
*1:感想と呼べるほどのものではありませんが…
*2:『マン・オブ・スティール』はまだ人助けのシーンがあったけれども。そして『マン・オブ・スティール』は破壊という快感を味わわせてくれる映画なので、僕は好きです。
*3:アンドリュー死ね!
*4:昔Wikipediaで原作について色々と調べて[グウェンの退場]を知ってしまっていた事も要因です…。
*5:元も子もないことを言えば、クイックシルバーとお別れしないで最後まで連れて行けばこの映画で描かれていたすべての問題が解決した気がする。最強すぎる!
*6:『ヱヴァQ』は僕の2012年ワースト映画第10位です。
*7:提出は12月16日。こんなクソ忙しい中この記事を書き終えたのは試験期間中に部屋を掃除してしまうあの現象と似たものを感じる。